発表をしないで参加してもいい

今日は情報処理学会自然言語処理研究会(NL研)の参加のために大阪大学吹田キャンパスへ。最初豊中キャンパスかと思って行きかけたが、吹田のほうであった。日野キャンパスではなく南大沢キャンパスに行きがちな他の人のことを言ってられない……。

実は人生で初の大阪大学訪問だったのだが、行きがけに大阪万博会場の太陽の塔も初めてリアルに見た。途中で [twitter:@moguranosenshi] くんと偶然合流したので、会場までは案内してもらったり。

そういえば、大阪で12月に開催される自然言語処理のメジャーカンファレンスである COLING の併設ワークショップとして Young Researchers Symposium on Natural Language Processing というのが開かれるようで、博士後期課程の人(あるいは博士後期課程に進学予定の人)はこういうので発表してもいいのではないかな、と思ったりする。NLP 若手の会が企画したものだそうだが、若手の会として国際ワークショップを企画する、というのはなかなかおもしろい。

NL 研の配信は2日目は1日目と同様にすればいいので、問題なくできた。現在 NL 研では常時配信担当可能な学生を2名引き継いでおき、うち1名がアルバイトとして配信を手伝ってくれている(配信担当幹事として、小町も可能な限り同席している)のだが、音楽情報科学研究会(SIGMUS)の話を聞くと、配信担当のアルバイトは置いておらず、代わりに6人程度の運営委員を配信担当としてプールしておき、毎回の研究会では誰かが行くようにする、という運用になっているらしい(そのため、アルバイト謝金は発生せず、交通費・宿泊費は所属組織から出るため、研究会から出す必要がない)。

それはそれで運営委員の負担が大きいのでどうなんだろう、と思わなくはないが、現在のやり方では配信担当幹事の負担が大きいので、持続可能な体制にするためにはそのようにしたほうがいいのかな、と思ったりする(配信担当幹事の負担が極端に大きいと、外れくじのような仕事になってしまうので)。SIGMUS では、上記のような体制ですでに3年程度回しているらしく、うちも研究室の学生に手伝ってもらってアルバイトをするようになって2年経つが、自分が幹事から外れた瞬間に引き継ぎ不能になるので、今年度の最後の研究会では持続可能な配信体制について検討し、来年度1年かけて試行と引き継ぎを行わないとな、と思う。

お昼休みはローカルオーガナイザーの [twitter:@Yuki_arase] さんにご案内いただいて、うちの研究室の学生たちと阪大病院内の展望レストランへ。「これが白い巨塔の舞台か〜」なんて話したりしていたが、入り口に白衣をかけるクロークのスペースがあったり、食べているときも突然客の1人が床に倒れこんだり(恐らく医療関係者と見られる近くの人たちが対処したり)、ドクターヘリが屋上に到着したりと、さすが大学病院。

[twitter:@kanakokomiya] さんと地方国公立大学の話で「わかる〜」という話題になったが、首都大もいわゆる旧帝大のような大学院重点化された大学ではないので、博士後期課程に進学する学生がいないという状況で、どのように研究を持続可能な形で発展させるか(国際会議や論文誌に持っていけるような形にしていくか)、ということを考えないと、と思ったりする。首都大は、博士前期課程に進学する学生もいない、というわけではないので(うちの研究室に限ると、8割がそのまま進学している)、内部進学する学生にとってはB4からM2までの3年間でどうするか、ということなのだろう。(もっとも、外に見える業績は結果にすぎないので、研究をしていく過程で学生がなにを学んでいくか、ということが最重要)

昼一の招待講演「瞬きから探る脳の情報分節化機構」が、@Yuki_arase さん超おすすめだったが、期待どおりものすごくおもしろかった(トークのあとの質疑が10件以上続いて、時間いっぱいで打ち切らないといけなかったくらい、というのでも盛り上がりが分かるだろう)。ヒトは1分間に3回程度瞬きをすれば目の水分補給としては大丈夫らしいが、個人差はあるもののヒトは1分間に20〜60回も瞬きをしているので、水分補給以外の目的があるだろう、という話。こちらに書かれている内容と同じもののようだが、デモがあったのでとても印象的。

実際、視覚的な情報処理(ストーリー理解)に重要な働きをしていて、瞬きをするタイミングはストーリー展開と密接に関係しているそうで、マジシャンは観客の瞬きをするタイミングをコントロールしていて、観客が目をつぶっているときにタネを仕込んでいるので気付かれない、という話は、なるほど!と思う。複数人で話しているときも、瞬きの同調現象があるらしいが、アンドロイドを使って実験したり、とにかく実験のアイデアがおもしろい(笑)

話を聞いていて、自閉症スペクトラムの人はどうなんだろう、と思ったが、しっかりそれに対する回答も用意されていて、自閉症スペクトラムの人の場合は瞬きが同調しないらしい。しかし、自閉症スペクトラムの人が相手の目を見ていないわけではないようで、どうもヒトは目だけを見て瞬きを同調させているわけではないようで(アイトラッカーで調べたら、他の人と同じように目を含めた顔全体を見ている)、やはり心の理論と瞬きが関係してそう。(同じ理由で、子どもはどのように瞬きの同調を獲得するのか、ということを質問させてもらったが、子どもは15歳くらいまで生理的には瞬きをほとんどしなくてもいいそうで、徐々に瞬きの仕方を獲得するらしい)

言語だと、こういうのはやはり幼児の言語獲得の研究におもしろい実験設定が多いような気がするが、どのような実験をデザインするかもコツがあったりするのだろうな。そういう発想力を身に付けたいものである。

午後の配信後に片付けを終えて関係者だけになり、帰宅は [twitter:@chokkanorg] さんと同じ方向だったので、2人でご飯を食べたり。研究室運営のこととか今後のキャリアのこととかプライベートなこと(子どもについて)とか話す。

学生と一緒にいることに時間を使わないと、いくら言おうと(博士後期課程に)進学したいと思わないのでは、という話が重くのしかかる。自分などはこの日記でも仕事に使える時間が少ないことをアピールしているし、こういう状況では進学したいと思わないよなぁ……。確かに NAIST では松本先生は基礎勉強会でも出てくれていたり、アポなしで19時にお部屋に行っても嫌な顔一つせず相談に乗ってくれたし、ああいう環境だとみんな(止めても)博士後期課程に行きたくなるのだろうな、と思ったりする。今の自分にできることといえば、(国内の)学会に関する仕事は最小限にさせてもらい、共同研究も長期間お付き合いいただけるところに限ってがっつりやる、というようにするくらいだろうか。(単年度でないと稟議を通しにくい、というのはあるのだろうけど)

また、最初の国際会議の投稿はしっかり面倒を見てあげて、どこでもいいから参加して楽しいと思ってもらう、そうしたら研究も楽しくなるのでは、という話が個人的にはとても納得。自分自身、修士のときは M2 で発表なしで ACL自然言語処理のトップカンファレンス)に参加させてもらったのが大きなターニングポイントで、D1 のときの初めての査読付き国際会議もランク C の国際会議だったがそれをきっかけに論文が書けるようになっていったので、最初は発表なしでも査読なしでもなんでもいいから、参加して楽しんでくる、というのが重要、というのは頷ける。

うちの研究室でも、現在の M2 の代は研究室全員で NLP 若手の会シンポジウムに参加した代だし、今でも新入生は全員 NLP 若手の会シンポジウムに参加してもらっているのは、やっぱり学会に行くのが(あるいは自然言語処理のコミュニティにいるのが)楽しい、と思ってもらうのが一番だと考えているからである(博士後期課程にもなると、特に学内ではほとんど知り合いがいなくなるので、学外とのつながりがとても重要)。

今年は COLING という自然言語処理のメジャーカンファレンスに研究室全員で行くことにしたので、行った人のうち少しでもまたこういう場所に来たいな、と思う人が増えるといいなと思っている。参加費と旅費を合わせると200万円くらいになるが、研究室として COLING クラスの国際会議に投稿したいと思うようになるために必要な投資のつもりである(計算機のような箱モノに使っても数年で陳腐化するし、研究費は学生に投資するのがもっとも効率がいいと思っている)。

あと、実は来年は台北IJCNLP 2017という国際会議(アジア圏の自然言語処理の国際会議としては、一応トップという位置づけ)が開催されるのだが、この国際会議はレベルも手ごろだし、日本人的には行くと観光や食事など楽しめるところで開催されるので、来年はこれにみんな投稿して、今度は発表で大挙して行きたいなと思っている。タイのチェンマイで開催された IJCNLP は、開催期間にお祭りが開催されていたこともあってとても楽しかったし(助教になって初めてがっつり論文の添削をした国際会議でもあり、これまで参加した国際会議の中でももっとも記憶に残っている)、きっと楽しい国際会議になるだろう。(さすがに海外の国際会議は、聴講だけの人は旅費を支援したりはしないけど)