ハッカーは博士号を取れない

今日は午後から新宿でシンポジウムのパネリストを頼まれていたので、定例の論文紹介はキャンセルしていたのだが、どうしても外せない委員会の用事があったので、出勤(教授会は欠席させてもらったのだが)。

朝はコース長とコース運営に関する打ち合わせ。コースの内規集がどこかにまとまっているとよいのだが、なにかあったときに(内規を最後に改訂された担当の方が)送ってくださらないと、内規が存在するかどうかすら分からないのが悩みの種。コース内 Wiki でもなんでもあればいいのだが、いろいろ反対意見もあって現在の形に落ち着いているようで、個々人で管理するしかないようだ。

昨年度の評価を返していただいたところ、研究はS評価で、教育や社会貢献、大学運営はA評価。これで給料が大きく変わったりするものではないそうで、恐らく肩たたきのための評価制度なのだろう。NAISTは研究業績でボーナスが2倍くらい違った(最終年度はかなりもらえた)ので、がんばりがいがあったのだが、そういう制度ではないようだ。

昼から CAUA という伊藤忠 CTC ソリューションの教育関係のイベントを企画している組織の設立15周年記念シンポジウムに参加する。株式会社 mohka mokha の [twitter:@kojiando] 先生からパネリストの打診を受け、おもしろそうだからとお引き受けしたのである。(2014-07-03 typo 修正。陳謝)

最初の基調講演は釜江先生による日本のインターネット導入の裏側の話。東京に一極集中しているのはよくないのではないか、という指摘、全くその通りだと思う。あと、外部評価委員などで意見を言うと「そんなことができるのは東大や京大だけです」と言われるそうだが、やる前から腰が引けているなぁ。自分も首都大で試したい(確立したい)のは、地方の国公立大学でも持続可能な小粒でもピリリと辛い研究室運営方法であり、東京で言うと東大や東工大でないとできない、というようなやり方はスコープ外である。

あと、Stanford では学生を RA で雇うのに時給$50くらい出していて、これなら同じ金額でポスドクを雇った方が研究できる、と不満を漏らしたら、他の教員から「学生に RA でお給料を出すのは、労働や研究成果の対価ではなく、学生という身分に対して出すもので、将来のことを考えて出すのだから、成果が挙がらなくてもかまわないから学生を雇ってほしい」というようなことを言われたそうだ。やっぱり日本は「学位を得るのは本人だからお金を払うのは本人」というような意識があるので、これでは優秀な学生は日本にはなかなか来てくれないだろうな、と思う。

2番目の基調講演は後藤先生によるこれまた日本のインターネット黎明期の話。こちらは裏の裏のネタばかりで抱腹絶倒。表に出せないネタなので、資料には入れていません、という内容ばかりだったので、ここでご紹介できないのが名残惜しい(笑)NTT研究所時代の話しだが、若手が不満を言っているとき、単なる不満なのか、それとも上の理解がないのかはちゃんと見極める必要があり、後者の場合は適切に処遇しないといけない、という話が(たぶん書いてもいい内容の中で、いちばん)印象的であった。

パネルディスカッションは、前述のお2人に加えて砂原先生と自分。砂原先生も、最初はスライドを使わないかとお聞きしていたのだが、蓋を開けてみると30枚以上のスライドが。パネル前の持ち時間は1人10分だったが、当然のごとく大幅に超過(笑)慶應のメディアデザイン研究科は1/3が留学生で、MITメディアラボを蹴って進学してくる人もいるらしい。2年半の修士で海外に半年以上留学することを義務付けているコースがあるとか、研究室をなくして誰にでも聞きにいけるようにしたりとか、意欲的な研究科である。

1986年の UNIX シンポジウムで、「ハッカーは博士号を取れない(論文を書かない)」「ハッカーは教授になれない」だとかいう話があったそうで、クスリとする。あと、「逮捕されたら学位をやる(法律が現状に追いついていなかったので、意味のあることをしたら、現在では当然のことでも。すぐ違法になっていた)」という時代があったそうで、確かにそのころのようなワクワク感は(少なくともネットワーク界隈では)もうないだろうなぁ。

自分はといえば、いつものようにインターンシップの話をしてみる。来年度から就職活動が後ろにずれる影響で、インターンシップが今年は流行しているそうだが、インターンシップ経験者としては、経団連でもどこでもいいから、用語を統一してもらいたい。個人的には、2週間以下のものは全部「会社説明会」という名前に変えてもらった方がいいと思う。

就職活動の開始時期が遅くなると学業の時間が確保されるかと思いきや、インターンシップに時間が取られる、という懸念はあるだろうし、その通りだと考えられるのだが、そもそも医学部や歯学部、看護学部では長期間の実習をしないと卒業・就職できないのと同様、他の学部でもそれなりの期間インターンシップをするようになればいいと思うし、その結果就職活動の開始時期が卒業の直前の数ヶ月、あるいは半年程度(要するに中途採用の場合と大きく離れないよう)になっていけばいいんじゃないかな?

卒論や修論の目処が立ってから就職活動がスタートするべきだし、論文が書けそうになければ就活がスタートできないようになっていてほしいと思うのである。

世界的にはいま骨のある若者は、ネットワーク系ではなく(自然言語処理機械学習を含めた)人工知能系にいるんじゃないかなぁ。