NAIST 自然言語処理学講座的大学院時代の過ごし方

研究室に行って id:smly くんに(昨日聞かれた)プロジェクト実習の追加の話をしたりなど。そうこうしていると、ご飯一緒に行きませんか、と言われたので shirayuくん、junta-m くんの4人で回転寿司を食べに行く。

NAIST で出会いはありますかという話もあったりしながら(自分の答えとしては、外に出た方が見つかりますよ、というものだけど(笑))、大学院生活どう過ごしたらいいのかという話が出たので、ここでも再掲しておく。一応 NAIST自然言語処理学講座、つまり松本研ならこんな感じかな?というガイドラインなので、NAIST でも他の分野のことは知らない(分野によって研究スタイルはかなり異なる)し、自然言語処理でも他の大学はどうか分からない(東大とか京大とかと比べると、文系出身者が1-2割いるということに加え、分野外から来る人が過半数というのは大きな特徴だと思う)ので、この話を一般化したいわけではない、ということは最初にお断りしておく。

まず最初に修士のうちはどういうイベントがどういう順番であるかについて述べ、それから注意点(心構え)をいくつか挙げる。前者は誰が書いてもたぶん同じであるが、後者は多分に自分の考え(こうしてよけばよかった・これはやってよかった・これはやるべきではなかった・これはやらないでよかった)が入っているので、自分にとってはこうだったが、他の人もそうだとは限らないので、頭から信じたりしないように。

さて、NAIST に入学すると、夏前までは文系出身の人は当然のことながら、理系出身でも情報系ではない人は授業で苦しんだり、もしくは情報系出身でも(取らなければならない別の授業が増えるので)単位獲得に苦しんだりするのだが、大体松本研では夏休みの1-2ヶ月で最初の研究テーマに取り組む。インターンシップに行く人は行くのだが、行こうが行くまいがとにかく9月末に開催される研究室の合宿で成果報告会が開催されるので、そこでなにか話す内容を仕込むのである。そこで研究室の他の人たちにいろいろコメントをもらって、10-12月くらいに学内の研究発表会で発表する、というのが基本の流れである。

就職活動する人は年明けから一時研究を中断し、4-5月くらいに合流するのだが、博士後期課程に進学予定の人は、毎年3月に開催される言語処理学会年次大会で発表する、という感じ(原稿は日本語4ページ)。さらにやる気がある人は、その内容を元に英語で論文(4-8ページ)を書き、国際会議にも投稿する。2月〆切くらいの国際会議に投稿してめでたく採択されれば、M2 の5月〆切の学振の申請書にも業績として書けるし、実際 M2 の段階でそれなりの国際会議に採択される人は(少なくとも松本研では)あまりいないので、研究生活的には非常によいスタートになるだろう。

運悪く、もしくは努力届かず落ちたらまた別の国際会議に出し、採択された段階で今度は論文誌(日本語8ページ強)への投稿を目指すことになる。論文誌までなったらその研究テーマは一段落で、次のネタをまた始めるという感じ。こういうふうに、大学院での研究は、研究室内の発表→国内の研究会(全国大会)発表→国際会議発表→論文誌発表までで1サイクルであり、博士卒業までにこれを何サイクル回せるか、という話である。

大体修士論文が曲がりなりにも書けたら1サイクルは(遅かれ早かれ)回せるし、1サイクル回せたら NAIST はとりあえず博士号は取れる(けっこう基準的には緩い)ので、あとはどれだけ積み増せるか。松本研はこれを最低2サイクル回すのが望ましいそうで、そうすると博士号取得までに最低限やるべきことは、修士論文の研究テーマでネタ1つ、博士に進学してから別のネタでもう1つ、というところである。(とはいえ、最低限をクリアしたからと言っても博士号がもらえるだけなので、そこから先就職先を探す段階になると、他の大学を卒業する人たちとの比較になるので、研究職が希望であれば、3回4回と回せるなら回したほうがよい)

もちろん最終的には博士論文を書かないと卒業できないのであるが、これは大体夏休み(明け?)くらいからみなさんしこしこ書いて、12月にひとまず副査の人に送れるくらいのものができあがっているものらしい(自分もまだ書いていないので伝聞推定)。松本研の博士の人は論文を英語で書くことになっている(修士の場合は言語の指定はないので日本語で書く人のほうが多いが、留学生を筆頭に英語で書く人もいる)そうで、それまで発表した論文を参照しながらがんばって書くようである。

それでは注意点について。自分は入学前から博士後期課程に進学するつもりで、周囲にもそう言っていたし、実際そうしたので、博士に進学するつもりの人向けの注意点を三つ書いておきたい。

一つ目は、研究テーマを焦って決めないこと。これは松本先生からも毎月のように言われていたのだが、入学した直後4月に手をつけたテーマをその後 D1 までやっていて、その後変更したので、実際言うことを聞いておけばよかったかもなぁと思った。聞いたら「おもしろそう!」というテーマは山ほどあるので、一つ二つ見ただけで決めないで、右左分かってから決めたほうがよい。「なにをやるか」も大事だが、人生有限なので、「なにをやらないか」も大事である。

二つ目は、お金に惑わされないこと。「武士は食わねど高楊枝」という言葉もあるが、そんなにお金に困っていないなら、自由に使える時間を大切にしたほうがいい。TA/RA やれば奈良で暮らすには十分なお金がもらえるし、親に頼らず生活する人(自分もそうだった)は RA や共同研究をしてアルバイト代をもらう他に選択肢がなかったりもするが、「お金ももらえて研究もできて」という耳障りのよいうまい話は往々にして裏があったりする(いや、ないのもあるけど……)し、TA にせよ(共同研究の) RA にせよ意外と時間を取られるものであり、特に M2 から D1 にかけては研究がどんどん進んで楽しくなっていく時期なのに、そういう時間を金策に使ってしまうのはたいそうもったいない。自分は学振取ってから TA/RA やらなくてよくなったので、お金の問題以上にそれは大きかったと思う。

三つ目は、友だち(や先輩、後輩、先生方)を大事にすること。大学院生活、そしてその後の研究者生活を考えると、どんどん視野が狭くなりがちで、そういうときに違う視点の人と損得抜きで話せるというのは本当に貴重である。また、同じ分野でもそもそも研究人口が少ないので、大学を越えた付き合いというのも重要になってくる。研究会や全国大会、国際会議や合同研究会などで知り合った外の大学の人とつながっておくと(いまははてなダイアリーTwitter もあるし、ゆるやかにつながる手段には事欠かない)、就職活動のときにも参考になるし、「彼また通しているのか、すごいなぁ」と刺激にもなる。自分と全く同じテーマで研究やっている人なんて、世界中で10人もいない、という状況に往々にしてなるので、同じテーマで盛り上がることを考えるよりは、少し違うけど彼らもがんばっているから自分もがんばろう、そういう気持ちがないと長い生活乗り切るには大変だと思った。

あと大学院生活1年弱残っているが、不満な点はほとんどなかったので、松本研に来てよかった。5月30日は NAIST のオープンキャンパスなので、受験を希望する人はどうぞ。百聞は一見にしかず、特に都会から出てくる人は5年は長いので、ちゃんと住環境を見た方がいいと思う……。

(2013-08-04 追記) 首都大で自然言語処理の研究室を立ち上げたので、一般的な自然言語処理の大学 (院) 生の生活についてまとめてみた。参考にされたし。