中1に学問せよと叩き込む

例によって午前中は上の子の英会話。保育園の1つ下の子で、毎週土曜日に3時間英会話のレッスンに通っている子がいると聞いたが、5歳で3時間も集中力が続くのか?と疑問に思ったりする。まあ、ずっとレッスンをするのではなければよいのだろうし、上の子の英会話も半分くらいはお遊戯なので、ほぼ保育である。

THE 名門校という番組で武蔵の特集をしていたそうで、視聴する(11/22の夜までは TVer で見られるらしい)。新しくなった校舎も紹介されていたが、やはり教員や生徒の考え方がいかにも武蔵という感じで、良い(そこまで変な切り取りはない)。

中1で中学に入ったばかりの生徒たちに「君たちは学問をしなさい。学問とは原典に当たることだ。孫引きではなく、自分の目で見て自分で考えなさい」ということを繰り返し授業で説いたりされたのだが、まあそういう授業ばかり受けていると、最終的に研究者になる人が多いと言うのも納得である(絶対数で言うとそもそも生徒の数が多い開成や麻布の方が多いかもしれないが、卒業生の1割くらいが大学で教員をしている、というのは割合で言うと結構高いと思う)。

ちなみに番組に出てきた国語(漢文)の教員の A 部は同期で、早稲田に行ったところまでは知っていたが、Researchmap によると博士号を持っていて大学の非常勤もしているようで、彼に限らず自分たちが通っていたころも大学の非常勤と掛け持ちしている教員は多かったし(最低週1日は「研究日」と言って中高の仕事をオフにできる日があったせいかもしれない)、武蔵を辞めて大学教員になる人も少なくなかったし、そういう大人たちがいる環境で育つ、というのも多感な年頃には意味があるのだろうと思う(研究者としての世界も持っている人が中高で教えていたら、特に受験に特化させよう、という気持ちはないだろうし)。

そういえば、高校生のときは、学校で集まって受験勉強しようとしたら「大学受験のための勉強なんてつまらないことは学校でするものじゃない。やるなら家でしなさい。学校は学問をするところだ」と言われて結局禁止されてしまったのだが、まあそういうことをしていたら「東大合格者数」なんて指標は下がるだろうし(武蔵は昔から「進学者数」しか公表していないが)、そういう分かりやすい指標を向上させるためのハックをするような学校でもないし、これはこれでいいんじゃないかなとも思ったりする(実際、東大に進学しているかどうかは別にして、学問をしている卒業生は多いわけだし)。自分も、特に東大に入りたいと思ったことはなく、学問をするなら東大が一番(図書館等の)環境がいいかなと思って進学したし、東大受験のための勉強は特にしなかったしな……。

そう思うと今の情報系の(トップ)国際会議至上主義や精度(SOTA: state-of-the-art)競争みたいなのは、武蔵で叩き込まれた精神とは真逆の方向だし、自分としてはそもそもあまり興味がないのであった。よい研究をした結果として著名な国際会議で発表するとか、優れた手法を提案した結果 SOTA になったとか、そういうのは分かるけど、少なくとも自分は別に精度を上げたくて研究しているわけではないので……(解くべき興味深い問題を見つけ、それをうまく解くことができた結果、精度が上がる、という関係であり、問題を見つけることの方が重要)。

そういえば U 原から著者謹呈で送ってもらった「思考力改善ドリル」がおもしろかった。ちなみに U 原は高校の同期で、色々あったのだが進学先(東大の教養学部基礎科学科科学史・科学哲学分科)でも(自分は1浪1留していたが)偶然同期になった。先輩?にも武蔵の同期の F 吉がいたので、やはり武蔵生は哲学のように自ら考える、という学問が好きなのではないかな、と思ったりする。

思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ

思考力改善ドリル: 批判的思考から科学的思考へ

  • 作者:亮, 植原
  • 発売日: 2020/10/24
  • メディア: 単行本

さて、この本であるが、自分は野矢先生の「論理トレーニング」みたいな本の類書だと思うのだが、「論理トレーニング」を学部生の時に読んだら革命的におもしろいと思ったのに、いま読んだらそこまで感動しなかったのだが、こちらの「思考力改善ドリル」はとてもおもしろかった。学部1年生がアカデミックスキルを身につけるための演習、という趣なのだが、扱っている内容が科学哲学の基礎をふんだんに散りばめてあったりして、知らず知らずのうちに科学哲学の素養も身につく、というような形に構成されているのである(独習用に問題も豊富で、かつ解説も詳細なのも良い)。自分が大学院に進学するときに専門を変えないで科哲のままだったら、こういう本が書きたかった、と思っていた理想的な形の本で、これは脱帽である。

自分も生きているうちに1回くらいは本を書いてみたいものだが、いつになることやら……。