YANS 2014 初日: 自然言語処理の若手の会の新しいチャレンジ

今日からNLP若手の会第9回シンポジウム(YANS)である。ここ3年間は、PFIの[twitter:@hillbig] さん、京大の[twitter:@stomohide] さんと3人で共同委員長をしていて、1年目は @hillbig さんが、2年目は @stomohide さんが主担当をされたので、最終年度は小町が主担当、というわけである。

今年特に挑戦してみたことは、合宿形式のシンポジウムと、それに伴うハッカソンの開催である。情報科学若手の会という情報処理学会プログラミングシンポジウムの若手の会が毎年合宿形式ですごく密な交流をできるので、そのような会にしたいと思ったということと、ハッカソン(ご存知ない方もいると思うが、開発をするという意味の「ハック」と「マラソン」から作られた造語で、決められた時間で集中的に開発するイベント)的なイベントで大学・研究室・企業を超えた技術的交流のきっかけを作りたかったのである。

合宿形式での若手の会シンポジウムは、実は6年前に一度熱海で開催されているのだが、幹事が大変だったという反省があり、その後ずっと開催されていなかったのだ。今年は小町が委員長として3年目で慣れてきたというのもあり、以前(アクセスの悪さから、ほぼ合宿と言ってもいいような……)NAISTで開催した経験もあったし、うちの研究室の学生10名も研究室合宿を兼ねて参加することにしたので、実行に踏み切ったのであった。

また、今回は、筑波技術大学の学部3年生の人が参加したい、というので、彼も若手の会でサポートしたい、というのも、プログラム委員で話し合って決めたことである。筑波技術大学は国立の大学で、視覚あるいは聴覚に障害のある人だけが入学できる特殊な大学である。目が見えなくても、耳が聞こえなくても、あるいは喋れなくてもスムーズにコミュニケーションできる社会を実現することは、自然言語処理の研究開発に携わる人の社会的使命の一つであるし、こういう仕事をすることは、自然言語処理における "Do the right thing." だと思うので、実際に現状どのような技術をどのように使っていて、どういうことができるようになると嬉しいのか、ということを、(これからの最先端の技術の研究開発を担う)若手の我々が知るというのは、極めて重要なことだと思っている。

彼は特に目がほとんど見えないので、客室内の移動はよいのだが、会場内の移動や交流会(カラオケ)など、少し距離のある場合は補助が必要だそうで、うちの研究室の学生で、ポスター発表のない人たちで分担して補助に入ってもらった。あと、今回全く事前に気がつかなかったが、移動で補助するとき右手の肘のあたりを触ってもらって誘導するということと、男子トイレの中への誘導があったため、最初は女子学生も含めて分担を割り当てていたのだが、彼女の担当を急遽変更して、小町が入ることにした。こういうことは、実際にやってみないと気がつくことができなかったので、みなさんには予定変更で迷惑をかけてしまったが、来てくれてよかったと思う。

さて、そのシンポジウムであるが、横須賀にあるNTT研究所のお膝元でもある三浦海岸のマホロバマインズ三浦というところで開催された。他にも熱海など候補はあったのだが、ちょうど花火大会があったりするシーズンで、連休や週末にかかる日程で会議室を2泊3日抑えられ、予算的にも妥当なところは少なく、最後は5-6個に絞って議論し、プログラム委員で投票して決めたのであった。会場はプログラム委員の(今回一番の立役者である)NTT研究所のM崎さんが何回も下見に来ていただいていて、万全の体制である。

三浦海岸駅は品川から快特に乗ると1時間かからず、家から2時間ちょっとで到着。無茶苦茶便利。駅前のお寿司屋さんで、件の学生さんと、サポートに入ってくれたうちの研究室の学生の [twitter:@zawa9510] くんの3人でお昼を食べる。大根寿しというものを初めて食べたが、けっこうおいしい。筑波技術大学のお話をお聞きするが、卒研は教員1名に学生1名だとか。特殊な環境ではあるが、学生にとっても教員にとっても無理なく、うらやましい環境である(首都大の情報通信システムコースは、教員1名に2〜4名くらい)。こういう環境をちゃんと作れる余裕がある社会だといいな。

ホテルのシャトルバスで会場に行くと(歩いても10分かからないので、至便)、すでにプログラム委員が両手で数えるほど到着しており、受付を開いていた。領収書に押す「NLP若手の会」の印鑑を持っているのが自分だったので、むしろお待たせしていたようで申し訳ない。しかし、委員のみなさんがテキパキと分担されていて、完全にお任せできる感じですばらしいチームワーク。

今回の若手の会シンポジウムでは、企業の方からスポンサーを募る、ということにも挑戦してみた。5社から合計70万円のご支援をいただき、学生の懇親会費の無料化および宿泊費の減免にほとんど全て充当した。何人参加するかで宿泊費が上下するので、10回近く計算し直さないといけなかったのが手間であったが、2泊3日で22,000円のところを11,000円にできたし、5,000円の懇親会費を無料にできたので、大変ありがたいご支援であった。

受付を終えてオープニングをしたあと、交流会参加組とハッカソン参加組に分かれる。今回はハッカソンと交流会を一部同じ時間に開催したのだが、両方に参加したいという声があり、ハッカソンの全体説明だけ聞いて交流会に行けるように現地で対応。ちなみに今回の交流会のラインナップは

  • ビーチバレー
  • フットサル(最小催行人数に達せず中止)
  • 卓球
  • カラオケ
  • 花火

であり、昼間でないとできないビーチバレーがバッティングしたのであった(ただし、会社員の方など、ハッカソンに参加できない方もいらしらので、並行で開催せざるをえなかった)。

ハッカソンは、言語処理に関する好きなものを作るというオープンタスクに加え、ニュースアプリのユーザが表示した記事をどれくらい読むのか、という予測の精度を競う共通タスクを用意。こちらはスポンサー企業さんの白ヤギコーポレーションさんがカメリオというアプリをリリースされていて、そのサービスのログデータをハッカソン参加者に公開していただけたので、生の実データを触れるユニークな体験になったのではないかと思う。

チーム分けをどうするか最後までプログラム委員内ではまとまらなかったのだが、[twitter:@overlast] さんが見事な手際で誘導してくださって、なんとなくプログラミング言語別に分かれて参加する感じになった。ちなみにチームは

  • Java
  • Ruby
  • Python2
  • Python22
  • Python23
  • Python3

の6チームで、Python勢がとても多かった。特定の研究室でチームを作るのではなく、どのチームも大学横断で、いろんな学年の人がいて、企業の人も入ったりする混成チームとなり、結果的にとてもよかった。交流会が始まるまで、PFIの[twitter:@unnonouno]さんが学生さんたちにいろいろとアドバイス(ぶっちゃけ話?)されていて、一緒に参加しないまでも、こういう機会にいろいろ話が聞けるのはよいのではないかなと、手前味噌ながら思ったりする。

自分はというと、共通タスクで筑波技術大学の学生さんのお手伝いをしたのだが、Rubyでいつも開発をされているそうで、自分はRubyの勉強で四苦八苦……。あまりサポートできず、申し訳ない感じであった。最近ほとんど PythonC++ しか使っていないのでコーディングスキルも相当落ちていると思うが、ほとんど使ったことのない言語を数時間で使うのはなかなか厳しい。

夕ご飯を食べてから、再度ハッカソン会場へ。20人ほどいたので、けっこう人がいるなと驚いたのだが、[twitter:@tkng] さんは逆に少ないと感じられたそうで、これが「1万円も持っている」と思うか「1万円しか持っていない」と感じるかの違いか、と思ったりする。

各テーブルの学生さんたちと順繰りにお話し(邪魔)したりして、23時に一度お風呂に入ろうと思って部屋に戻ったところ、[twitter:@hitoshi_ni] さんが明日発表される学生さん(うちの研究室の学生ではない)を捕まえて、これは若手の会だから教育的にみんなでスライドにコメント・アドバイスを言おうではないか、と同室のメンバー(所属ができるだけバラバラになるように[twitter:@mima_tea] さんに部屋割りを決めてもらった)全員で発表練習に付き合う。思ったより盛り上がり、結局午前1時まで延々みんなでコメントをする(というか、自分は午前1時にギブアップしたが、さらに遅くまでやっていたようだ)。前日にこれだけのコメントをもらうと、発表練習の時間が取れず死にそうになると思うのだが、若いので大丈夫!というのはすばらしいことである。

初日を終わっての感想だが、社会人の方々がとても教育的で、学生に対する配慮が行き届いていて、素敵だなと思う。NLP若手の会のこういう雰囲気、ずっと続いてほしいなと思う。