高校生に検索エンジンの仕組みを教える

午前4時からひたすらスライドを作り、時間の調整をして完成。1年半講義をしてみて、どういうスライドならどれくらいの時間で準備でき、話すとどれくらいになるか、というのに見当がつくようになったのが、ここ最近最大の成果かもしれない。新しい授業の追加が終われば安定すると思うのだが、まだ毎年度新しい授業が増えるのでなんともいえない。

南大沢に行く前に日野キャンパスに寄り、120部印刷してからオープンキャンパスへ。半分印刷してもらっているので、部数は多いがそんなに多い印象はない(普段の授業の方が、50人しか受けていないがよほど印刷に時間がかかる)。写真は現在建設中の新実験棟の工事外壁に、インダストリアルアートコースの研究室でこういう工事外壁にアートを描く研究をしているところがあるそうで、情報通信システムコースの宣伝を描いてもらったものである。

10時半から各コースに分かれ、情報通信コースの午前中のガイダンスになるはずだが、人がやたらと多いような……。120人入る教室なのだが、座席がほぼ全部埋まり、10客ほど折りたたみ椅子を出したが、それでも立ち見がいた。カウントすると150人いたらしい。7月のオープンキャンパスはもっと少ないと聞いていたが、夏休みで参加しやすいからかなぁ。親御さんと一緒に来ている人もいれば友人と来ている人もいる。一人で来ている人は見た感じあまりいない。

コース長による情報通信コースの説明。情報理論の話をされたり。今回コース長も広報担当の先生も自分も情報系なので、通信系の話がほとんどできないが、今年度の入試で影響が出たりするのだろうか。(7月の模擬授業は通信系の話だったし、聞きに来ているのは高3より高2が多いから、影響があるとしたら今年度ではなく来年度?)

模擬授業では、前半に自分の学生時代の体験談を話し、後半に PageRank やウェブグラフ・ソーシャルグラフの説明と、検索エンジンがどのようなことをしているのかのお話。PageRank の話をすると、ちょうど学校で行列を勉強するよい動機付けになるかな、と思ったのだが、実はいまの高校3年生が学んでいる新課程では、高校で学ぶ数学から行列が消滅していたらしい(汗)10年に一度課程が更新されるとき、いつも行列(1次変換)と複素数複素平面)が交替するのだが、ずっと行列でいいんじゃなかろうか……。

終了後質問に来てくれた生徒は高2だそうで、映画やゲームの CG のような画像の研究がしたいのですが、とのことで、それは少なくともうちではない、と答えておいた(コンピュータグラフィックスは専門とする教員がいないので、授業も外部講師にお願いしているくらい)。システムデザイン学部でも、インダストリアルアートコースだろうと思うし、芸術系の大学ではなく首都圏の理工系学部だと、あとは千葉大(画像科学科と情報画像学科がある)かなぁ。

あと、SQLをインストールしたりするのにつまずいてしまうのですが(MySQLとかのこと?)、そういうことを勉強したかったらどうすればいいでしょうか、という受験生もいたのだが、もしそういうシステム管理について、授業の形で学びたいなら、専門学校に行くことをお勧めしておいた。うちの研究室の学生は、研究に必要とあれば数日でデータベースシステムをインストール・セットアップしてデータを入れて検索できるようにしていると思うけど、各自勝手に学んでいるのであって、大学では自分で調べる能力は養えると思うが、教員に教えてもらうことを期待しているのであれば、行くべきは大学じゃないと思う。(大学でも、アルバイト先やサークルで教えてもらったりする、というのは十分にありうるので、大学でもデータベースシステムの使い方を学べないことはないと思うが、少なくとも授業ではない)

模擬授業の最中から頭痛と吐き気が再燃。他の先生方とお昼ご飯を食べに駅の方まで出かけたのだが、早くお店に入りたい一心で、さらに午後吐かずにどうやって乗り切るか(そもそもお昼ご飯を食べているときに吐いてしまわないか)などということをぐるぐると考えるほど気持ち悪かったのだが、お昼を食べてみなさんと別れ、ドラッグストアで痛み止めを買って(偏頭痛のクスリは処方箋がないと売れないらしい)飲むと、少し落ち着いた。仕事のために痛み止めを飲んだのは、人生で初めてである(痛くて眠れないので眠るために飲んだり、抜歯後の痛みを止めるために飲んだり、といったことはあったが)。

午後の模擬授業は午前中とは違い、全部で50人弱。親子連れや友人同士の人たちもいるが、1人で来ているっぽい生徒も多く、アットホームな感じでよかった。「アダルトサイトがアフィリエイトのためにスパムページを作って」みたいな感じで実例を挙げて説明していたら、女子高生親子が何組か出て行ったのが気になるが(汗)しかし PageRank のようなアルゴリズムが効果的であった説明として、ウェブスパムは歴史的に重要な背景なので、こればかりは仕方ない。

授業が終わってから受験生が1人来てくれて、「おもしろかったです!」と言ってくれて嬉しかった。「数学や物理は苦手なんですが」と言っていたが、苦手でも必要なのでやりましょう、と激励(?)しておいた。今回の模擬授業は保護者の方も多かったので、「情報通信は女性がずっと働き続けられる職場なので、お勧めです。特に大学院まで行くとエンジニアや研究者としての就職ができるので、時間も融通の聞く職場で働けたりしますので、婚期を逃すなんて言わず、ぜひ大学院まで通わせてください」と強調しておいた(うちのコース、女子学生は男子学生より進学率が明らかに低い)。

夕方からは、自然言語処理分野で海外(アメリカ)留学や大学院進学を考えている社会人の人と、南大沢駅前のミスドで相談に乗る。海外留学についてよく調べているなぁ、なんて思ったりする(自分が20歳のころを考えると……)。

結局大事なのは自分が何を得たいかであって、極端に言えば、実質的に学べるなら肩書きには拘らないか、逆に肩書きが得られるなら実力的には成長していなくてもいいか、のどちらかということだが、実際はこのように0/1ではなく濃淡のある感じなので、最後はえいやと決めるしかないんじゃないかな。

個人的なお勧めは、学部から留学できるくらいお金持ちでなければ、基本的には大学院博士課程への留学を目指すことで、その準備期間として日本で修士課程に入るコースかな。博士課程に入るとき、修士の内容を2年分やるのが回り道に思う人もいるかもしれないが、英語力がそんなにない人にとっては日本語で一度学んだものを英語で学び直すのは、英語の勉強にもよいし、内容的にもよい復習になるし、日本の大学院教育を相対化することもできるようになるので、悪い話ではないように思うのだ。

あと、修士のうちにちゃんと論文を英語で書いて発表しておくことで、博士課程に進学しても論文が書ける証明にもなるし、日本の大学の指導教員も快く推薦状を書いてくれるのではなかろうか(そういうのに理解がある教員だといいけど)。

脱線で、飛び級している人は一般人から見ると優秀に見えるし、2年余分にやると才能がないように見えるので、どうしても気が急いてしまう、という話があったが、進級が早いか遅いか問題にするのは外野の人(たとえば人事部とか?)だし、一緒に仕事をする立場からするとその人の実力が問題なのであって、何歳であるかはどうでもいいんじゃないかな?(たとえば論文の査読をするとき、書いている人は匿名で査読することが多いので、年齢が若いから論文が通りやすい、なんてことはない) 個人的には、飛び級するくらいなら、浮いた時間を他のことに使ったほうがいいんじゃないか、と思うのであった。

とはいえ、自分自身、これほど浪人や留年をしてみないとそうは思わなかっただろうし、相談してくれた人の気持ちもよく分かるのであった。