言語理論とオートマトンをめぐる冒険

週末で出かけるところも特にないので、「白と黒のとびら」を読み終える。

最初なんでこんなタイトル?と思ったのだが、中を読んで納得。遺跡の謎を解く魔導師見習い物語なのだが、遺跡は部屋に区切られていて、白の扉を選ぶか黒の扉を選ぶかでどの部屋に飛ばされるかが異なっていて、正解を選ぶと外に出てこられるが、不正解を選ぶとどこかに飛ばされる(Wizardry 世代の方は * おおっと * とか * いしのなかにいる * だと思っていただければよい)という寸法である。勘のよい人はこれでピンと来たかもしれないが、オートマトンがある文字列を受理するかどうかがちょうど遺跡から脱出できるかどうかに対応しているのだ。物語の中に形式言語の話を入れ込んであるのは興味深い。世界の中に入り込めたら、暗号解読みたいな感じで楽しめるだろう。

ただ、自然言語処理の研究を始める前であれば絶賛したかもしれないが、実際離散数学など情報科学の一分野としてオートマトン形式言語を勉強した身としては、散文で書かれても形式言語のことは分からないと思うし(物語風だから仕方ないが、定義が不正確)、オートマトン形式言語について知りたいなら他の本を当たったほうがいいと思う。分かっている人でないと楽しめない気がするし、逆に分からない人にこれでオートマトンについて理解させようというのは、かなり無理がある。あくまで、これで勉強しようという人向けではなく、こういうことに関心のある人が手に取るものであろう。

中学生や高校生くらいで、こういう話に多少興味のある(人文系の)人が手に取ってくれて、こういう勉強が楽しいと思ったら、文学部ではなく理学部か工学部に行くと学べるよ、というのが伝わるといいなぁ。自分はこういう学問をやりたかったのだが、こういうことを考えているのは文学部だと思っていたので……(最終的には工学部に来たことになるわけだが、だいぶ回り道をしたなぁ)

あと、主人公が魔術師の家で修行しているという設定、「赤ずきんチャチャ」を思い出し、ずっと脳内でしいねちゃんやチャチャが動いていたが(笑)