科研費獲得苦手の会

科学研究費補助金 若手研究に受給制限ができたという話。自分も年齢がすでに31歳なので他人事ではない。

科研費というのは正式名称は科学研究費補助金というもので、大学や研究機関に所属する研究者(NTT 研究所のように民間でも科研費の申請資格のある研究所も存在する)が研究を円滑に進めるために使えるお金のことである。小さなところでは本を買ったりするのから、パソコンを買ったりする費用、はたまた国内・国際会議など出張の費用から、他の研究者(ポスドクと呼ばれる任期付き契約研究員)を雇ったりするために使われる。(蛇足だが文系の研究者でも名称は「科研費」である。どこが科学、と思ったりするかもしれないが……)

文系の研究者は自腹で本やパソコンを買ったり自腹で出張したりするのは割と普通な気もするが、理系の研究者はまずそういうことはありえない(自分で使うお金のほか、自分の研究室の学生がほしい本やパソコン、出張費のお金も研究費でまかなう必要ある)ので、こういう「競争的研究資金」を獲得するのが重要であり、実際外部の資金源の獲得実績も業績のうちに入るくらいである。

上記のリンクには年間研究室運営にいくらくらいかかるか、そしてそれぞれの科研費がどれくらいの採択率でどれくらいの額なのか、こんな感じで詳細に書かれている。

 大規模実験装置を使わなかったり、研究チームを組んで研究しない研究者は大体500万円クラスを狙いにいく(研究資金が多すぎても使いどころがない。とはいえ少なすぎれば論文すら投稿できない。)そして、500万円クラスに採択されると150万円程度の研究費が手に入る。2年間で研究を組んだとして1年70万強。大学や研究機関から配布される基盤的研究経費(学生の教育費含む)と合わせて年に100万円の研究予算というところだろうと予想する。私の所属研究室は学生への研究支援まで含めて年間200万円くらいかかるので、500万円クラスを狙いにいくことになる。

研究といっても学生のうちは自分が中心になって手を動かしているだけで、発表もさせてくれたり計算機も用意してくれたりしているのだが、運営側に回るといろいろ考えるべきところがあるのだなぁと思う。

さて、今回変更があったのは、科研費の中でも若手に対する補助金の申請資格。

もともと科研費の「若手研究」というのは(S)というスペシャルな区分を除いて39歳までの研究者を対象にしたものだったらしい(だから文科省的には39歳までが「若手」研究者)が、これまでは年齢制限内なら何回でも受給できたのが、2回までしか受給できなくなるらしい。えー。

逆に言うと自分のように途中道草食ったりしている人(もしくはいったん社会人になって数年してから大学院に戻ってきて研究者への道を目指す人)はそもそも若手である期間が短い(最大で7年間)のでいいのだが、ストレートで博士まで出た人は研究者になった瞬間27歳なわけで、期間的には12年間あるのに、2回までしか受給できないというのは厳しいんじゃないかな?

確かに研究がいまいちな人の尻を叩くシステムも必要だとは思うが、多様なキャリアの人をアカデミアに呼び込んで研究を盛り上げようという流れからは、年齢制限にせよ回数制限にせよ、逆行していると思う。(そういう人にはこれとは別の手当を用意する、というワークアラウンドはあるにせよ)

若手を優遇したいなら、年齢制限するのではなく、博士号取得からの年数(ただし出産育児等の年数を除く)が何年以内、という形で制限すればいいだろうに、年齢で切るというのは(判定は簡単だろうけど)好ましくないと思うのだが……。そうすれば「博士号は研究者になるための資格試験」という位置づけもはっきりしていいんじゃないかな。

民間企業の研究所のほうが、研究費獲得のための申請書書きに終われたりしないで研究に集中できるので、研究したい人には向いている、と(就職活動中企業の研究所の人たちからもよく言われたし、自分でも)思うのだが、こういうふうに大学に所属して若手で研究者としてのスタートを切りたいという人を冷遇するというのは、文科省としては少数の選ばれた人以外は公的な資金ではサポートしませんよ、というスタンスを出してきたようにも見える。

(将来の)大学の研究者も冬の時代到来かな……。