研究の懐事情 How much?

年度末が近づいてきたので、来年度に向けた準備をしたりする。学生が22人になる予定なので、また少し機材を買い足す必要があるのだが、研究室を運営するのに一体年間いくら必要か? というのはあまり考えたことがない人が多いと思うので、まとめてみる。これを多いと思うか少ないと思うかは人それぞれだろうが、研究の必要経費、というわけである。

まず計算機。情報系なので学生1人あたりノート PC が1台必須で、4年で減価償却として1台15万円で、1年あたり 15 * 20 / 4 = 75万円。

次に国内旅費。東京から大阪まで往復3万円、1泊1万円として、ざっくり出張1回5万円とする(研究会なら1泊、全国大会なら3-4泊で、日本全国どこでも開催されるので)。学生1人が年間最低1回全国大会または研究会で発表し、半数は若手の会にも参加するので、1年あたり 5 * 20 * 1.5 = 150万円。また、研究室合宿を毎年開催していて、これが1回で20万。合計170万。

そして海外旅費。これもアジア・アメリカ・ヨーロッパと違うのだが、ざっくり平均すると飛行機代が往復15万、1泊1万(本会議3日・ワークショップ2日・チュートリアル1日なので、5泊とカウント)、国際会議の参加費が5万として、1回25万であり、毎年20人中、院生数(16)* 1/3 = 5人が発表するとして、25 * 5 = 125万円。

あとは諸費用であるが、英文の校正費用が1回あたり3万円なので、2人に1人が年に1本出すとして 10 * 3 = 30万。論文の掲載料が、人工知能学会論文誌だと1本10万で、毎年4本論文誌に採録されるとして、こちらも40万。プリンタのトナーや紙などの消耗品が20万。合わせると、30 + 40 + 20 = 90万。

ここまでで合算するだけで、75 + 170 + 125 + 90 = 460万が、学生数20人の研究室の年間の運営費の支出の概算である。(TA など人件費はここでは除外)

では、逆に収入はどうか。いわゆる校費と呼ばれる(大学によって名称が異なる)基礎的な研究費が毎年100万円。実験実習費と本学では呼ぶ教育費(原則旅費には使えないが、計算機以外に椅子なども買える)が毎年100万。ここまでが毎年大学からもらえる運営費である。

計算していただくと明らかであるが、これでは260万足りない。どうするか?

収入を増やすには、科研費と呼ばれる競争的資金を獲得したり(科研費の若手 B というスタンダードなものだと、複数年度にわたってもらえるが、年100-150万程度。その他の情報系の研究費はだいたい単年度で100-200万程度)、学内の(競争的)研究費に応募したり、企業との共同研究に入れてもらったり(ケースバイケースだが、だいたい1年あたり1研究室で100-200万程度)する。1年あたり共同研究が2-3件ほどあれば、定常的な支出はまかなえる計算である。

若手でもその分野(世代)のリーダー的な人は(1件で)年1,000万円くらいの研究費を複数獲得したりするので、まさに桁が違うわけだが、自分は巨大な研究室よりは小さな(費用対効果が高い)研究室を目指したいので、お金をたくさん取る(研究費申請書を書いたり、いろんなところでトークをしたり)よりは学生と一緒にいることに時間を使いたい(いま、使える時間がとても限られているので、たくさんのことはできない)。

支出を減らすには、国際会議を近場(アジアや日本)のところにしたり、国内研究会でも近場(関東)のところにしてもらったり、掲載費が安い論文誌にしたり(そもそも論文誌に投稿しなかったり)、ノート PC を5年以上使ったり(まだ研究室ができて3年目だが)。国際会議に論文が採択されれれば旅費を支援してくれるという制度もあるので、それを利用したり、だろうか。収入が少ないので発表を控えてもらったりするのは本末転倒なので、お金の問題で何かを断念してもらったことはないし、ノート PC がないとか本がないだとかを理由に研究できない、とは言われたくないので、研究に関するものであれば20万円以下の案件は基本的に支出している(用途の制約や使用期限なく使える寄付金もあるので、足りなくなればそこから出す)。

今のところ研究費が足りなくてどうしようもなくなったことはないのだが(今年の前半は、足りなくなる恐れがあって共著者にお願いしたりして、申し訳なかったが……)、安定的に運営しようと思うと、複数年度にわたって支給してくれる研究費がもらえたり、あるいは複数年度お付き合いさせてもらえる企業がいてくれると大変ありがたい(研究テーマ的には近いはずのウェブ業界は動きが早いのでなかなか難しいのだが、研究所や自動車業界など、サイクルが長くてもいい企業様が複数年度共同研究してくださる)。

最近悩ましいのはサーバ関係で、サーバ関係は10万単位ではなく100万単位なので、かなり大きな予算がないと買えないのであるが、研究室できて最初の2年は特に計算リソースを大規模に使う人がいなかったので Mac だけ人数分揃えればよかったのだが、今年度は研究室のほぼ全員が一気にサーバを激しく使うようになったので、サーバも毎年かせめて隔年で1台くらい追加できるように動かないといけないな、ということである。

というわけで、共同研究等ご検討いただける方はご相談いただければ。うちの研究室からは、小町による技術相談(コンサルティング)や研究の最新事情のフィードバック、優秀な学生の参加(共同研究先に就職する学生はほとんどいないが)、学会等での研究成果の発表による知名度向上、などが貢献できると思う。