夢を追いかけること、プライスレス

高学歴女子のワープアが急増中という記事を読み、「高学歴女子の貧困」という本が出ていたことを知り、購入して読む。

リンク先の記事もそうだが、この問題は女性であるかどうかではなく、アカデミアにポストがほとんどないような分野で大学院に進学する人全てに当てはまることで、タイトルがミスリーディングである。

中は共著(分担執筆)であるが、読んでおもしろいのは第5章の『「アート系高学歴女子」のなれの果てとして、半生を顧みる』という内容。14歳から芸術の世界に入り、東京藝大を出て大学の非常勤や美術の予備校講師で生計を立てながら創作活動をするようになる。ふとしたきっかけで予備校の生物の講師と結婚して、子どもはいないながら一時期別居も含めて生活し、美術業を40代で廃業してからは作家の活動をしている、という半世紀。どういう人が日本で何人くらいいて、収入の相場はいくらで、男女の性差はここは関係ないがここはあるかも、みたいな話が率直に書かれている。

あと、家事の分担にまつわる話や若手との世代交代の話、芸術を「廃業」してからの話が、諦めること、そして諦めたからこそ見えること、そういった心境の変化が他者へ、そして自分への優しい視点から描かれているのが文章から滲み出していて、なんとも素敵である。この章は非常にお勧めである。

美大が舞台、という話で「ハチミツとクローバー」(Kindle 版が出たらしい)

ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス)

が紹介されていて、懐かしかった。ただ、自分の中ではハチクロはあまり美大漫画というカテゴリには入っておらず、自分的には冬目景の「ももんち」のほうが(予備校の話だけど、それがかえって)リアルで印象的だった。
ももんち (ビッグコミックススペシャル)

ももんち (ビッグコミックススペシャル)

他の章、具体的には1、2、3、4章の全ては正直なところブログで公開されるならともかく、書籍のクオリティとしては疑問符がつく([http://d.hatena.ne.jp/usata3/20071020/p1:title=水月昭道氏の新書を読んだとき]も同じ感想だったけど)。もう少し編集の人が関与してちゃんと書いた方がいい(あるいは書ける人に依頼した方がいい)のではないか。