師匠を超えることが師匠への恩返し

午前中は台風の影響で雨らしいので、窓という窓を閉めて引きこもる。

先日吉祥寺で発見した「島研ノート  心の鍛え方」を読む。

島研ノート 心の鍛え方

島研ノート 心の鍛え方

自己啓発本のようなタイトルであるが、結局島朗九段(初代竜王)がいかに羽生世代と向き合い、お互い刺激を受けてきたか、という内容が書かれたエッセイ集である。島九段は将棋界に「研究会」を初めて導入したことでも知られ、それまで徒弟制度、あるいは一人で研究することが多かった将棋界で、複数人が定期的に集まって研鑽する、というシステムが広まるようにした一人者である(他にもゲリラ的にそのような集まりはあったかもしれないが)。

どのような意気込みで本を書いているか、いつ自分が棋士として一生食っていけると思ったか、といったような、心情を綴った内容が参考になる。森下九段の、師匠に恩を返すというのは弟子が師匠を負かすことではなく、師匠が勝てなかった相手を負かすことだ、そこを履き違えては困る、という談話が印象的であった。

ただ、やはり島九段は将棋についての解説や定跡本の書きぶりの方が惚れ惚れするので、エッセイだとちょっと魅力が活かされていないようにも思う。もっとも、本人も中で書いているように、最新の定跡や戦法の話は、齢50歳の島九段が書くより、新進気鋭の若手棋士が書いた方がいいだろうし、もう島九段の渾身の棋書が出ないのかと思うと寂しいものがある。「角換わり腰掛け銀研究」なんて、あの時代の棋書の金字塔だと思うのだけどなぁ。

将棋の話を読んで再度思いを新たにしたが、やはり研究でも定期的にトップカンファレンスの論文をみんなでサーベイする機会が必要だし、それぞれの人がまさに取り組んでいる課題について議論する場も必要だろう。