人間とコンピュータの化かし合い

情報処理学会誌2011年2月号(Vol.52, No.2)に「あから2010勝利への道」ということでコンピュータ将棋の特集がまた組まれている。今回注目したのは2章の保木さんたちの記事と3章の橋本さんの記事。プレス記事では鶴岡さんらが「各プログラムは、清水女流王将との対局用に探索や表関数をチューニングするといったことは行なっていない」と言っているので、なにもしていないのかと思っていたが、特に3章の記事を読むと、清水女流王将棋譜を丹念に検討し、作戦を決定していたことが分かる。

表-2を見ると向かい飛車線では対男性棋士戦が11局中8局ときわめて多いことが分かる.[...]データが多くないので科学的な分析にはならないが,対戦した男性棋士も清水女流王将棋譜を分析した上でこの戦型を選んだのではないかと考えるとこの不自然な偏りは説明がつく.[...] そこで,あから後手の場合角道を止めない角交換向かい飛車にしようと考え,8月のあからプロジェクトミーティングで提案した.(pp.170-171)

そういう目で調べてみると確かに清水女流王将 VS あから2010でも

清水女流王将が定跡を外すか、もしくはガチガチの定跡形で組んでいくかというところを注視していましたが、なんとあから2010は四手目△3三角戦法を採用。これはTACOSの橋本氏が清水女流王将の将棋を研究し、対策として立てたものだそうです。それをYSSの山下氏がプログラムに組み込んだとか。

と書いてあった。膨大な棋譜からどんな学習をしているか、もはやルールベースではないので人間はよく分からない領域に突入しているのだが、こういうところの駆け引きに心理戦が入っているのはおもしろい。(清水女流王将は綿密にコンピュータ将棋の棋譜を調べ、実際に指したりして研究を重ねていたことが分かっている) 前述の情報処理学会誌の記事でも、

コンピュータ将棋は,Bonanza 学習に代表されるように評価関数を自動で学習するようになり,探索の量も膨大になり,人知の及ばない存在になりつつある.だが,特定の対戦相手に対して作戦を立てる部分に関しては,もしかすると興味深い駆け引きというかたちで,人間らしい対戦の形を残すことができるのではないかと感じた.(p.174)

とあり、今回はこういう駆け引きの部分は人間が事前に相手の棋譜を見て研究したわけだが、将来的には相手の棋譜を自動で取得して解析し、それに対して嫌らしい戦法を取ったりするように進化する可能性もあるが、それも広い意味では分野適応とかパーソナライズとかいう方向性と同じなのかなぁ。

午後、なぜか知らないが頭痛。その6時間後くらいに腹痛に襲われる。とても起きていることができない。風邪??