医療後進国の日本を改善するための情報処理

図書館で本を借りると2週間以内に読んで返却しないといけないので、強制的に感想を書かないとという気にさせられるのはいいのか悪いのか……

というわけでブルーバックスの「失われた「医療先進国」」を読む。

NHK取材班による日本の医療現場のルポであり、最近の医学部改革以降の激動を知らなかったので、勉強になった。

というのも、以前は「白い巨塔」に描かれているように、医局(教授)が若い医学生や医局員に「どこそこ病院に行きなさい」と命令でき、それに従わなければならなかったのだが、最近は2年間いろんな科を回ることが義務づけられ、自分で行く場所も選択できるようになった結果、若い医師たちが救急救命や小児科のような激務の分野を避けるようになってしまた、という状況があるそうだ。大学病院ですら若手の確保に困難を極めていて、これまで公立・私立の病院は大学病院から派遣を受けていたのに、大学病院が若手を引き上げてしまったので、救急や夜間の小児外来を辞めてしまったところもあるという。

みんながみんな楽なほうに流れても過当競争になって奪い合いになるだけだと思うのだが、若い人たちは「自分の生活も大事」などと言って夜間診療を断ったり(日本では義務ではない)、どんどん救急が崩壊しており、東京も夜間に倒れたら平均10件程度断られるたらい回しが普通とのこと。(立川の災害医療センターのように、「自分たちが最後の砦」と考えている医療機関もあり、そういうところで働いている人たちはとても意識が高いそうだが)

その例に出ているのが西東京市(田無)の佐々総合病院で、びっくり。これ自分の超地元なのだけど……(自分も何回か通ったことがある)。東京も西部や南部、つまり23区以外はすでに崩壊しつつある、ということだ。

あと妊婦のたらい回し事件で一躍有名になってしまった奈良県の医療だが、こちらも大きく取り上げられている。奈良は南部が元々山間部で医師数の絶対数が少ないのだが、北部の都市部でも医師の偏在がある、という調査の話。そもそも医師の必要数と現在の症例数に関する基礎的なデータも日本では満足に存在しないそうで、秋田県のデータを使って人口の数などから患者数を推測したりする、という手作業をしたらしい。

おもしろいのは、病院をどこに作ればいいか、という方針を決めるのに、コンビニの出店に使うソフトを用いた、という話。人口がこれくらいで周囲にこれくらいの店があると、ここは店が過剰、ここは少ないので出店したら儲かる、というような計算をしてくれて、地図上に色付きで可視化してくれるソフトがあるらしい。こういうデータマイニング的なツールって、一つ見方を変えれば別の分野で使えたりすることも多々あるだろうし、こういうところこそ情報系の人の力の発揮のしどころだと思う。

自然言語処理もまだまだ適用して大きく改善できる応用があるはずだと思うし、こういうコロンブスの卵的な応用がひらめくといいなぁ、と思っている。