3週間ぶりくらいにようやく1日中横になって腰を落ち着かせる……。本当は京都に行こうかと思っていた(@amedama くんごめんなさい!)のだが、往復3時間バスと電車はちょっと無理かと自重。12月は11-12日、18-19日のいずれも週末が泊まり込みで出かけるので、ここで休んでおかないと休む機会がないのであった……。
政策コンテストの話がいろいろ話題になっており、このコンテストが茶番であることは疑いないのだが、それでも政治に一般人が意見できるという雰囲気を作るのには効果があったのではないかなぁ。
大「脳」洋航海記の科研費若手A/Bは「(新規・継続併せて)全額が政策コンテストの結果次第」ですと学振PD騒動雑感 なぜポスドクの人件費は「生活保護」扱いされるのかを読んでも、大学に残って研究を続けようと思う学生には日本はなかなか厳しい環境になりつつあることが分かる。
昨日 @Wildkatze くんと松本先生と就職活動の話になったが、日本だと准教授くらいになってようやく「定年までこのまま行けるかな」と思うような感じであり、ポスドク研究員や助教だとまだ二転三転ありそうな感じ。
アメリカの大学教員制度でも助教が任期なしになれる確率は全米で53%とあるが、日本でもたとえばNAISTのような小講座制の大学は「教授1-准教授1-助教2」なので、准教授になれる人は(任期あり)助教になれた人の半分、というわけで、たぶん割合的には同じようなものだろう。
「博士漂流時代」という本
博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)
- 作者: 榎木英介
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2010/11/16
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たとえば「現在の日本の産業構造を考えるとバイオの研究者は余り過ぎなので、農学部でバイオの研究をやっているようなところは全部潰したほうがよい」という話とか、NAIST でもバイオの就職は厳しいと聞いていたが、そういう理由だったのか、という感じ。
著者は理学系の研究科を出ても食えないので東大の博士後期課程を中退して神戸大の医学部に学士編入していまは医師として働いているが、そういう理科系のバックグラウンドの人が非常に増えている、という話も、なるほど、と思う。工学系は博士号を取っても普通に就職できるのであまり問題はないのだが、理学系は「博士号を取った方が就職できなくなる」といった現象があるくらいで、そういう人が転身するためには、医学部に入って「手に職」をつけるのが安全、という話。
自分も学部時代は人文系にいたので状況は理学系とほとんど同じだが、人文系は大学を出ても全然「食えない」ので、センター試験のようなお勉強試験で1次をパスできる公務員系を除くと、みんな弁護士(ロースクール)や公認会計士や税理士のような資格を取ったり、大学を出てから院に行く段階で(たとえば自分のように工学に)専攻を変えたり、そのまま研究者になっている(なれている)人は、東大でも1割もいないのではないかと思う (たぶん数%)。
自分は「東大以外の大学に行ったら研究者になるのはまず無理だろうし、大学院に進学するのは諦めて就職しよう、東大に行けたら研究者になろう」と思って受験・進学したのだが、東大ですらこんな状況だったので、結局いろいろ悩んで卒業するまでに時間がかかってしまった。結果専門を変えたのだが、少し余分に時間がかかっても悩んで方向転換してよかったと思う。
男女共同参画室推薦図書の「素敵にサイエンス研究者編 -- かがやき続ける女性キャリアを目指して 女性のための理系進路選択」
素敵にサイエンス 研究者編―かがやき続ける女性キャリアを目指して 女性のための理系進路選択
- 作者: 鳥養映子,横山広美
- 出版社/メーカー: 近代科学社
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地質学が元々の専門だったのだが、ナホトカ号の石油流出事件があり、その調査に乗り出してからの話から語り起こされる。少々長くなってしまうが引用する。
ところで、事故現場の写真を撮るのは本当に大変です。みんなドロドロになって作業しています。マスコミが取材の撮影をしていると、ボランティアの人からは「カメラを捨てて、ヒシャクを持て!」という声が飛びます。その声を聞きながらも、私がバケツ一杯汲んでいるよりも、科学者としてやることがあるのではないか、という思いがありましたから、心を鬼にして写真を撮り集めました。
だから、ボランティアの人たちの横を通る時は「御苦労様です。体に気をつけてください」と声をかけたり、学生さんには「手袋して、マスクして」と言ったりしながら、「すいませんね」と写真を撮りました。
科学者は科学者としてやらなければならないことがあると思います。このような特殊な環境汚染が、自分の目の前に初めてのこととして広がっているのですから、またとない勉強のチャンスでもあります。将来的にはもっと大きな力で環境浄化ができるかもしれないのです。ですから、私たち研究者は、古い限られた知識や文献のつまった教科書をもとにいろいろ言うのではなく、災害や事故が起きた時は、まず現場に行き自然を観察することが必須条件です。そして身体のすべて、五感で異常を発見します。例えば、手で触って、鼻で臭いをかいで、目やルーペで詳細に観察して、そして総合的に考えて科学者として行動することが大事だと、私はそう教えられてきました。
理系に来られる女性の方はあまり多くはありませんが、自然を五感で観察するための感性を豊かにすることはできます。体力はいらないのです。足を一歩踏み出す勇気だけでいいのです。ところが、実際にはそれがなかなかできないのです。世のため、人のために何かしたいという気持ちがないとできない。現場に出て行くことは大変なことではありますが、楽しいことでもあると、若い人にはぜひ知ってほしいのです。
なぜなら、その成果は目に見えるものなのです。ナホトカ号の座礁事故からもう10年経ちましたが、この10年間の努力により、みんなから海岸がきれいになったと喜んでもらえるのです。重油事故から1年か2年後の追跡調査で、狼煙という能登半島の先端の小さい漁港を調べました。すると、おじいさんが来て「今、バクテリアというのが一生懸命きれいにしてくれいるんだ」と言ってくれたのです。「そのバクテリア、私が見つけたのですよ」って自慢したかったけれど、心の中でそっと自分だけに言いました。そういうのが、私の生き甲斐になっています。(pp.125-126)
最後の段落なんか、最初読んだときには胸がいっぱいになってしまったが (自分だったら「これやったの自分なんですよ」と自慢してしまいそう……)、こういうふうに、これは絶対世の中に必要なんだ、と、最初は周りから理解されなくても、孤独でも自分が「人のために何かしたい」という信念を持って研究を続けないといけないんだな、と思ったり。
「わたしの研究ってやっている意味あるのかなぁ」と落ち込んだりしているとき、このナホトカ号の話をしたりする。世間の人は目の前の問題でいっぱいいっぱいになり、もっとよい解決策があるかもしれないのにそれを探そうとしないが、研究者はちゃんと問題を丹念に分析して、根本的な解決策を提案できる立場だし、そういう仕事をするべきなんだと。
これは男性だから女性だからというものではないが、そういう足を一歩踏み出す勇気というものがあるとよいなと思う。男性でも一歩踏み出せない人がたくさんいる (自分の仕事の大きな一つとして、そういう人の背中を押してあげることが目標にある)。@ks91020 さんのツイートで
昨日のEvernote CEOの講義で一番よかったのは起業する理由。「お金儲け」「自由な時間が欲しい」などを間違った理由として挙げ、唯一の正しい理由として「世界を変えるため」と説明。あと「人類を救うため」。そうした意思を持ちかつ脳にある種のダメージ(笑)を負っている人が起業する。
というのが自分的にはとても印象的で、おせっかいかもしれないし上から目線で独善的かもしれないが、「世のため人のためになにかしたい」という信念を持って行動する人が世の中には必要なんではないかな。
あともう一つ、実際にデータを見ない、あるいは実験してもうまく行った事例とエラーになった事例を見なかったり、教科書や他人の書いた論文を読んで「これに関してはあーだこーだ」と批評してしまう人がときどきいるが、そういう人は積極的にデータにまみれる、実験して問題を分析する、そういう時間が必要だと思う。なにが起きているのか分からなければ解決策も思いつかないし、そうやって一つ一つ問題を解決していくことが「世の中を変える」ことにつながるのではないかな。
その後田崎教授はどうされているのかなと検索してみたら、去年の3月で定年退官されていたようだが、ユネスコの仕事でタンザニアに渡り、現地で大学を作る仕事に就かれるそう。あれまあ。本当にすごい。自分もこういうふうになりたいなぁ。
ちなみに上記の本、「企業編」と「先生編」もあるので、未読だが今度読んでみたい。
素敵にサイエンス 企業編―かがやき続ける女性キャリアを目指して 女性のための理系進路選択
- 作者: 中村立子
- 出版社/メーカー: 近代科学社
- 発売日: 2008/09/01
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素敵にサイエンス 先生編―かがやき続ける女性キャリアを目指して
- 作者: 田中若代
- 出版社/メーカー: 近代科学社
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