詰め込み教育が創造性を殺すわけではない

朝からSSH (スーパーサイエンスハイスクール) の成果発表会。午後の講評の部分だけ来てくれればいいから、という話だったが、現役の高校生 (基本的には高2) たちがどのような研究をやっているのか興味があったので朝から出席。

今回 SSH をされていた西大和学園という中高、恥ずかしながら初耳だったのだが、実は奈良では東大寺学園と並ぶくらい有名な (1986年にできたばかりの新興) 進学校のようだ。賢そうな生徒がとても多かったが、あとで検索してみてとても納得。大学の合格者数がどうだというものではないが、2010年度の関西の高校の東大合格者数で灘・東大寺に次ぐ3位、京大の合格者数で洛南に次ぐ2位。今回何人も来ていた OB の京大生たちも、「成績トップでたまたま京大に受かったので (嫌だけど) 広告塔として来ています」というのではなく、京大にはたくさん受かった OB がいるけど、その中から母校が好きな人がボランティアで来ている、というような印象。管理がきつい学校の生徒だともっと萎縮しているかと思ったので、意外である。(自分が中高ものすごい放任・放置主義の学校にいたせいかもしれないが)

さて、会場の手配は全部済んでいる、ということだったのだが、行ってみるとどうも講義室の鍵が開いていなかったり、生徒に配る予定になっていたNAIST紹介パンフレットがなかったり、いろいろとハプニングが。そもそも最初自分以外は職員がいなかったので、もし午後に来ていたら講義室も開いていなくてやばかったのではなかろうか (汗)

ともあれ、朝一はまずナノサイエンスコースで実習をしていた高校生の研究紹介。不斉合成の研究とかフォトニクスの研究とか、けっこうホットな話題を研究していておもしろい。自分たちでも仮説を立てて検証していたりとか、さすが。

途中からインフォメーションサイエンスコースで実習した人たちの研究紹介。いろいろな研究室で実習をしているのだが、なかなか実習でなにをやったのか分かりにくい。実習で変更したソースコードなんかを見せつつ紹介してくれるのだが、そもそも聞いている人 (プログラミングしたことない高校生や親御さん) は Java なんて見たことがない人がほとんどだろうし、ソースコードを見せられて理解できるのか疑問。ただ、そここそがたぶん SSH で彼ら・彼女らが取り組んだところなんだろうし、それを説明したいという気持ちは分かる。ナノサイエンスやバイオサイエンスの場合は中学受験で理科をちゃんと勉強してから入学してきているし、他の生徒や親御さんも理科なら基礎知識を持っているのだろうが、プログラミングはそうはいかないからなぁ……。

高1の人も特別に発表してくれていたが、Java というプログラミング言語はどのように開発されて、コメントはこのように書いて……というところを説明していて、ちょっとこれはしんどそうな雰囲気。実習期間がそもそも数日〜1週間程度なので、すでにプログラミングの経験があるのでなければ、プログラミング (Java) に慣れるところがまず最大のハードル、というところが厳しい。ほとんどプログラミングしなくてもよいように実習内容を準備しておく、という手も考えられるが、そうするとプログラミングを独学している生徒には不満だろうし、難しい。事前に必要な知識を指定しておく (プログラミングできない人はできなくてもいいテーマを選んでもらい、できる人はコードを書くテーマを選んでもらう)、というようにするといいのかな。

昼食を挟んでポスター発表。中3のみなさんが卒業研究でやっている内容を発表してくれた。どうやら優れた研究をした生徒だけが発表するのではなく、人文系の研究をした人も、理工系の研究をした人も、全員がどこかで発表することになっているそうだ。それで、今回は理工系の研究をされた人たちが来ていたとのこと。[twitter:@matsuura_] さんたちと一通りポスターを見てコメントしたが、こちらの中3の卒業研究の発表はとてもすばらしい。中3にはとても思えないくらいしっかりしていて、身近な話題からスタートして、自分で仮説を立て、実験を計画し、調査して考察する、という一連の手順を身につけている。テーマもいろいろあって、たとえば「加齢臭は本当に存在するか」というポスターは、海外での調査結果と比較したりしつつ、さまざまな年齢の男性に対し、前日に着たシャツを収集し、それらを30数名の女性に「においが好きか嫌いか」を3段階の Likert scale で採点してもらい、BMIや年齢、前日の運動量などと相関を見た、というもの。相関があると思ったがなかった、という結果が出たとき、それに対してなぜなかったのか理由を考えて再実験したりとか、いろいろ試していて、すごいなと思う (これは今回発表してくれた生徒の人たち全員に言えることだが)。自分なんかぼんやり中高を過ごしていたなぁ、と嘆息するものである。

午後も少しだけ高校生の発表があり、あとは西大和学園スーパーサイエンスハイスクールへの取り組み (文科省の「スーパーサイエンスハイスクール」に選ばれたのは5年前からだそうだが、それとは独立に10年前からずっとやっていたそうだ) の紹介と、スーパーサイエンスハイスクール OB の人たちの研究紹介。ちょうど1期生や2期生が修士の1年生、2年生に当たっていて、すでに博士後期課程に進学が決定していたり、あるいは M1 でも博士後期課程に進学するつもりだということで、研究に関心が高い人材がちゃん育っているのだな、と驚く (あと、こうやって5年10年とやらないと結果が分からない、という気の長い仕事なんだなと)。

最後3研究科の代表が講評するということで、今回代打で自分が助教ながら (他の研究科は教授の方々がいらしていたようだが……) スピーチ。順番的に3研究科のうち自分が最後だと思ってのほほんとしていたら、実はトップバッターだったので、焦った……。「研究においては失敗することが大事なので、みなさんどんどん失敗しましょう」という話と、「情報系はバイオやナノと違ってサイエンスではなくエンジニアリングの側面が強いので、試行錯誤するところから見えてくるものもある」という話をしたり。3分しか時間がなかったので、もっとたくさん話したかったのだが、残念。

5年とか10年とか、中期的な人材育成になると、そもそも自分自身の任期が5年しかない (テニュアトラックでもない) 助教だとなかなか取り組みにくいなぁ。こういう活動も割と好きなのだけど、悩ましい。(助教のうちはそんなことどうでもいいので研究しなさい、という声が聞こえてきそうだけど……)