午前中、大阪大学の留学生センターで日本語を教えてらっしゃる先生が、研究で使う茶筌のインストールを手伝ってほしい、というので masakazu-i くんとお手伝い。
実はこちらの先生がマシンを買い替える (OS をアップグレードする) 度に「ChaSen が動かなくなりました、助けてください」と連絡があってお手伝いしているのだが、前回も MeCab を入れようとして「MeCab と ChaSen では出力形式が違うので困るのです」と結局 ChaSen を入れることになった、という経緯があったため、今回も ChaSen かなぁ、と腹をくくっていた。
MeCab に詳しい人は「あれ、mecab には出力形式で -Ochasen とすれば chasen 形式にできるんじゃないの?」と思うかもしれないが、先方が使っていた Excel マクロで利用する形式と微妙に出力形式が違うので、mecabrc を書き換える必要があり、これは人文系の人が自力で書き換えるのは無理だろう、と思ってお伝えしなかったのであった。
今回は結局松本先生も「MeCab でやったらどうです」とおっしゃっていたそうで、masakazu-i くんと相談して mecabrc を編集して対処。まあ、いまどきわざわざ ChaSen をインストールすることもないので、MeCab で済んでよかった……。
しかし「テキストファイルから解析済みテキストを保存するところまでやり方をもう一度教えてください」と聞かれ、以前はどうやっていましたか、とお聞きすると、どうやらコマンドプロンプトからコマンドを入力するやり方でやってもらっていたようだ。実はこのやり方、Windows に慣れた人ならそんなに大変ではないと思うのだが、そうでない人はファイル名をコマンドラインで入力するだけで一苦労なのである。「そんなのコピペすればいいじゃん」と思う人は相当慣れている人で、普通の人は「コピペ」をするのも難儀するのである (もちろん、ショートカットでコピペする仕方を教えても、である)。
それで、これは厳しいだろう、と masakazu-i くんが最近作った TextFormatter というツールを試してもらうことにする。このツール、テキストファイルを指定すれば、文分割・単語分割・係り受け解析まで自動でやってくれるという優れもの。もちろんドラッグ・アンド・ドロップにも対応し、フォルダごと処理することができるので、とてもお手軽。マウス一つ、クリック一発操作できないと、やっぱり一般の人に使ってもらうのは厳しいよな〜。
実は TextFormatter も入力が UTF-8 前提で作られていたようなのだが、今回入力が SJIS でなければならなかったので、masakazu-i くんが目の前でささっと修正してコンパイルしたものを USB で転送。実行したら UniDic が入っていないという警告 (無視はできるが) が出るので、「あ、このダイアログは消さないとだめですね、直します」と一瞬で直してコンパイルして渡してくれる。すごい速さ。
先方も「どうしてこんなすごいことができるの、神様みたい」と驚喜していただいたのだが、開発者としてはここまで喜んでくれたら開発者冥利に尽きるかなぁ (笑) 確かに自分もコマンドプロンプトでの操作をお教えした記憶が蘇ってきたのだが、こんなのをマウスだけで操作できないのは作る側の都合であって使う側の都合ではなく、「コマンドラインで使えますよね? 詳しくは自分で調べてください (意訳: ググレカス)」と言うのは作る側の怠慢 (それでよいこともあるが) だと思うし、むしろいままでこんな状態でも我慢して使ってくださってどうもありがとうございます、これまでどうもすみませんでした、という感じ。
「こんなのスクリプト言語で10行書けば終わりじゃん、プログラミング勉強してくれればいいのに」と言ってしまう人がときどきいるのだが、そういう態度は回り回って自分たちの理解者を減らしてしまうこと (いや、もともと少ないのだろうけど……) につながるし、こういうユーザの声を一つ一つ聞いてサポートするのは大変だが、やはり自然言語処理ってこういう人文系のユーザの人たちにも使ってもらってこその技術だと思うので、時間があったらできるだけサポートしたいなぁと思うのである。
昼、ご飯を食べる時間もなく教職員対象のメンタルヘルス講習会へ。う〜む、これは勉強になる。松本先生も質疑応答のとき「自分もついつい学生に自分がやってほしい研究テーマに誘導してしまうことがあるのですが、強引にやらせてはいけないと分かって勉強になりました」と感想をおっしゃっていたが、そういうふうに率直に認められるところ、松本先生のことを尊敬するのである。ちなみに、ご本人がそうおっしゃるほど押し付けていることはない。研究テーマに悩んでいる人を誘導していることはときどきある(笑)が、悩んでいる人に「こういうのもあるけどどう?」と選択を委ねる形で言うのはむしろ学生にとってはありがたいのではないかなぁ。ときどき見ていると「こういう手の渡し方(将棋・囲碁用語だが、1手パスして自分で決めず相手に決めさせるような方法)があるのか!」とびっくりすることがあるし。
いくつかメモ。
- 研究や生活に困難があっても、学生からはなかなか言いにくい。ストレスの兆候はまず身体症状に出る。特に不眠症状は要注意サイン。「眠れない」という話を聞いたら気をつけて。あるいは、勉強会やミーティングに頻繁に遅刻・欠席するようになるのもメンタル的な問題の予兆であることも。
- あるべき姿になれない自分がストレスになる。「研究がんがんできていないといけないのにできない」とか「就職がうまく行ってないといけないのに決まらない」とか。無意識に「自分は優秀だからこれくらいできないといけない」と思うとストレスになる。まずは自分の等身大の実力をちゃんと把握すること。
- アスペルガー症候群の人は学生にも教員にも多い。パターン化されたものは得意でテストの点も高く、短時間の面接なんかでは分からないが、予想もしなかったトラブルや、決まりきった答えがないような問いに出会うとパニックになったり逆ギレしたりする。
原因は家族関係や生育環境にあったりするので根本的に変えようとせず、理解し折り合いをつけるよう努力する。(2010-12-03 訂正) 発達障害・学習障害の原因は環境ではなく先天的な原因である、という見解が主流のようです。大人になってから問題が表面化するケースの発達障害についての講演だったので、家族関係なども関係する、という話をされたのだと思います。ご指摘くださった方々どうもありがとうございました。 - 教員がいくらよかれと思っても、押し付けてはいけない。最終的には学生に決めさせる。本人がやりたいことは、周りが「これが一番よい」と思うことと違うかもしれない。学生が言ってきた決断が受け入れられないものだったら「それは無理」ときっぱり言ってよい。ちゃんと学生の意見も聞き、このプロセスを最後まで続ける、ということが一番大事。
- 指導は短く具体的シンプルに。教授の言うことと准教授の言うこと、助教の言うこと、博士の学生の言うことが違ったりすると駄目。一人でも違うことを言う人がいると混乱するタイプの学生もいる。そういう場合、指導する立場の人の意見を全部すり合わせておくか、おかしいと思っても教授の意見を立てるよう決めておく。「先生はこう言っているけどぼくはこうしたほうがいいと思うんだよね」というようなことは言ってはいけない。
- できたことを誉める。できていないことは訂正したり注意したりしなくてよい。誉めるときも、具体的に誉める。「◯◯くんは優秀だね」は駄目。「◯◯くん、すぐプログラム書いてくれてありがとう」と誉める。「プログラミングができる」は評価であり、「プログラミングした」は事実。評価するのではなく、やった事実について誉める。事実を誉めるだけで、自分の存在を認めてもらったと人間は嬉しくなるもの。
1.5時間の講義だったので他にもいろいろ参考になる話題があったのだが、こういう話も知ると勉強になるなぁ。もうひとり質問されていた先生が「具体的なお話どうもありがとうございました。どのお話も、ああ、これは彼のことだな、これは彼女のことだな、と思い当たります」とおっしゃっていて、大学の教員ってのはいろいろ悩みを抱えているのだなぁ、と思ったり。
自分? ストレスで不眠になるどころか何時間寝ても寝足りないし、横になったら3分以内に眠れますよ……。まぁ、いろいろ回り道したので「自分はこれくらいできないといけない」と思ったりすることもないからかなぁ。「大学院生なんだからこれくらいできないと」たとえば「学部生じゃないんだから英語くらい読めないと」「博士に進学するなら学振くらい取れないと」みたいにあんま思ったりしたことないし…… (大学入った直後くらいまではそう思っていたので、嫌な奴だったんじゃないかと思う。懺悔) 。
トップ会議にばんばん通したりしている人を見ると「すごいなぁ」と思うが、それで焦ることはないし、自分の実力、得意なこと苦手なこと、好きなこと嫌いなことというのも大体分かるので、自分にできることを淡々とやりつつ、好きなこと新しいことに挑戦していくしかないかな〜と。自分のできることが少しずつ増えていくのは嬉しい。他の人が自分と比べてどれくらいすごい・すごくないか、というのは自分はあまり興味なくて (すごい人と一緒に仕事したい、とは思うが)、去年の自分と比べて今年の自分は人間的に成長しているか (他の人を不快な思いにさせる行動を取らなくなった、他の人に喜ばれる行動を取れるようになった)、できなかったことができるようになったか、ということに興味がある。
人間としてまだ未熟な点がありすぎる (自分もまだ他人の言動にムカつくことがあったり、他人の気持ちを推し量って適切な声をかけてあげられたりできなかったり) ので、これをなんとかしたいといつも思っているところ……。
講習会のあと、@smly くんの進捗報告と @jhirwin くんの研究相談。その後 @seijik42 くんの研究相談に乗り、ようやく10時に@tomo_wb くんのスライドにコメント書けることに。う〜む、もっと早くコメント書きたかったのだが、今日はいろいろとありすぎた。来週月曜発表で時間がないのに申し訳ない。