学生が研究室の顔になる

週の後半になると、あれ?今日って金曜日じゃなかったっけ?という気になるのだが、疲れているのだろうか……。夏休みまではゴールデンウイークを過ぎると連休がないので、どんどん疲労が蓄積していくわけだが……。

午前中は進捗報告である。やはり事例分析は興味深い。どういう問題があるからこういう方針で解きたい、ということを議論するのが楽しいのである。もっとも、道具立てがそこそこないと最適な解き方が分からないかもしれないし、必ずしもそこで最適だと思われる手法が最新の手法であるとも限らないので、手法自身の研究が好きな人にはおもしろくないかもしれないが。

あと、サーベイ報告について毎週聞いていると、だいたいいくつかの研究テーマに収束していっているようで、これもおもしろい。ここで論文リストができて、その中で取り組むべき問題を決めたら、研究の半分は終わったようなもので、結果が出るための必要なものは実装能力と運、みたいな感じ(論文を書くのはまたひとつ違う)だし、コツコツとコーディング能力を上げる(これは今年もNLP 100本ノックをやってもらっている)とともに、論文リストをせっせと育ててほしい。

お昼は某社にお勤めの NAIST OB の方とウェブ会議。某社グループ、ものすごい勢いで情報系の博士号取得者を採用している……。一時期 Google が信じがたいハイペースで博士号取得者を採用していたが、日本発のこういう企業が出てきたというのは喜ばしいことだと思う。Google とは違う形でドリームチームを目指してもらいたい。あと、せっかく採用した人に活躍の場があるかどうかだと思うが、現場のデータはとてもおもしろいので、大学ともなにがしかのコラボができるといいなぁー。

しかしこういう話になると博士の学生を抱えている人数が OB/OG ネットワークに如実に影響を与える。NAIST情報科学研究科は博士前期課程1学年の定員が135人に対し博士後期課程1学年の定員が40名で、首都大の情報通信システムは同じく博士前期課程の定員が35人に対し博士後期課程の定員が5名なので、絶対数として博士後期課程の人数が1/8しかいないだけでなく、NAISTが定員の3.5人に1人の博士後期課程の定員数があるのに対し、首都大は定員の7人に1人の博士後期課程の定員数なので、相対的には半分の学生しか博士後期課程に進学しない計算である。大学や国の研究所などアカデミアしか就職先がないとしたら、この程度の定員の方がいいと思うが、自然言語処理人工知能)分野は割と潰しが効くと思うので、3-4人に1人が博士後期課程に進学するくらいの割合になってほしいものである。

午後は教授会を挟んで原稿の添削。とりあえず1本は submit にゴーサインを出す。少しずつ終わっていく感覚も懐かしく、この仕事、肌に合っているのだなぁと思う。自分でコードや論文を書くのも好きなのだが、みんなであーでもないこーでもないとあれやこれや試しながら、少しずつ(数年かけて)謎が解明されていく感じ、とても好きなのである。

ただ、それができるためには、サーベイしたり過去に研究したりした積み重ねが必要で、ずっと研究をしている自分はともかく、(内部進学または博士後期課程進学で3年以上いる学生はさておき)1-2年で卒業してしまう学生にもそれを求めるのはどうなんだ?と自信がなくなることもあり、やたらサーベイに時間がかかりそうだったり、あるいはベースラインのシステム作成にものすごく労力が必要そうなテーマは、本人がどうしてもやる、というのでなければやんわりと方向転換をサジェストしている。やりっぱなしではなく、1年ちょっとで軟着陸できる(修士論文の形になる)テーマに取り組んでもらう、というのも、コミュニティとして研究を前に進めるためには必要だと思うのだ。

夕方は個別に研究相談を受ける。最近、研究室でこうやって研究の話ができるというのが本当に嬉しく、恵まれた環境にいるよなぁ、と毎日思っている。意欲があって素直で優秀な学生に囲まれている、ということに尽きるのだが、最初の1年は手探りで、こんな状態の研究室に来てもらっていいのだろうか?と自信がなかったが、それから2年を経て、今では研究室としても活気があって、我田引水であるが、割とお勧めである。(ただし、学生の立場からすると別に思うこともあると思うので、受験生には在学生と必ず話してもらっている)

あとは自分がもっと時間を取れればいいのだが、こればかりは家庭を大事にしたいので、しばらくの間、申し訳ない(進捗報告ではないけど、いまのところ毎年自宅で研究室の忘年会を開催しているので、年1回は娘をお披露目できる)。