自然言語処理で博士号を取得したあとのキャリアパス

東工大とポリコムでミーティング。ポリコム自分で使うの初めてかもしれない。いろいろ考えるところはあるのだが、タグ付けするという気になるとわくわくするものだ。つけているときは大変だが、やっただけ得るものはある。なんとなれば、タグ付けする能力こそ、自然言語処理(計算言語学)の研究者に必要なものだと思うし。

最近 @o_bon さんたちと話していて話題になるが(彼女もいまタグ付けしているので)、松本先生は「この単語、ここしか見えてないからこっちにかかりたくなるやん」などと「単語の気持ちになる」ことのできる人なので、やはりそれくらい熟達したいな〜。

「先行きの見通しや情報がないとみんな博士に進学するのを避けるのでは」という話を聞いたので、自然言語処理の現状について書いてみる。5年後も同じである保証はないので、あくまで現状の話ではあるが。

このところ進学相談で博士に進学した場合の就職先に関しても心配する人が多いのだが、こと自然言語処理分野に関しては、博士後期課程に進学してもストレートに3年で博士号を取れるくらいなら、普通に就職ができるので、そこは安心して進学してよいと思う。むしろ心配するべきは、自分が3年で博士号を取れるかどうかであり、3年間かけて取り組みたいなにかがあるかであり、取れる見込みがない/自信がない人は、修士で就職しておいたほうがよいだろう。若いうちの3年は貴重なので、3年間棒に振るくらいなら、3年間就職して経験を積んで、それからどうしても研究に戻りたかったら、それから検討しても遅くないし。

民間企業のエンジニア、企業の研究所、独立行政法人の研究員(ポスドク)、大学教員(またはポスドク)などいろんな道はあるが、基本的には本人の志望しない進路になった人はあまりいないと思う。エンジニアになる人は研究はもうしばらくいいやと思って行く人であり、企業の研究所に行く人は大学で研究費の申請をするのが仕事になるのは嫌だとか、もしくは学生の面倒を見るのは苦手だとかいう人で、大学に残る人は大学以外にあまり行きたくない人であろう。(ポスドクになるかそうでないかはポストの空き具合もあるので、一概には言えないが、ポスドクの口が日本のどこにも存在しない、ということは少なくとも自然言語処理ではありえない)

あと、就職決まってからもいろいろとお仕事関係のお話を聞くのだが、みなさん共通しているのは、自然言語処理機械学習の専門知識(修士レベルでよいが、英語の論文は読まないというような人は論外。もちろん論文を読んで実装する能力がある、ということ)を持ち、C/C++ といった言語のコーディング能力があり、英語で仕事をすることに抵抗がない人、という条件(これらの条件は or ではなく and であることに注意)。

典型的にはGoogle の採用ページを見ればだいたい分かるが、これらの条件を満たしている日本人があまりに少ないため、この業界は「就職できない」という領域ではなく、これらの条件を満たす人材を各社が奪い合っているような状態である。逆に言うと、これらの条件を満たしていれば少なくともエンジニア就職の道はいくらでもあるので、就職口があるかどうかを延々気にして悩まなくても……。

自然言語処理の研究者になるには、能力的な問題というより、言語が好きか(語学マニア、もしくは言語学マニア)とか、コーパスや辞書作成が楽しめるかとか、そういう性格的な問題が一番大きいのではないかな? たぶん、言語学も言語自体にもそんな興味がない、コーパス作るのも嫌、辞書作るのも苦手、なんて状況で「自然言語処理の研究者になりたい」と言っているとちょっと苦しいと思うけど、好きなことをするのが一番だし、寝食を忘れて没頭できることあるなら、それをすればいいんじゃないかなーと思うのだ。(まあ、少し話すとその人が言語ラブかどうかは分かると思うし) 世の中研究者になるだけが人生ではないし、自然言語処理だけが研究でもないし、けっこう固定的に考えてしまう人(学生)多いんだなぁ、と感じてしまう。

海外のインターンシップや海外の就職の話もたくさんいただくのだが、それらはほぼ例外なく博士後期課程の在学者、もしくは博士後期課程に進学希望の人が対象なので、博士に行く予定なら紹介できるのに、博士の学生だったら推薦できるのに、と思うことが多々ある(そして応募する人、もしくは推薦したい人がいなくて話が流れる)。実際のところ、3年間博士後期課程に在学すれば、1回は3ヶ月くらい海外にインターンシップか共同研究で行く機会が来たりするし(自分は3回行こうとして3回目もオファーまでいただいていたのだが、日程的に無理になったのでキャンセルせざるを得なくなり、ご迷惑をおかけして申し訳なかったが……)。

迷うのであれば指導教官に相談してみて、自分は適性がありそうかどうか質問してみるとよい。教授も下手をすれば博士号取れない人を受け入れるのはリスクなので、「ぜひ来てほしい」とか「あなたは大丈夫だから来てくれてもいい」とか「あなたはとりあえず就職したほうがいい」とか教えてくれるはずである。アドバイス通りにする必要はないが、自分がどのように見られているのかは分かるであろう。

自分しては世界に羽ばたく(日本)人がもっと増えればな、と思っているのだが、なかなか時間のかかるもので、千里の道も一歩から、かな?