Gentoo Portage が ChromeOS のパッケージ管理システムに

@matsuu さんのブログでGoogleのChromeOSが公式にPortageベースになる模様と紹介されていたので知ったのだが、Google の ChromeOSGentoo Linux で使われている Portage というパッケージ管理システムを使うことになるそうだ。Ubuntu と同じく Debian 系のパッケージ管理システムになるのかと思っていたので、少々意外。

既にこの日記を読んでいる人で自分の過去の活動を知る人は少ないと思うので昔話をすると、2003年の7月から自分は Gentoo Linux の開発者になり、2007年10月に辞めるまで主に日本語処理関連のソフトウェアパッケージのメンテナンスを中心に、開発者として活動をしていた。Gentoo Linux というのは上記リンク先の Wikipedia 記事でも触れられているが、Portage というパッケージ管理システムが独特であり、使いやすいと思う人には非常に使いやすいのが特徴である。(そのため、Gentoo 使う人は、いろいろなディストリビューションを試した末、流れ着いた人が多かったような気がする)

自分の開発者(と言うのは少しおこがましいが)としての源流は、Gentoo で育ててもらったのが一番大きいので、今でも感謝しているし、こうやって Portage がいろんなところで使われるのは嬉しい限りである。Portage は他のパッケージ管理システムと比べて作成者の手間が一番少ない(チェックが慎重ではないだけかもしれないが)のが特長なので、もっと広まっていいと思う。その分ユーザの手間が少し増えるのだが、それはトレードオフなので……。

Software Design 総集編 【2000~2009】(DVD付)

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にも収録されているが、何回か Software Design に記事も書かせてもらったので、そういう意味でもたくさん育ててもらったなぁ。東京に戻ることがあったらまたそういう生活もいいなと思っていたが、どうやら自分の人生はもうそういうトラックにはいないようである。(ここ10年の間に記事を執筆した人には一部送ってもらえるらしく、到着を楽しみにしている)

Gentoo の好きだったところは「選択肢はあればあるほどよい」という哲学であり、そもそも cron や syslog に何個も種類があるっていうのはほとんどの人が知らないのではないかと思うし(いま調べたら cron は anacron, bcron, cronie, dcron, fcron, vixie-cron の6種類ある)、自分好みのシステムを作るには最適のディストリビューションなのである。

実はそれは長所であるとともに短所でもあり、選択肢が多すぎるとユーザはどれを使っていいか分からず迷うわけで、必ずしもユーザは幸福じゃないのでは、と思うこともあったりして、最近は複雑な心境でもあるのだが、そもそもパッケージが提供されていないと簡単に入れることもできなかったりするわけで、やっぱりこれは Gentoo のいいところじゃないかと思う。

あと Gentoo の、というか恐らく GentooJP (Gentoo 日本ユーザ会)のいいところだと思うのだが、コミュニティがアットホームなので、質問しても「ググレカス」と言われることはまずなく、みんな丁寧に応対していたりするのはとても好きである。(2ちゃんねるGentoo スレッドも、他のディストリビューションと違ってほとんど荒れないのが印象的であった。もう見ていないが……)

実はここまでが前振りで、書きたかったのはここから先である。今月号の「情報処理」を見ていると、3月8日から12日まで開催される情報処理学会年次大会のイベント特集があって、どれも魅力的なのだが、GentooJP の方々が翻訳に関するセッションを持つそうで、ここで特に紹介したいと思ったのである。そのイベントは月10日 9:30-12:00の誰が,何を,いつ,どこで,なぜ,どうやって翻訳するか?というセッションで、

翻訳は,日本と世界との関わりにおいて多大な影響をもつ.近年,Web等の発達により,オンラインボランティア翻訳者が急増している.一方では,従来の産業翻訳者や文学等の翻訳者もいる.本特別セッションでは,これらの人々が集まり,それぞれの立場から翻訳について議論をすることを目標とする.

だそうで、自然言語処理の立場からコメントすると、イベント司会の内山さんは日本で統計的機械翻訳の研究をしていたら知らない人はいないくらい有名な人(日英対訳コーパスの研究と公開で著名)だし、パネル司会の影浦さんは、最近翻訳の研究をよくされているが、翻訳以外でも多彩な方なので、色んな場所でお見かけする(文系の言語学寄りの研究もされる自然言語処理研究者という意味では貴重な存在である)。

我らが GentooJP からは @1da2さんと @nacさんがパネル討論と

オープンソースソフトウェアのマニュアル等の翻訳
真藤 直観
オープンソースソフトウェアのマニュアル翻訳について,GentooLinuxの事例を中心に紹介するとともに,他のオープンソース関連の翻訳作業の現状について報告する.

ということで OSS における翻訳について話されるようだが、お2人とも昔から GentooJP の翻訳で精力的に活動されてきた方々なので、内容に期待 :-) 自分は Gentoo を使い始めてから直接 Gentoo 本家で活動してきたので、やりとりは基本的に英語だったし、ドキュメントも英語版を読んでいたのだが、いくつかマニュアル(man)の翻訳も手伝ったことがあるので、ソフトウェア開発とは違う気をつけるべきところがあるのだなぁ、ということも考えた。そもそも、自分が自然言語処理の研究をしようと思ったのも、こういうマニュアルを機械翻訳できるようにしたい、というのもあったし……(結局機械翻訳の研究は本腰を入れてやるには至っていないが)

これだけではなく他にもいろいろおもしろそうなイベントが目白押しなので、情報処理学会の会員で会誌が送られてきた人は、読んでみることをお勧めする。