たまには毛色の違う話でも。
- 作者: ポールクルーグマン
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2000/11/07
- メディア: 文庫
- 購入: 18人 クリック: 187回
- この商品を含むブログ (57件) を見る
を読んだ。かなりおもしろい。現在は武力による戦争でなく国と国同士が経済的に競争しているので、こういう国同士の経済「戦争」に勝利することが大切だ、という見方がいわゆる有識者とか知識人階級に蔓延しているが、そういう意見は全くでたらめで、ちゃんと経済学を勉強した人ならすぐにウソが見破れるのだけど、自称評論家がもっともらしく数字を出して(計算すればすぐ間違いと分かるのに)声高に叫んでいるのは我慢ならない、という話。
経済学というのは現実世界に近い学問の割に研究者があまり報われない不遇な学問だと思うが、こういうふうに啓蒙(?)していくのも研究者の一つの大事な仕事なのかもしれない、と思う。
後半は(日本以外の)アジアの急成長は基本的には技術革新ではなく資本の投下の増大で全部説明できる(要因を全部入れて分析したら技術革新で説明できる部分がなかった)ため、アジアが今後も継続的に発展して世界最大の経済中心になる、というようなシナリオはないだろう、という予測。逆にヨーロッパとかアメリカとかがずっと規模拡大できているのは、資本の投下の増大以外にもちゃんと技術革新が伴っていた(つまり投入コスト当たりの収益が増えていた)、という事実があり、技術革新が伴わない成長はどこかで必ず行き詰まる、ということ。(これは人間に対しても言えるのかもなぁ)
ソ連の崩壊も同様のモデルで説明できたというのは後から言えばそうだろうなと思ってしまうところだが、それと現在のアジアが同じ状況だっていうのは新しい。彼の指摘(正確には彼が紹介した非主流の研究)が正しかったかどうか、しばらく念頭に置いて静観してみたい。
(追記) はてなブックマークのコメントで「アジアの技術力は日本人が思う以上に向上しているよ。見くびっちゃいけない」とあったので追記しますが、本書を書いたのはアメリカ人であり、なおかつ「アジアの技術力が向上している」というのがいわゆる知識人階級の「常識」であるのを理解した上で、技術力も評価対象に加えて経済学的に分析した結果、資本の投入でほぼ全部説明できた(技術力によるものだと考えられるのは1%程度だった、と書いてあったかな)、という内容なので、誤解なきよう。見くびっているのであればわざわざそんな分析はしませんし、常識はこうだが本当にどれくらい技術革新が貢献しているのか、ということを実証的に解析した結果、常識に反する事実が分かった、ということです。
あと技術革新というのは絶対的に技術が進歩していることが重要なのではなく相対的に優位であることが重要なので、いくらアジアの技術が進もうが、西欧諸国と比べて(その分野で)相対的に遅れているのであればほとんど関係ないのですが、こういう「比較優位」という考え方も(大学の経済学の講義では1年生でも習うくらい初歩的なことなのに)なぜかいわゆる「知識人」階級の人たちは無視して議論をする、というのを指摘しています。