バカと東大は使いよう

非常勤講師の行き帰りで時間があったので、買ったまま積ん読になっていた本を取り出してみた。

バカと東大は使いよう (朝日新書)

バカと東大は使いよう (朝日新書)

タイトルからしてしょうもないことを言っているのかと思いきや、読んでみると中身は「大学論」とか「学問論」に相当するような内容で、けっこう楽しめた(最初のほうの学生とのやりとりもリアルで笑えるけど。いや、笑ってはいけないか)。古典だが丸山真男

日本の思想 (岩波新書)

日本の思想 (岩波新書)

で「専門バカ」のタコツボ型と「教養あるスペシャリスト」のササラ型の対比を真っ先に思い浮かべるが、本書ではさらに進んで現在の日本の学問はナメクジ型(どこにも焦点がない)に向かっている、と警鐘を鳴らす。結局のところ「いろんな状況にも対処できるスペシャリスト」を育成しましょう、という話なのだが、東大の「知の構造化センター」設立の経緯も絡めて書いてあったりして、おもしろい(「知の構造化センターは自分の意図通りに行っていない」と述べているが、たぶん他の人に意図が伝わっていない、というか、言いたいことが曖昧すぎて伝えるのは無理だと思う……)。

あと、東大の第二工学部の話(たとえば立花隆「東京帝大が破れた日」)は初めて知ったのだが、戦争用の学部までこさえていたのね〜(そしてそれが現在の生産技術研究所に)。あと、精密工学科は造兵学科だったそうで、上記リンクには

精密工学科の歴史をひもとくと,その始まりは,1887年に設置された「造兵学科」にまでさかのぼります.造兵学科は,第二次大戦終了後「精密加工学科」へと改称され.その後,いくつかの学科名の変遷を経て,1963年以降は「精密機械工学科」として活動を続けてきました.

1999年,来るべき21世紀の新しい教育を模索するため,精密機械工学科は最後の学生受け入れを行い,その後,活動を一度停止しました.そして数年間の充電期間を経た2006年,新たなビジョンと教育手法を携え,「精密工学科」としての新しいスタートを切りました.精密工学科は,伝統と新しさを兼ね備えた学科なのです.

とまで書いてあり、むしろ造兵学科であったことを誇りにしている(?)らしい(ちなみに同窓会は「造兵精密同窓会」だそうだ)。

内容的には武蔵でみんながぐだぐだやっていたときの議論と同じような話が延々書かれていて、個人的には非常に楽しめた(全く武蔵のむの字も本文には出てこないが、謝辞には武蔵の先生方の名前が何人か書かれている)。学級新聞にこの本の1章と同じ内容が載っていても全く違和感ない。武蔵生は特に楽しめると思うので、こういう話に興味がある人にはお薦めである。

物語 大学医学部 (中公新書ラクレ)

物語 大学医学部 (中公新書ラクレ)

も最近読んだが、こっちは内容が古かったのもあるが、医学部の不透明な入試とかそういうブラックなテーマばかりで、しかも書き方が誇張して書いてあるので、ちょっと閉口。こういう話知らない人には全国の医学部の内容が網羅されていてまとまっていていいと思うが、知っている人にはあえて新しいトピックがあるわけでなし、物足りない感じ。もっと学閥のこととか利権争いのこととか突っ込んで書けばいいドキュメンタリーになると思うのだが、それは期待しすぎかなぁ。