修論を書き終わるころには日本で一番の専門家になっている

昨日から後期の授業が始まっていたのだが、自分的には今日が最初の講義。教科書の指定を早くしておけばよかったのだが、慌ててしたので当然のことながら初回の授業には間に合わない。受講生にも生協の方々にも申し訳ない感じで、反省……。

ちなみに指定した教科書はいわゆる「アリ本」。

プログラミングコンテストチャレンジブック [第2版] ?問題解決のアルゴリズム活用力とコーディングテクニックを鍛える?

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Kindle で買うと安いのだが、テキストが電子的にレイアウトされているわけではなく、紙の本をスキャンしただけみたい。まあ、自分でスキャンする手間を考えると、これでもだいぶ楽ではある。

さて、今日から始まる後期の授業は石川先生と分担して学部2年生の演習の授業。水曜日は「日野デー」と称して、2年生は朝から夕方まで1日、日野に来るのである。というのも、システムデザイン学部は首都大の中でも特殊で、1-2年はメインキャンパスである南大沢で一般教養を学び、専門科目を学び研究がスタートする3年次以降を日野で過ごすからであり、3年から突然日野だとギャップがあるので、少しだけ滑らかに接続するために週1日だけ日野に来させるようである。

この授業、自分は「アルゴリズムとデータ構造」の演習を、石川先生は「プログラミング基礎」の演習をそれぞれ半期で分担するので、ガイダンスを除けば1人7回ずつやればよい計算である。始まる前はもっとああいう授業にしよう、こういう授業にしよう、と考えていたのだが、前期に自転車操業で授業をした体験からすると、事実上そんなに授業を準備できる時間はないので、基本的にテキストに沿ってやることにする。ベースとなるスライドができあがれば、そこから少しずつ改良していけると思って……。(今学期はこの演習の他に学部3年生のゼミ、プロジェクト実習および大学院のプロジェクト実習があるので、12月までは大変そう)

2年生を前にすると、なんだかフレッシュな気持ちになる。乾先生が、九工大時代は学生を目に入れても痛くないと思った、とおっしゃっていたが、そういう感じかもしれない(学生委員や学部教務を担当すると、意見も変わってくるかもしれないが)。恐らく来年入学してくる1年生が2年生になって日野に来るころ(3年後)には、もっと強くそう思っているだろう。

短い昼休みを挟んで、同じく2年生の「基礎実験」のガイダンス。実験自体は助教とTA/RAが担当するのだが、幹事は(欠席や遅刻の連絡をする先なので)初回に出席することになっているそうだ。

ちなみにこの基礎実験の授業、無断欠席すると即留年、連絡があろうと数回遅刻するとそれでも留年するという恐ろしい授業(3年前期に週2回ある「応用実験」も同じ)で、もし自分がシステムデザイン学部に入学していたら間違いなく卒業できなかったと思う。なにせ、自分は中高のころですら、15回遅刻すると留年する学校にいて、自宅まで電話がかかってきたくらいなので……。

14時から企業の方とミーティング。産学公連携センター経由で依頼されたミーティングなのだが、直接自分の研究室の研究テーマを見て聞きたいという問い合わせが来たわけではないので、お互い微妙な感じになる。

特に今回がっくり来たのは、困ってらっしゃる問題に関して「それはまさに自分が博士後期課程の学生のとき取り組んだ研究内容なので、お手伝いできます」と提案したのに、「学生が考えたようなレベルの研究内容だったらちょっと」というような感じで難色を示されたことである。

確かに博士後期課程の学生は学生ではあるのだが、「博士課程でその問題に取り組んだ」というのは言い換えると「その研究テーマでは世界で5本の指に入るくらい詳しくなった」ということなので、これでお気に召さないのであれば、恐らく満足いただけるのはコンサル料を数百万〜数千万取るような企業に相談に行ってくださることであろう(こちらはメールベースの相談なら無料、共同研究や技術相談でも数十万から数百万のオーダーの話をしているので……)。

どこかで書いたかもしれないが、自分としては、卒業論文修士論文・博士論文でそれぞれ目標なのは以下の水準であると考えている。

  • 卒業論文: 研究室内(大学内)でその研究テーマについてもっとも詳しくなる
  • 修士論文: 国内でその研究テーマについてもっとも詳しくなる
  • 博士論文: 世界でその研究テーマについてもっとも詳しくなる

現実的には「一番詳しくなる」とまでは行かないかもしれないが、「もっとも詳しいN人の中の一人」程度にはなっていることが期待されていると思うのだ。ちなみに、これはそんなに難しいことではなく、研究テーマのスコープをどんどん狭めていけば、どこかで自分が一番詳しくなるはずなので、あとはどこまで広くカバーできるかの問題である。

もちろん、「誰よりも詳しくなる」ことについては、共著者(指導教員)も含まれるので、自分としては一緒に研究をしている学生に、どんどん自分より詳しくなっていって、自分に新しいことをいろいろ教えてほしいと思っているのであった。たぶん、教員のほうが学生よりも知識があることを前提としている学部の3年生までとは、4年生以降は根本的に異なる学びである。「勝てるのは熱意」だけでもいいので、とにかく教員より上に行ってほしいと思うのである。首都大では4年間で就職して大学を卒業する人も1割程度いるので、そういう人の存在を考えると、卒業研究で少しでも「答えのない未知の世界」を体験してもらえれば、自分としては望外の幸せである。

15時から「SD(システムデザイン)フォーラム」というシステムデザイン学部(首都大の日野キャンパス)のオープンキャンパス的なイベントで研究室のポスター発表。学生が発表したりする研究室もけっこうある。とはいえ、自分の研究室はまだこちらに来てから研究的な成果が挙がっていないので、NAIST時代の研究について自分が話す。

参加者には一般の方や企業の方々もいらしたようだが、ほとんどは学生で、かつ首都大の学生のようである(外部の学生で、受験を考えている人も来ているようだが)。4年生での配属希望先を決める参考にもなっているようなので、それはそれで正しく活用されている気がする。

日野デーだったため、2年生も聞きに来てくれていたが、言語処理に興味があるらしく「どうやったら小町研究室に配属されますか?」という難しい質問。自分自身研究室配属のプロセスを体験しているわけではないのでなんともいえないが、心情的には成績じゃなくて自然言語処理の研究をどれだけやる気があるかで配属が決まるといいんだけどなぁ。