情報科学若手の会2012: 若いうちに失敗した方がいいのではなく、若いうちから失敗した方がいいだけだ。

朝6時に起きて、浜辺を散歩。情報科学若手の会自体は2泊3日なのだが、自分は今回2日目で帰ってしまうので、今日砂浜のほうまで行っておきたかったのである。

旅館から砂浜までは直線距離にして30mほどで、休み時間に行けるくらいの距離であるが、アルコールを抜こうと思って (最近はビールを500ml以上飲むと翌日に響く) アクエリアスを買ってぶらぶらしていると、同じく散歩に来られていた [twitter:@katchamans] さんとお会いしたので、二三悩み事の相談に乗ってもらう。結局、何が正解なんてものはなくて、いつまでもそのときどきに目の前にあることで悩み続ける、ってことなんだと思う。

朝ご飯を食べてから部屋に戻り、[twitter:@nishio] さん、[twitter:@overlast] さん、[twitter:@air] さんたちといろいろ雑談。潜在意識で働きたくないと思っていたら、就職活動がうまくいかなくてもおかしくない、という意見は、そういう角度から考えたことがなかったので、ハッとした。どこかで腹をくくって、自分を騙してでも働きたいと思うようにしないと、採用面接を突破できない、と。

午前中のセッションでは、[twitter:@nishio] さんの発表がすばらしかった。このためにプログラミング言語のデモまで仕込んであるというのは脱帽である。先日のSVM合宿のとき実験結果の報告までされていた[twitter:@hjtakamura] さんのように、合宿にかける情熱が違う。1日程度の準備で話せる程度のことであれば合間を縫って準備するのはやぶさかではないのだが、それ以上となると継続的に時間を確保する必要があり、今の自分にもっとも欠けているのは1日以上の時間を確保する能力だと思った。

お昼前に10分ほど (と言いつつ結局20分) お時間をもらい、昨日の夜のセッションで話そうと思っていた内容と、今回の若手の会の感想をお話する (参加者は全員、3日目のクロージングセッションで感想を言うので、それを早目にした、ということであるが)。あまり説教くさい話にしたくないのだが、「小町先生」と言われると聞くほうも身構えてしまうような気がする (確かにそういう身分になってしまったのだけど……)。まあ、話したいことを話せたので、聞いてすぐやる気が出るような話ではないが、3年とか5年のスパンで「そういえばあんなことを言っていた人もいるな」と思い出してもらえればいいかなと思った。

最近「勝ち続ける意志力」という本を読んでいたく感銘を受け、自分もこれくらいの意志力を得たいと思っている。この本は自分が今年読んだ本の中でトップ3に入る本なのだが、プロの格闘ゲーマーで何度も世界チャンピオンになっているという著者の、「勝ち続けるには」という考え方に、研究者としてとても共感するのである。大学院生全員に読んでもらいたいくらいである。(自分が昔ゲーマーで、かつ将棋も指していたから、この著者への共感にはバイアスがかかっているとは思うが)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

勝ち続ける意志力 (小学館101新書)

成功体験も書かれているが、その裏にある壮絶な努力と覚悟、葛藤に圧倒される。こういう本にありがちな薄っぺらい自伝的エッセイだろうと思って最初は全然期待しないで読んだのだが、世界トップレベルの人たちと戦うということ、そしてそれをずっと維持すること、というのは、それがゲームだろうがスポーツだろうが研究だろうが、並大抵のことではないし、どのような心構えで自分が強くなり、そしてプロゲーマーとして世界的に活躍しているのか、という生き方は、研究と非常に似ているのである。

自分が一番好きなのは以下のくだりである。

 若いうちに失敗した方がいいのではなく、若いうちから失敗した方がいいだけだ。
(中略)
どん底から立ち直った人間は、顔つきが違う。目に力が宿っていて、絶対に負けを認めない信念を感じる。そういう手合との対戦は、いつまで経っても決着がつかず心底疲れるのだが、なぜだか晴れやかな気分になってしまう。
 僕も、多くの失敗を重ねてきた。ゲームに関してはほとんどすべてに階段を登ってきたので、何度も間違った階段を登った。その階段の先が成功につながっていない間違った階段だ。
 しかし、間違った階段を登ったと気がついたら、スタート地点まで引き返して、もう一度違う階段を登ればいいだけの話である。
(中略)
 階段を登れば、それが正しい階段であろうが、間違った階段であろうが、必ず何かが残る。間違った階段を登ったときに手に入れた経験値があれば、また違う階段を登るとき少しだけ登りやすくなる。(pp.246-248)

自分自身、大学にも7年いたし、(若手の会でも話したように) これまでの人生、成功より失敗のほうが多いのだが、1回失敗したくらいでは諦めないし、3回挑戦してどこかで1回通ればいい、という気持ちで日々生活しているので、そういう「しぶとさ」を持てばもっと活躍できる人が世の中にいるんじゃないか、と思っている。なんでも1回でクリアしてしまうスマートな人には分からないかもしれないが、自分のようにあまり器用でない場合、何度跳ね返されても挑戦して、いつかは越える、というスタイルが向いているんじゃなかろうか。(自分自身、シドニー大学に交換留学で行ったのが、人生のターニングポイントだったが)

午後のセッション1つ目は [twitter:@iwiwi] さんによる招待講演で、プログラミングコンテストに関するお話。「プログラミングコンテストはスポーツだ」というのがおもしろい。上記のゲームの話に通じるが、世界と伍して戦っている楽しさ (苦しさ) というのが存分に伝わってくるよいトークだった。自分もそれくらい研究をがんばりたいと思うのであった。

午後のセッション2つ目は [twitter:@kunihirotanaka] さんによる招待講演。@kunihirotanaka さんは高専時代から16年かけてどのようにさくらインターネットを作ってきたか、というお話をしてくださった。昨年の[twitter:@hillbig] くんと同じく、会場から事前に募っていた (数十個の) 質問の全てに答える、という形で、いろいろ悩んだりもするけれど、楽しくやってます、というのが大事なのかなと思った。

あと、研究には期待しているそうで、現場ではお客さんからの要望に応えるのに精一杯になってしまうから、研究ではそういう世の中から離れて新しいことを考えてほしい、というお話に勇気づけられた。運用だと大学で学べることより働くほうが学べることが多いということがよくあり、仕事が楽しくなって大学を中退してしまうということがあったりするそうだが、負荷分散をしたかったり細かいチューンニングをしたかったりするとどうしても大学で体系的に計算機科学を学び、かつ大学院でそれなりの深さまで掘り下げて研究をした人との差が歴然としてくるし、苦しくても学位を取ることは意味があるので、せっかく入学したんだったら、修了するのがしんどいからと途中で辞めたりせず、形だけでも最後までやって修了したほうがよい、というお話もランチのときされていたのが印象的だった。

残念ながら夕方で若手の会を退出したのだが、[twitter:@takuho_kay] さんが車で駅まで送ってくれた。道すがら、若手の会もそこそこ年齢的に多様な人が来てくれると嬉しいだとか、[twitter:@yamashitam] さんや [twitter:@asanon_s] さん、[twitter:@p3nq3n] さん、[twitter:@sowawa] さん、そして海の向こうにいる [twitter:@norizm] さんも含め、幹事の方々どうもお疲れ様でした!