ACL 2012 本会議初日: 大きな中の小さな話をしっかり書く

泊まっているホテルは6部屋くらいしかなく、60歳前後のご夫婦が (恐らくご夫婦だけで) やっている個人ペンションみたいな感じなのだが、昨日「日本人がチェックインして、ナカムラさんというそうですが、知っていますか」と言われて、どのナカムラさんだろうと思っていたら、[twitter:@hjtakamura] さんだったようで、一緒に朝食。自分も @hjtakamura さんが「韓国のホテルが取れない」とつぶやいていたのを見て慌てて動いたので、独立にホテルを予約していたとはいえ、そこまで偶然ではないが……

せっかくなので、代金は交互に払うということで、朝は毎日一緒にタクシーに乗って行くことに。初めて乗ってみたところ、済州島はタクシーがものすごく安い。1時間歩いた道程をタクシーだと10分とかからず、代金は350円ほどで行ってくれる。これは昨日使えばよかったと少し後悔……

初日は登録を済ませ、招待講演。Aravind Joshi さんが ACL の歴史について語ってくれる。もともとは AMTCL といって「機械翻訳と計算言語学に関する会議」であったらしく、途中で (一悶着あったが) 機械翻訳の看板を下ろし、20年ほど前から真の意味で国際会議になった、ということである。生き字引みたいな感じで昔話を聞くのはいろいろとおもしろい。自分は今後50年も自然言語処理の分野で仕事はしていないのではないかと思うが (50年後には80歳超えている)、ずっと見てこられたんだなぁとしんみり思う。

お昼ご飯は [twitter:@hiroshnakagawa3] さん、[twitter:@chokkanorg] さん、ny23 さんと韓国料理のお店に。ny23 さんとはいろいろとお話したかったので、ランチの行き帰りのバスでもいろいろとお話できてよかった。ランチのときは、隣にたまたま坐った HKUST の Dekai Wu さん のところの研究員の方と、中英翻訳や述語項構造を使った翻訳の評価尺度の話などできてよかった。中国語処理もやってみたいのだが、そちらに割ける時間的リソースが自分にない……。

初日のオーラルのセッションは、Meaning I →Parsing I →Aspect と出てみたが、どれもいまいち。トーク20分、質疑5分なのだが、最初15分くらい先行研究 (自分の研究の過去の話ならともかく、他人の研究なのにそれと分からない形で) 聞かされて、「ここからが提案手法です」と1-2ページだけ説明してあとは実験結果、エラー分析もなく結論、みたいな感じの発表が少なくなく、微妙な感じ。確かに先人の研究の上に成り立って自分の研究があるのだし、通りやすい (落としにくい) 論文はちゃんとこれまでの流れを押さえたものになっているというのもあるのだろうが、話を聞いて「ほほう、これは自分も試してみたい」と思うようなのはないかなぁ。(あとでそういう感想を他の人に伝えたら「アメリカの大学は PhD を取るために一貫した仕事をしないといけないから」と言われて、確かにそれもそうだと思いつつ、せっかくの ACL なんだからもっと「これは思いつかなかった!」あるいは「この問題に取り組んだのはすごい!」というような発表があってほしいと期待したり……)

とはいえ、(自分も愛読している) 松尾ぐみの論文の書き方 でも

日本の研究コミュニティでは、こうした洞察を持つことが非常に評価され、こうしたパターンの論文もよい論文とされますが、国際的な論文ではそうではありません。

レベルの高い会議で、どうしてこれが通るのかなぁ、つまらない研究だなぁと思うことも多いかもしれませんが、要するにその背景には、知識は積み上げるものであり、したがって共有された問題に対して着実な解決を繰り返すことが重要であるという意識があります。国際的なコミュニティは、まさに異文化のコミュニティですから、当たり前のことを当たり前に書くしかないのです。それさえ気をつければ、日本の研究は十分、いえ十二分に通用します。

とおっしゃっており、しっかり通すために必要なことをして通るべくして通った、ということだろう。人工知能学会誌の2012年7月号 (まだウェブに目次がないので確認できないが……というかそもそも目次だけでは確認できないか) のあとがきにも、日本では AAAI (人工知能分野における世界トップレベルの会議) に通ったらすごいという意識だが、アメリカの PhD の学生にとっては博士号を取得するためには通さないといけないから通って当たり前という意識で、研究の質はそこまで差はなくても意識が違うのをなんとかしないといけない、というようなことを書かれていて (思い出しながら書いているのでうろ覚えだが、手許にある人は封を開けて見ていただきたい)、そうだよなぁ、と考え込んだりした。

夕方はポスター。ポスターは、short paper (4p) と long paper (8p) と半々で、short だからポスターと決まっているわけではないようで、内容的にポスター向きか口頭向きかで振り分けられているみたい (もしかしたら口頭発表の数を抑えるためにポスターに回されたフルペーパーはあるかもしれないが)。しかし、long paper でも short paper でも、ポスターを見ていてもこれといってピンと来るものがないのだが、なんでだろうか……。