奈良先端大はできてから20年経ちました。

昼から20周年記念式典と記念講演へ。目的は iPS 細胞を発見したことで有名な山中さんの講演を聞きに行くことだったのだが、一般の参加が1,500人来て半分断った、とかいう話を聞いていたので、座席がないと嫌だから一応式典から聞いてみるか、という感じで行ってみる。NAIST を作った当時 (国から科学技術系の大学院を2つ作りたい、という話が出てきて、奈良県で引き受けることになった経緯) のお話が聞けたりして、これはこれでよかった。

山中さんの講演は、以前この日記でも紹介した本に書かれてたことと90%以上被っていたが、やはり直接聞くのは違う。特に、自分が NAIST に来てから研究室を立ち上げたときの話、苦労したときの話は声で聞くと重みを実感する。NAIST は1学年百数十人の学生を20ほどの研究室で「奪い合う」のだが、研究室を立ち上げたとき、助教授 (当時) しかいない自分の研究室に学生が来たくなるように、研究室紹介では「夢 (vision)」を語り、この問題が解くべき未解決の問題であるから、みんなやりましょう、とだけ言い、その問題がいかに難しいか、どれくらいの人が挑戦して破れていったのか、ということは言わなかったら、来てくれる学生は0人でも仕方ないな、と思っていたのに、とびきり優秀な人たちを含めて3人の学生が来てくれた、という話。

あと iPS 細胞の発見に関しても「自分がやったのは監督のようなものであって、実験は全て彼ら・彼女らがやってくれました。優秀な学生さんたち、技術職員さんたちがいなければ、こういう研究にはつながりませんでした。そして、iPS 細胞に関する研究のほとんどは、奈良先端大時代の仕事なのです」と、それぞれの学生さんの顔写真を出しながらエピソードを話してくれたり、周りの人を大事にされているのだなぁ。と思う。

もう一つ印象的だったのは、山中さんはいったん研修医 (インターン) として働いたあと基礎医学をやることを決意してサンフランシスコ (グラッドストーン研究所) で4年間ポスドクとして過ごし、日本に帰ってきて、アメリカとの研究環境の落差に PAD という病気にかかるのだが、「こちらにいらっしゃる方の中にはお医者さんもいらっしゃるでしょうが、この病気はご存知ないと思います。なぜなら、私が命名した病気だからです。この病気、なにかと言いますと、英語で恐縮なのですが、Post America Disease という病気です」と言うと、会場の一部からどっと笑い声がする (笑) 

サンフランシスコというとカリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF) もあり、UCSF は NAIST と同じような大学院大学で、医学の研究で世界的に有名なのだが、グラッドストーン研究所と合わせて、そこらじゅうにノーベル賞受賞者が歩いていて自分の話を聞いてくれて、テクニシャンの人がいて実験の手間がかかるところは全部やってくれて、大学院生はみんな授業料免除で奨学金あるいは RA ももらっていて、といったような環境だったのだが、日本 (大阪市立大学) に帰ってきてからは、週2回200匹のマウスの世話のためにカゴを冷たい水で自ら手洗いしなければならなかったり、アメリカで論文を書くという仕事から日本では (Assistant Professor なのに) マウスの世話の仕事になって、何回かアカデミアから去ろうと思って、もうこれは無理、なにかきっかけを作って臨床に戻ろう、と思っていたそうだ。

そうした矢先、日本の国内学会誌の公募欄で奈良先端大の助教授 (教授がいない研究室で、助手も採用できたので、いまでいう准教授) のポストを知り、募集テーマを見たら自分にぴったりで、奈良出身なのに知らない大学で (笑) あやしいと思ったが、どうもできてから10年くらいの歴史もあるようだし、調べてみたらなんと国立大学じゃないか (爆)、じゃあ応募しよう、これで落ちたら研究はすっぱり辞めよう、そういう覚悟で応募したとのこと。

それで応募した NAIST助教授の選考に、8月のこれまたお盆の最中、学生たちが全員いないので自らカゴを水洗いしていたら、鳴るはずのない電話が鳴って、なんだろうと思って出てみたら、NAIST からの電話で、最終選考に残ったので奈良に来てお話を聞かせてくれませんか、とのこと。結局トントン拍子に選考が進み、助教授として栄転が決まったということだが、そこから得た教訓は「お盆にも働いた方がよい (work hard)」ということだったという (笑)

上記のようなおもしろいエピソード、全部以下の本に書いてあるので、興味ある方はぜひどうぞ。先輩から「ジャマナカ」と呼ばれていじめられた話とか、講演会では紹介しきれなかった話もたくさん載っているのだ。

「大発見」の思考法 (文春新書)

「大発見」の思考法 (文春新書)

夕方は東京へ移動。今回は急ぎではないので「ひかり」なのだが、自分の乗っている車両が自分だけだったのでちょっと得した気分。急いでいて「のぞみ」に乗るとけっこうビジネスマンが乗っていたりしてあまりくつろげないのである。ものすごい勢いでキーボード (特にうるさいのはなぜかいつも Let's note 使っている人) 叩いている人がいたりするのだが、そういうのを使っている人がいるにしても、もう少しゆったりと過ごしたい。iPad のよいところは、使っていると仕事をしているように見えないところだな〜 (実際、iPad でヘビーな仕事もできないとは思うが) 自分も出張を iPad だけにするのが理想。でも MacBook Air を持ち歩かざるを得ないことが多々。無念。