学生のうちは先生の名前を使ってでも人に会ってよい

丸山真男 人生の対話」を先日読んだ。

丸山眞男 人生の対話 (文春新書)

丸山眞男 人生の対話 (文春新書)

実は丸山の本はちょうど高校生のときに全集が出ていたので数巻読んだのだが、相当難しくてそのまま放置してしまったのだが、自分の高校生時代を思い出すようでおもしろかった。この新書、前から感想を書こうとして本を探しているのだが、どこかになくしてしまったらしい。残念……

この本がおもしろいのは、丸山の思想がどうかということではなく、丸山がどう考えて生きていたか、その人となりを丸山のいわば内弟子の中野雄が紹介しているというもの。

丸山が、学生に対して、いろんな人と出会うのがあなたがたにとって大事なことなんだから、丸山の名前を使って会える人がいるならいくらでもお手伝いします、自分をもっと使ってください、と言うのはさすが。自分も学生を引き連れて企業見学を何回もさせてもらっているが、ここまでオープンに言う姿勢は見習うべきかもしれない。自分も国際会議に初めて参加したときは松本先生の名前はどこに行っても通じてびっくりしたものだが、「◯◯先生のところの学生です」と言って話のきっかけになるのであればどんどん使えばいいと思う。ちなみに「◯◯先生のところの学生です」とメールに書いて返事をくれなかった人もたくさんいるが、それはそれ、これはこれ。それに頼って行動するのではなく、結局は本人の実力次第なのだから、きっかけとしては自分も学生にもっと利用してもらえればと思っている。

あと、冒頭から「東大生は優秀だが優秀なだけで全然頭を使わない」というような東大批判から始まるのだが、手弁当セミナーをするときも「どんな大学の人でも参加は歓迎だが、東大生だけはお断り」という徹底ぶりはすごいものである。(丸山は東京帝大在学中に助手になり、そのままずっと東大にいたのだが) 自分はそこまで悪し様に言わないが……(まあ丸山に言われたら納得せざるを得ないだろう)

著者は現政策投資銀行にずっといたらしいのだが、かつて留学を命じられてスイス銀行に行っていて、留学の目的はなにかあったときにスイス銀行を思い出して融通してくれることだから、なにも仕事はしなくていいからできるだけ人と会って見聞を広めてください、という密命があったことだとか、丸山もこれには「大蔵官僚というのは優秀なんですね。常に天下国家のことを考えている。ただの理想論ではない。よい上司に恵まれていますね」というようなことを言ったと。日本の大企業でも社費による留学制度が現在でも続いているところはあるだろうが、天下国家のことを考えて送り出していた時代もあったのだなぁ。

いま日本の外に出て行く人は、自分のキャリアのことは熱心に考えているのだろうが、どこまで日本のことを考えているのだろうか? 今年もノーベル賞を取ったと浮かれている日本人も多いだろうが、去年の南部さん (アメリカ国籍も取られているが) や根岸さんのようにアメリカの研究にどっぷり使った人ばかり、というのは (世界的にもそうなので仕方ないとは思うのだが)、日本の実力からすると残念。海外に行っている日本人が受賞してニュースになるのではなく、日本に来ている外国人が受賞してニュースになるくらいでないと……。