落ち着いて新書を眺める暇もない

そういえば、最近読んだ本について紹介していなかったので、久しぶりに書いてみる。4月以降、そもそも本を読む時間がほぼ存在しないので、急速に活字離れをしているが……。

1冊目は「スマホに満足してますか?ユーザインタフェースの心理学」。

メインタイトルは釣りで、サブタイトルが本来の中身を表していて、いろんなツールやシステムのインタフェースの分析、というかエッセイ集。それぞれが短いので、読みやすいと言えば読みやすいのだが、あれ、ここでこの話は終わりなの? というような話が多く(ジャンプの連載漫画が突然打ち切られているような……)、若干尻切れとんぼ感がある。

理学と違い工学は、使い勝手の悪いものを使いやすくすることに意義があるので、頭のよい人より頭の悪い人のほうが向いている、というような話が書かれていたのが印象に残る。

確かに自分も言語を専門にしようと思ったのは、シドニー大学に留学し、英語学の授業を取ったとき、英語ネイティブの人は全然(英語以外はおろか英語ですら)文法が分からなかったのに対し、英語非ネイティブの自分はどの問題もよく分かり、ネイティブの人たちを抑えてクラスでトップ(High Distinction)の成績を収めた、というのが自信になったのがきっかけだった。つまり、英語ができないからこそ英語についてしっかり学ぶ必要があり、何を知らないと理解できないか、ということを意識できるので、できない人のほうが研究者としては有利で、この分野なら世界で戦える(逆に言うと、哲学の分野では世界で戦えない)、と思ったのである。

首都大でも世界に通用する研究ができる、と思うのはこのためで、素直な学生が多い(これまであまり研究的なことをしたことがないが、単にやったことがないだけで、ポテンシャルがある)ので、変に頭の回転が速いと実験する前に先を予想して着手せず、何もやらない、という人が往々にして存在するのだが、理論的な研究分野はさておき、自然言語処理は割と泥臭い部分が多いので、あまり深く考えずとりあえずやってみたらおもしろい研究結果が出た、ということがままあるので、とにかく時間をかけて取り組んでくれさえすれば(自宅から大学が遠いとか、アルバイトに忙しいとか、いろいろ研究とコンフリクトする事情もあるが)、研究に関しては適性のある学生がかなりいる、と感じている。

2冊目は「量子コンピューターが本当にすごい」。

量子コンピューターが本当にすごい (PHP新書)

量子コンピューターが本当にすごい (PHP新書)

最後の章を除き8割くらいはコンピュータの原理と歴史についての話で、そこの部分はよくまとまっていると思うので、知らない人にはよい概説書になっていると思うのだが、説明の中に大阪弁がかなり混じっていて、これがこの本の可読性を著しく下げている。大阪弁の部分を除けば前半部分の分かりやすさは5段階評価で4-4.5くらいあると思うのだが、大阪弁の部分が混じっていることでマイナス1-1.5で、総合的には分かりやすさは2.5-3くらいで、控えめに言ってとてもお勧めできる感じではなくなっている。編集者はなぜこれを止めなかったのか? と大いに疑問である。もはや、タイトルからして「量子コンピューターめっちゃいけてるで」にしといたほうがええんちゃう? という感じである(自分で書いてて心がざわざわしてきた……)。

Amazon のリビュー欄も大荒れで、ここまで大阪弁について非難轟々の本も珍しい(が、これに関しては自分も全く同感である)。両親が四国出身で家の中は関西弁の状況で育ち、兵庫に5歳までいて、奈良・京都に8年住んでいた自分がこう感じるのだから、関西弁圏以外の人の苦痛はもっとひどいのではないかと思う。全角丸括弧で囲まれているところを正規表現で削除するとか、電子書籍はコメントのところを全て折りたたんでデフォルトでは見えなくするとかすれば、まだ読めたものかもしれないが……。

後半の量子コンピュータの説明は一般書で読める(つまり専門書でないのでそこらへんの本屋に行っても本が置いてあり、雑誌でもないので1週間や1ヶ月で撤去されたりもしない)のは悪くないので、コンピュータの原理や歴史について分かっているが、量子コンピュータについて知らない人が、そこの部分だけを立ち読みする、というのがこの本の適切な読み方なのではないかと思う。