小説を書くように論文を書く、というのが研究者の仕事。

「小説家という職業」という本を読んだのだが、すこぶるおもしろい。

小説家という職業 (集英社新書)

小説家という職業 (集英社新書)

著者は工学博士で某国立大学の工学部の教授をしている(追記 デビュー当時助教授で、現在は退職されているみたいです。情報教えてくださった方々多謝!)そうなのだが、彼が大学の仕事のかたわら小遣い稼ぎを目的に37歳から小説を書き始め、実際小遣いどころか莫大な印税が手に入るようになったまでの経緯を書き連ねている。

自分は研究職というのは小説家と同じような仕事だと思っているのだが、小説家が気をつけなければならないこと、というのを読むと非常に参考になる。いや、確かにこれは必要。いくつも感銘を受けるくだりはあるのだが、一つだけ選ぶとするとここかな?

 もし読者の多くが、ある作品に対して「ここが良かった」と指摘してきたら、同じことはやりにくくなる。「もっとこうしてほしい」と書いてきたら、そちらへ進んではいけない。逆に、読者が「ここがつまらなかった」と批評してきたら、もう一度それに挑戦してみる。そういう天の邪鬼の方針が、より「創作」に相応しい、と僕は考えている。極端にいえば、「たえず読者の期待を裏切ること」が作家の使命なのだ、と信じる。

批判されたときこそ楽しい、と思わないと、とか、査読結果受け取るときと似ているなー

この本、どうしたら小説家になれるか、なんてことは書いていない。「本当になりたいなら、こんな本は読まずに書け。ブログなんか書いている場合ではない。20作ほど書いてから悩め」と書いてあったり、自分が(小説家としては)当事者じゃないか笑っていられるが、研究者としては「ブログなんか書いている場合ではない。ジャーナル20本ほど書いてから「研究者になれるだろうか」と悩め」というのと同じことだろう。10本も書く前から研究者として生きて行けるか悩むなんてちゃんちゃらおかしい、そういうこと。

なにが参考になるかというと、やはり作品を作ることに対する態度や考え方かな? どういう考えがあるからこういうふうにした、というのが逐一書いてある(普通は「こういうふうにした」しか書かれていない)ので、考え方が「えっ、そんなことまで計算して書いているの」とびっくりするのだ。まあ、自分も人のことは言えないが、同じタイプだからこそ分かることもあり、いやはや、上には上がいるものである。

あと、これと前後して「研究者」

研究者

研究者

という本も最近読んでみた。こちらの内容は少し古いのだが、いろんな研究者(益川さんとか野依さんとかその後ノーベル賞取った人がほぼ全員載っている。さすが人を選んでいる)のインタビューで構成されていて、自分がどのようにして研究者になったか、どういう研究をしてきたか、どうすればそういう研究ができるか、なんてことについていろいろ書いてある。

どこに書いてあったのか見つけられないが「なにがいい研究かは見せられたら分かる。どうすればいい研究ができるのかはわたしにも分からない」というある研究者の話が印象的だったが、基本的には「他人の後追いはするな。他人に後追いされる仕事をせよ」「国際的に流行っているテーマだからとその手法を少しだけ変えて論文にしようなどとするな。一つの問題を徹底的に考えよ。答えが何年も後にひらめくこともあるので、できるだけ「考え中」の問題を作れ」「2-3年で完結するような小さなテーマに取り組むな。10年20年先のビジョンを持って、信念を持って行動すれば結果はついてくる」みたいな話。

全体的にインタビューに温度差があるのでまとまりのない感じの本ではあるが、個々のインタビューは考えさせられるところが多かった。特に失敗談がたくさん盛り込まれているので、こういう研究をしてすでに認められている人でも、こういう苦労をしていたのか、というのは身につまされる。自分もここ数年はいろいろな意味で修行だと思っているので、しばらく力を矯める期間にしたい。