任天堂のこゝろ

2年前の今日婚姻届を出したので、今日から結婚3年目である。いろいろあったような気がするが、まあなんとか乗り越えてきたかな……。

さて、今日は

任天堂 “驚き”を生む方程式

任天堂 “驚き”を生む方程式

の紹介(最近夜型を改善しようとしているのだが、自分は本を読まないと早めに寝るつもりにならないらしいので、週何冊か読んでいる)。前たまたま本屋に行ったらあったから買ってみた。前@junjunさんから「アップルが楽しいなら任天堂とか Palm もおもしろいんじゃないかな」と言われ、少し頭のどこかにあったのであった。

はてさて読んでみると大変おもしろい。自分も昔はゲーム三昧の生活をしていたせいもあるので出現する話をリアルタイムで体験したからというのもあるのだが、それよりは「いかに娯楽サービスを成り立たせるか」という話がとても参考になる。研究も、「役に立つ」ような研究はあるのだが、基礎研究みたいな研究者が好きだからやるような研究って、結局は娯楽と同じであり、それは「他人と違うことをやる」というリスクを取って前に進むということなのだな、と思う。特に3代目社長、山内さんの話は参考になる。以下の引用は現在の岩田さんの話なのだが

「とにかく山内さんってすごい人なんですよ。ものすごく直感が鋭くて、何でこんなことわかるの? ということをズバっと言い当てるんですね。引退してからも、たまに電話で話しますと、何でここがわかるかなぁ、明日帰ってきても社長できますよ、って思うくらいに鋭い。で、私は直感で勝負したらアカンなと思いましてね」

とあり、これって自分が松本先生や乾先生、スタッフの方々と話していても同じことを思う。実際にデータを見てプログラム書いて実験しているのは学生である自分たちなのだが、結果を見ると「この結果はおかしい。こうなるはずがない。データかプログラムもう一度見直してみて」と言うと、ほとんどの場合ピタリと当たるのである。20年来の経験がそうさせているのかもしれないが、なんで実際に書いている自分以上に神業的に問題が分かるのかというのは、特に修士のころは恐れおののいたものである(最近はなんとなく自分も分かってきた)。

 なぜ山内は岩田を指名したのか。直感と言ってしまえばそれまでだが、どうしても本人に聞いてみたいことの1つだった。山内の答えは、こうだ。
「いったい何を基準にして任天堂に必要な人を選ぶのかと言えば、果たしてその人が『ソフト体質』を持っているか否か。実際に接してみると、この人はハードの人、この人は体質的にソフトに順応できる人というのがわかってくるんですよ。僕自身がソフト体質の経営者だから、そういうことがわかるんじゃなかろうかと自分では思っているわけです」

これ、プログラミングで言うと「ハードウェア」プログラマと「ソフトウェア」プログラマの違いかなと思うのだが、もう一段階上がる(上下ではないが)とエンジニアの人、研究体質の人という違いかなとも思う。自然言語処理は応用に近い特殊な位置ではあると思うが、すぐ使えることを意図していないような「研究」を続けていける人たちって、外に対して常にエンターティナーでなければならないと思うし、それは「ソフトに順応できる」のが大事なのかも。

『娯楽はよそと同じが一番アカン』ということで、とにかく何を作って持っていっても、『それはよそのとどう違うんだ』と聞かれるわけです。『いや、違わないけど、ちょっといいんです』というのは一番ダメな答えで、それではものすごく怒られる。それがいかに娯楽にとって愚かなことかということを、徹底していたんですね。で、そういう意味では、『よそと違うことをしなさい』ということは、我々のDNAの中に深く刻まれています

こういう話を聞くと、この研究、他所のとどう違うんだ、と聞かれて、「いや、違わないけど、ちょっといいんです」と言ってしまいそうな自分としては、ものすごい勢いで他の人と違うことをしようと思わないとだめなんだな、と思ったりもする(それが「役に立つ」ならその限りではないが)。当たるも八卦、当たらぬも八卦、ハイリスクな仕事に挑戦していかないと、この先生きのこれないと。この本の第6章と第7章は、いかにアイデア、つまり他の真似をしないことが大事か、真似をすることが愚かなことか、ということがこれでもか、これでもか、と書いてあるので、「ここまで骨の髄に叩き込まないとだめなのか??」と思うのだが、なんかとても納得できる話でもある。変に及び腰になってもいけないねえ。

WiiNintendo DS を作ることになった経緯として、これから先 PS3 などの「重厚長大」型のゲームでは飽きられることが目に見えているから、という話も、その通りだなぁ、と(今になって)思うわけだが、たぶん自然言語処理も同じ道を辿っていて、MapReduce (Hadoop) などを使ったり、超高速計算機を回しまくってシミュレーションしたりする重厚長大型の研究は、すでに普及期に入っていて、役に立つものが作れるという意味では研究と開発が近くてすばらしいと思うのだが、そういう研究ができる企業は限られてしまうという意味で、そんな土俵で戦うのはゲームの世界でいえばNINTENDO 64ゲームキューブ任天堂が惨敗したのと同じであり、小さな大学の研究的にはそこで勝負してはいけない、ということであろう(研究費がほとんどない大学だとそもそも対抗しようという気にもならないと思うので、中途半端に大きな大学だったら、ってことだろうけど)。

などなど、いろいろ読みながら分野は違えど考えさせられるところが多かったので、ゲーム好きな人であってもそうでなくても、読んでみる価値はあると思う。