Microsoft Research (研究の世界ではよく MSR と呼ばれる)が「マイクロソフト基礎研究所」になるところに少し恣意的なものを感じるが、内容には全く同意。どこかの国の科学技術行政に向けた取り組みと比べると泣ける(涙もろい)。マイクロソフト基礎研究所“最強伝説”は今も健在か?という記事。登録しないと2ページ目以降読めないのが腹立たしいが、登録して読む価値はあると思う。
(研究部隊は)無分別になって良いと言っているわけではない。研究のコスト構造やお金の使い先については、よりいっそう注意深くなる必要がある。ただ、基礎研究は会社の未来にとって非常にクリティカルなものであり、削減ありきの姿勢で臨まないというのが、われわれの哲学だ。
こういう意見が民間から出るのがアメリカのすごいところであり、これと逆のことを国がするのは日本のすごいことだが、MSR は本当に信じがたいくらいすばらしい研究環境なので、彼らが本気でこれを言っているのは保証してもいい。
2ページ目以降は引用するのははばかられるのでまとめだけ書くが、
- (基礎)研究というのは人材に投資するものである
- 基礎研究は結果をマネジメントしようとしてはいけない。数字だけに注目して一度始めたことを止めるのは愚の骨頂である
- 優秀な人が生産的になれる環境を整え、積極的にリスクを取らせるようにするのがマネジメントの仕事である
- 一つの分野で成功した研究者に、同じ分野で研究させるのではなく、新しい研究テーマに向かわせ、開拓させるべきである
- 使い方を必ずしも常に考えて研究しているわけではない。いま使い道が分からなくても、最終的に価値を産み出すのは優秀な研究者である
ということ。
学振や未踏も「税金を渡したのにたいした成果がない」と批判する人はいるだろうが、それは結果でマネジメントしているのと同じ。確かにツールができたり論文が出たりすることも重要だとは思うが、優秀な若者にリスクを取らせて、極論すると9割が税金の無駄に見えたとしても、成功する人が1割でもいればいいんじゃないか、と自分は考える。リスクを取らない(「傾向と対策」を立てて学振に応募してくるような)院生とか、やりたいことを中心に考えるのではなく、通るプロジェクトマネージャから逆算して未踏のテーマを決める学生がいたとして、確かに着実とした成果は上がるのかもしれないが、それこそ税金の無駄なんじゃないかなぁ、と思うけど……(確実に成果上がりそうな内容なら民間でやればいいんじゃない?とか)。自分もリスク回避型なので、あまり研究者としてはよろしくない傾向だと思っているのだが、ここまで支援してもらった分はちゃんと恩返ししたいと思っている。
リスク回避と言えば、先月くらいから、准教授になるなら大体論文は10本が目安、などと聞いて、今のペースがこうだからこれくらいのネタでこんな感じで出していけば、などと考えてしまうのだが、もっと自分もリスクを取っていいと思うし、むしろ取るべきだとも感じる。「博士号を取ったら自分の好きなことをしたらよい」と言う人と、「いやいやテニュア(任期がついていない大学の教員。最近の大学はどこも最初の5年前後は任期がついている)を取る准教授以降じゃないと危ない」などと言う人と、いろいろな意見をもらって、考えることもある。
思うに、「この分野にずっと今後もいる」と思った瞬間保守的になってしまい、あまりリスクが取れなくなってしまうのだが(家族の問題とかそういう事情もあるだろうが、それはひとまずおいておくとしても)、「この分野にはずっととどまっていないかも」と思いながら活動するのは、それはそれで業績の積み重ね難しいだろうし周囲からの信頼を得るのも大変だろう。コミュニティのメンバー全員が後者だと崩壊するが、全員が前者でも空気が淀んでよろしくないと思う(これは好みの問題で、保守的な人は全員前者でもよいと思う人もいるであろう)。コミュニティとしては少数派でもいいので、積極的にリスクを取って外のコミュニティや考え方を入れてくれる人がいたほうが、持続的な発展が望めるんじゃなかろうか?
社会の中でこういうリスクテイカーと保守的な人と役割分担してしまうと、望んで(エンターティナーのつもりで)リスクを取りたい人以外がリスクテイカーにされたとき(たとえばポストが十分なくてポスドクをやらざるをえないとか)悲劇が起きるので、個人で自衛するべきというか、自分の生活の中でリスクを取る部分と、そうでない部分は両方抱えて生きていったほうが、人生生きやすいんじゃないかと思う。純粋な人は矛盾していると感じるかもしれないが(そういうピュアさはなろうと思ってなれるものではないので、大事にしていいと思う)、人間葛藤するのは自然だし、全部「割り切れ」ているほうが不自然だと自分には思えるし、未解決の問題は未解決のまま置いといて、そのまま生きていけばいい。四六時中意識していなくても、そのうち、知らぬ間に解決していたり、自分が成長していたりすることもある。
最後は本の紹介で締めくくるが、
- 作者: 蒼井そら
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2009/09/09
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 760回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
2-3章の、短大を出たあとどういうふうに仕事をしてきたかの葛藤と、腐っていた時期をどう乗り越えてきたかという話と、最後の章で今後どういうふうに生きていきたいか、綴られた文章を読んで、上のようなことを考えた。彼女は(のたうち回るほど悩むのだが)やっぱり心底リスクテイカーだと思うし、人生の岐路に差しかかったとき、常にリスクのある道を選んでいる、という生き方に心を打たれる。彼女がやるなら、自分もやってもいいんじゃないか、と思う。勇気づけられる。
そういうわけで今後も(は?)もっと人生攻めていけたらいいなぁ。立ち止まったところが終わりだから。(もしかすると綿毛のように飛んで行って、とってもいい場所を見つけたから根を張っているのかもしれないけどね)