NLP2014 2日目: 大切なものは目に見えない

言語処理学会第20回年次大会の本会議2日目。本会議は3日間あり、本会議のあとにはワークショップもあるのだが、自分たちは明日に卒業式があるので今日のお昼で帰る。しかも今日は自分が座長のセッションがあるので、早目に朝ご飯を食べてそそくさと出発。

自分が座長だったのは、言語教育応用である。最近は国際会議で頼まれる査読も情報抽出・ウェブマイニングと機械学習に加え、自然言語処理の応用(言語教育)も同じくらいかそれ以上に頼まれるようになってきた。3年前には自分の中で影も形もなかった研究テーマだが、3年くらい本腰を入れて続けると、それなりに世界の先頭集団に食い込めるということが分かった、よい経験である。自分にとっては首都大の最初の5年が新しい研究テーマを熟成させる期間だと考えているので、5年後にはきっと今は分からない何かの専門家になっていたいものである。

発表の中では [twitter:@niam] さんのリンク予測を利用した語学学習用 SNS 上の友人関係グラフの分析が目を引いたが、このタスク自体に意味があるのかどうか不明なので、なんとも評価しづらい。友人関係から語学能力を推定するのは分かるが、その逆がほしいというのはどういう状況だろうか?(プライバシー保護が目的に挙げられているが、さすがにそれを押すのは無理があるような……。)

朝のセッションが終わると、午前中の残りは論文賞の特別セッションである。詳しくはそれぞれの論文を読んでいただければいいかと思うのだが、発表がおもしろかったのは[twitter:@hitoshi_ni] さん。速度が遅いが被覆率の高い要約を生成できる手法と、速度は速いが精度の保証がない手法とあり、後者のスタート地点として、被覆率が高くなるような制約を加えると、精度をそれほど落とさず大幅に速度を向上させることができる、という話。話が流暢で、さながら漫談を聞いているようであった。話す速度がマシンガントークであるのを除けば、学生たちのお手本にしたい発表スタイルであるが、やはり余人には真似しがたいものがある。

ただ、研究の内容に関しては、ちょっと辛口に言うと、最優秀論文賞にしてはあまり夢がないように思った。もちろん、実用的にはすばらしいし、論文として隙のない(査読のやりとりがトラウマで思い出したくない、という話を何度も聞いたのは初めて(笑))完成度の高い論文であることは間違いないが、この分野の先を切り開くような一石を投じる論文かというと、そうじゃないのではないかな。文書要約を研究する人にとっては、言及しなければならない論文の一つにはなるだろうが……(実用的な研究なのに、コードが公開されないとか、実装がそんなに簡単ではなさそうとかいうのが、自分がちょっと感じる微妙感に一役買っているのだろうとは思う)。たとえば、[twitter:@naoya_in] くんの ILP-based Inference for Cost-based Abduction on First-order Predicate Logic みたく、推論ができるようになった、みたいな話の方が、推論自体の研究をしていない人にとっても、夢が広がると思うのだけどな〜。

などということを考えていてもやもやしていたのだが、@hitoshi_ni さんが後日テキストに書かれている大切なこととはというエントリを書かれて、そうだよ、こういうことが言いたかったんだよ!と膝を打つ。さすが@hitoshi_ni さんである。ここでお書きになっている「自動要約の本質的な課題」に対するアプローチが今後見られるといいなぁ、なんて思っている :-)

論文賞のトークのあと、お昼に学生たちとホテルまで戻って荷物をピックアップし、お昼を急いで食べて電車に飛び乗る。けっこう飛行機の時間がギリギリで、チェックインカウンターに着いたときはフライトの20分前。セキュリティをくぐると15分前で、一目散に売店に走っておみやげを買って(外で物色する時間があればよかったのだが、フライト時間をタイトにし過ぎた)、なんとかセーフ。

羽田に着いてからは3人とも目的地が別だったので解散したが、行きも帰りも移動中にいろいろ話すことができたし、学会自体も楽しめたので満足である。本会議に半分しか出られなかったのは残念だが、年次大会は毎年あるので、また来年を楽しみにしようと思う。次回はうちの研究室から発表できるといいな〜。ちなみに来年は情報処理学会全国大会と共催で、京都大学開催だそうだ。