ACL 2013 チュートリアル: 暗号解読と自然言語処理の不思議な関係

朝起きて、夜は気温が下がるのかと思ったらそんなに下がらなかったのでがっかり。あまり寝つきがよくない気もするし……。

朝ご飯に行くと、どうやらDeaflympicの人たちと間違えられたらしく、日本人チームの席を指定される。[twitter:@keiskS] くんがいたので、そちらには混ざらず2人で食べたけど……。Deaflympic は聾者のためのオリンピックで、国際手話を使って会話するらしい。手を使って盛んに会話する人たちの中にいると、それが分からない自分はむしろマイノリティのような感じになるのだが、こういう感じを聾者の人たちがいつも味わっているのかと思うと、こうやって同じ境遇の人たちで集まって大々的なイベントができるというのは有意義なことだと思う。

さて、昨晩無線がつながらなかった件についてレセプションで聞いてみると、有線LANのケーブルをくれた。そういうことではないのだが、Mac 用のUSBのLANコネクタは (こういうこともあろうかと、出発の日に気がついて) 入れてきたのでよかった。

ACL 会場までは歩いて15分ほど。荷作りに行って戻ってくると[twitter:@cacaho] さんと[twitter:@Pnnc005j] さんがいたので、4人で一緒に行くことにする。

チュートリアルは Decipherment に出てみる。というのも、今年情報理論の授業をしてみて、情報理論の一つの応用として暗号解読のテーマを取り上げるといいなと思ったのだが、結局準備する時間がなく取り上げられなかったので、今回このチュートリアルで勉強して来年の授業に活用する、という魂胆である。

なぜ情報理論と暗号解読が関係するかだが、暗号には元々伝えたかったデータに関するある種の情報の偏りがあるため、その偏りを発見することによって復号 (解読) することが可能な (ものもある) のである。もっとも、現在は情報理論ではなく数論のような高度な数学を使った暗号が主流で、現在知られている方法ではほとんど解読不能であろう、とのこと。暗号解読と自然言語処理の関係について、以下のような表があったのが印象的である。

  • 人手による暗号化・人手による解読・人手による翻訳
  • 機械による暗号化・ヒューリスティックによる解読 (1920年代)・ルールベースの機械翻訳 (1960年代)
  • 数学理論による暗号化・情報理論に基づく計算機による解読 (1950年代)・統計的機械翻訳 (1990年代)
  • 高度な数学による暗号化・数論に基づく公開鍵システム (1980年代)・??? (2020年代)

ちょうど暗号解読の手法が40年後に機械翻訳に移ってくる、というのは興味深い現象である。戦時中の発禁文書が公開されるようになって、どんなことが暗号解読で研究されていたのか、というのが紹介されていたのもおもしろかった (笑)

チュートリアルのスライドは公開されていないようだが、重なる内容の Voynich 文書解読のスライドが公開されているので、興味のある方は参照されたし。こういう新しいテーマに果敢に挑戦する Kevin Knight さん、すごいなぁ。研究のヒントになるかどうかではなく、授業のヒントになるかどうかで選んでしまうところが、段々新しい環境に適応してきているのかもしれない。

あと暗号解読については以前も書いたことがあるが、「暗号解読」がおもしろい。こういう内容を来年話せるといいんだけどな〜。

暗号解読(上) (新潮文庫)

暗号解読(上) (新潮文庫)

お昼は Riedel さんや[twitter:@kevinduh] さん、shuhei-k くんらと会場のレストランに食べに行く。Riedel さんとは (よく査読やらなにかの募集やら頼まれることがあり) メールでよくやりとりしているのだが、「今度会ったら PI の悩みについてお互い話そうよ」と約束していた通り、話したりする (笑) とはいえ、実は首都大に来て3ヶ月が経ち、そんなに不満らしい不満はなく、むしろ今後どうしていこうかなぁ、なんて話をした。

午後は[twitter:@tuxedocat_tw] くんが到着したので少し発表練習に付き合う。今回ショートペーパーはポスターと口頭と両方の発表形態があるのだが、@keiskS くんはポスターなのに対し、彼は口頭なのでポスター発表のときに一緒にやって手助けできないので、こうやって事前に練習に付き合ったりするのが主な役割である。(とはいえ、実は@kevinduh さんとイスタンブルで会ってスライドを見てもらったそうなので、自分からさらに付け加えることもほとんどないのだが)

夕方はレセプション。一回会議に参加すると最低3人は知らない人に話しかけることにしているのだが、たまたま話しかけたケンブリッジ大学の人が、自分と同じく以前は科学史と科学哲学を両方していてびっくり。ケンブリッジで計算機科学と哲学のダブルメジャーができるようになったそうで (アメリカではこういうのは普通だが、イギリスでは珍しいことらしい)、興味深い。

あと京大の黒橋研究室の学生さんたちといろいろ話したりする。黒橋研も K 原さんが海外に行き、残ったスタッフががんばっているようである。まあ、助教としては自分の研究以外の仕事が増えてきて、少しずつ研究以外も回せるようになってきたかなと思ったころが卒業時なのかもしれない。