研究者の仕事その一。研究計画書を書く

研究活動スタート支援という研究費の学内〆切が今日だったので、なんとか書き上げて提出。松本研にいる間は最後は松本先生に泣きつけばいい(汗)のだが、自分で研究費を取らないとあまり自由に使えないので、申請することにした。

日本の大学の教員にとって一番なじみが深い研究費というのは科学研究費補助金(略して「科研費」)だと思うが、基本的に出張や備品、消耗品は研究費から出すので、研究費を獲得できなかったら自腹で払わないといけないのである。文系はあまり獲得できる研究費がないので、出張(国内も海外も)は自腹が普通だったり、書籍も研究費だけでは足りないので自腹になったり、そもそもパソコンは研究費で買えないところもあったりするのだが、理系は出張を自腹で行くのは論外、書籍も一定額以下なら消耗品で買えたり(備品になるところもある。備品になると大学の所有物になるので管理が面倒)、パソコンを研究費で買うのは当然だったり(むしろ「なんで買えないの」と不思議がる人のほうが多いだろう)、分野によってかなり違ったりはするのだが。

自分も、学部のころは「科学史・科学哲学研究室」というところにいたのだが、これも研究費の名前は全部「科研費」だったりする。哲学って別に科学じゃないのでは、と思ったりもしたのだが、とにかく名前は「科学研究費補助金」なのである(目的外に不正で流用しているというわけではない)。

研究費の出所は科研費(文部科学省)以外にも経産省総務省など公的機関もたくさんお金を出しているし(医療系なら厚労省科研費というのもある)、公的機関でなくても企業との共同研究や研究支援などいろいろなところが金銭的支援をしてくれる。金銭以外にもアドバイザーがついてくれたりする研究費もあるし、「この研究費はがん治療の目的です」というように、研究計画書を出す段階で目的が決まっているものもある(そういうところにたとえば自分が応募しても当然ながら落ちるだろうが)。

奈良先端大は教員一人当たり(←ここがトリック)科研費獲得件数、金額ともに日本一なので、研究費申請に関してのサポートはかなり手厚いと思う(いや、手厚いからこそ日本一なのかもしれないが)。自分も研究費に出そうと思って、申請に必要な研究者番号というものを申請したところ、翌日には送られてきたのだが、ある国立大学では、大学の事務が慣れていなかったせいで申請してから(前例があまりなかったために)ものすごく時間がかかって、結局〆切に間に合うように研究者番号を発行してくれなかったいう話を聞いたこともある。前も書いたことあるが、「大学教授という仕事」という本

大学教授という仕事

大学教授という仕事

のあとがきに、東大から明治大に移ったら、科研費でパソコンが買えなかった(大学の事務が「それは研究費の目的と違う」と思われて執行してくれなかった)という苦労話が書かれていたが、研究費の受け入れに慣れていないというのは予想以上に手強い問題なのかもしれない。

科研費の研究活動スタート支援に話を戻すと、これ去年までは「若手研究(スタートアップ)」と呼ばれていた(もっと前は奨励研究と呼ばれていたらしいが)もので、昨年までの「スタートアップ」は、研究者番号を取得してから2年以内の若手研究者のみが申請できるという制度で、研究者としてのキャリアを始めて最初の研究を支援しましょう、という研究費だったようで、今年はその色をさらに強くする目的で、去年の11月1日段階で研究者番号を持っていなかった人のみが応募できるように変更されたそうで、もうこうなるとほとんど応募できる人がいないのではないか、と思えるくらいの研究費である。「最初から取りやすいの狙わずに、大きく挑戦してハイリスクハイリターンを狙いなさいよ」という声もあったりなかったりするのだが、ぼちぼち研究していきたいと思っているので……。

前自分でも研究力とは穴埋め問題の作成能力なんて書いたりしたのだが、研究計画書なんかを書いているとそのあたりを如実に意識する。論文を書いているのとほとんど変わらなくて、ただ実験結果のところだけがうまっていないのだが、そこも実験をする前から「こういう結果が出るだろう」というところまで埋まっている、と。(まあ、そこまでの段階で、おもしろいネタかそうでないネタかは決まっている、ということ) 実験したらもっとおもしろいことが分かったりするので、全部が全部こんな感じで進む訳ではないのだが、自分自身数年前研究計画書を書いていたころとはだいぶ意識が変わっているなぁ、と思う。あのころはかなり漫然と書いていたな……。

ちなみに最後に書いたのは日本学術振興会の特別研究員、略して学振の計画書を書いたときで、そのあたりの顛末は学振取るまで(NAIST版)で以前述べた。学振も学内〆切は昨日だったようだが、果たして今年は何人出したのであろうか。大学で研究を続けるつもりなら、研究計画書を書くのは仕事の一部なので、早いうちから慣れておいたほうがなにかとよいように思う。卒業後エンジニアになるつもりなら、必ずしもこれで苦しむ必要はないと思うが。それよりは未踏とか未踏ユースのような、ソフトウェア開発のコンペに出したほうがいいだろう。

ソフトウェア開発のコンペで思い出したが、松本研今年の M1 期待の超新星id:syou6162 さんが Google Summer of Code に採択されたらしい。こうやって世界的なプロジェクトにどんどん採択されて活躍する人が増えていってほしいと思うので、喜ばしいかぎりである(自分が Google Summer of Code を紹介した人は何人かいるのだが、実際に応募したのは彼だけだし、やはり紹介されても応募する人もいればしない人もいるし、する人は違うなと思った)。応募に使ったプロポーザル(英語)まで公開されていて、すばらしい。

未踏(および未踏ユース)も例年通りであれば5月に公募が出るので、ソフトウェア開発系に興味があるなら応募してみては。(奈良先端大の人はだいたい未踏と未踏ユース年間それぞれ1件ずつくらい通っているので、全く縁がないものではない) 開発にせよ研究にせよ、10ページ前後、自分のやりたいことを他人に説明するために書く、というのは大事な経験なので。(通らないときは、テーマ自体がまずい場合もあるが、ほとんどの場合伝え方がまずい)