自分と違う言語経験をたのしむ

昨日までと比べると、優雅な一日。ひたすら溜まった雑用をこなす。メールの返事をひたすら返したり、やることになっているTODOを減らしたり。

夕方、9月のNLP若手の会シンポジウムのためにSkype会議。議事録は同時進行で Google Docs を複数人で共有して書き込むスタイル。勉強会の進捗報告もこういうふうにしてもいいかも。個人的には今年のシンポジウムもさることながら、来年どうするかということを考えてしまうのだが、さすがに気が早い。

人工知能学会論文誌の2012年5月号をようやく読む。なぜかまだ目次がウェブに上がっていない (2012-05-28 追記: 更新していただいた ようである。深謝!) のだが、「ポスト経験主義の言語処理」特集がおもしろい。タイトルを抜粋すると

  • 合理主義と経験主義のはざまで: 辻井潤一
  • 統計的自然言語処理機械学習統計学の未来: 持橋大地
  • 統計的機械翻訳の現場: 渡辺太郎
  • 文法理論に基づく構造化と統計的曖昧性解消による深い構文解析: 宮尾祐介
  • 合理主義言語学における部分構造論理: 戸次大介
  • LFG理論をめぐる言語処理研究の発展: 大熊智子・増市博
  • 意味・談話処理課題の規格化とその諸課題: 飯田龍
  • 言語学と言語処理の共生は可能か?: 黒田航

で、それぞれの方々がご自分の立場から言語処理の現状と今後の方向性について述べてらして、たとえば渡辺さんの記事や宮尾さんの記事はそれぞれチュートリアル的に読むこともでき、勉強になる。人工知能学会に入っている言語処理関係者の方は、今月号だけでも読む価値があると思う。(自分は毎号楽しみにしているという点で特殊であるが)

自分の立ち位置について再度考えてみたりして、いろいろと思いを巡らせる。テキストデータに基づくなにか、なんだろうけど、これといって専門であるかと言うと、なんとも言えない。査読の依頼は最近ほとんど「情報抽出」分野で来るので、そう言われてみればそうか、と納得したりもするのだが、言語 (学) への興味から自然言語処理の研究に足を踏み入れたにしては、遠いところまで来てしまったような気もする。最近おもしろいと思って取り組んでいる第二言語にまつわる諸問題は、割と言語に近いので楽しめるのかもしれない。

ウェブの検索クエリを見たりしていても、やっぱりおもしろいのは「へえ、こんな使い方するんだ!」という創造的な言語の使い方を目にしたときだったりするし、学習者の誤りを見ても原因が分かると「なるほど、気持ちは分かる!」と納得したりするし。自分の内省だけでは到達できない言語の深みに触れると、人間の言語能力ってすごいなぁ、なんでこんな使い方できるんだ、あるいは、なんでこれの意味が人間には分かるんだろうなぁ、なんて思ったりするのである。(自分は常に正しいと思っていると、あまり楽しめないかも?)

こういうふうに実例を見ていろいろ議論したりしたい人は、人文系の言語学だけではなく、工学系の自然言語処理の研究にも向いているかもしれない。奈良先端大のオープンキャンパスは5月26日なので、興味のある学生さんはどうぞ!(←さりげなく広報部会ネット広報担当的宣伝)