毎年恒例の論文読み会。今日は NAACL/ACL 読み会が開催された。自分も一つ紹介したが、いまいちだったのでここにまとめるのもなんだし、止めておこう (汗)
ACL 2010 でベストペーパーを取った Beyond NomBank: A Study of Implicit Arguments for Nominal Predicates は natural language processing blog でも紹介されているように、おもしろい問題である。というか、我々(というか自分は乾先生やryu-i さんに面倒見てもらっていたばかりだが)は5年前から「こういう問題がある」と言ってきているのに、英語でこういう問題をやる人が出てようやく「これはおもしろい問題だ」と言ってもらえる、というのは微妙なところだが、まあそれは措いておこう。誰が言い出したかは自分にとってはあまり興味のある問題ではなく、世の中の人がこういう問題を認識してくれて、それで研究が進んでくれればそれでよい。紹介してくれた @shirayu くん、どうもありがとう。
昨日の habib-a さんの論文紹介も、自分が彼に論文を教えてあげたら masayu-a さんも彼に教えてあげていたようで、この Beyond NomBank も自分が @shirayu くんに読んでみたらどう、と薦めたのである。こういうふうに、最近は自分で読んでいない論文でも、けっこうみんなに薦めてみることにしている。
というのも、(書評を書きたい書きたいと思ってもう1ヶ月くらい経ってしまったが)『「理工系離れ」が経済力を奪う』
- 作者: 今野浩
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2009/04/01
- メディア: 新書
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大学院に入った私は、「統計学輪講」という科目を履修した。この科目は工学部・経済学部・医学部が相互乗り入れで開設していたもので、(中略) ここで私は、工学部のカルチャーと経済学部のカルチャーの違いをたっぷり教えて頂いたのである。
この授業では各学生が順番に、統計学の専門誌に掲載された論文について解説を行い、それについて教授たちが質問する形式で進められるのだが、経済学者は自分がよく読みこんだ論文を学生に発表させ、理解不十分と思われる部分があると質問を浴びせてくる。うまく答えられて当たり前、答えられないときには厳しい叱責が待っている。その間発表者は、顔面蒼白になって叱責に耐えるのである。
一方、工学部の教授はどうかと言えば、まだ自分が読んでいない面白そうな論文を学生に与え、うまく発表すると「そうか、わかった。これで一つ賢くなった。ありがとう」とお礼を言ってくれる。質問にうまく答えられないときは、別の工学部教授が、「それはこういうことでしょう」と助け船を出してくれる。
最初の数回で、私は経済学者の厳しさにはとてもついていけないと感じた。彼らは他人に厳しい。そしてこのバトルを生き抜いた強者が教授となり、再び学生を厳しくしごくのである。(pp.60-61)
確かにこれは自分が工学(情報系)に来て一番強く感じた違いを、はっきり言語化してくれていて、「そうそう!」と思わず膝を叩きたくなる。自分から論文を紹介して「これおもしろいね」と言われることはよくあるし、そう言われるような論文を探して紹介しよう、という気にもなる。
逆に文系の場合典型的には教員はものすごい知識を持っていて、こちらが読むような本や論文はほとんどの場合読んでいるのだが、先に読んでもっといろいろ考えているので、否定的なことばかり言われてやる気がなくなる。きっと、それを乗り越えて、教授よりたくさん読みまくって、教授よりすごい意見を言い続けないといけないのであろう。自分もそれはついていけないと思ったのである。(自分には向いていないという意味で、そういうのが肌に合う人も当然いるだろう)
この本自体が東大の工学部に始まり経済学を経て筑波大(助教授)、東工大(教授)、そして中央大へと「転戦」してきた著者の今でいえば「金融工学」という学問を日本に作ろうとしていた戦いの記録であり、進学振り分けの話から工学部に金融業界から理1(東大の主に工学部に進学するはずの人たち)の学生を狙い撃ちした「人買い」がどのように来てどのような結果になっているのかなんていう話まで赤裸々に書いてあり、大学の運営の内情を知るのにも参考になる(東工大と東大の派閥争いなんてのもね)。
しかしこんなに理1から経済学部に転籍している人が多くなっていたとは思わなかった。2008年には58人が理1から金融工学科に進学しているらしい。自分がいたころは理1から経済学部に行く人なんて年数人いればいいほうだったように思うのだが……。時代は変わったものである。まあ、著者が指摘しているように、文2で入った学生に数学を教えるより、理1で入った学生に経済学を教えるほうが楽だと一部の人が考えたのであろう(このあたり、この本に書いてあった話かどうかあやふやだが)。
この本は、エンジニアを目指す学生にはぜひ読んでもらいたい。もしくは、現在エンジニアである人も、自分が学生であったころといまの学生がどれくらい違うか知るためにも読んでもらえるとありがたい。いまの日本、これでいいのか? と深く考えさせられる1冊である。