- 作者: サミュエルコールマン,Samuel Coleman,岩舘葉子
- 出版社/メーカー: 文一総合出版
- 発売日: 2002/03
- メディア: 単行本
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を読んだ。参与観察というか、実際に日本の大学や研究所に滞在し、そこで働く研究者たちへのインタビューとアンケート調査を元に、日本の科学者像を描いた1冊。著者はアメリカで研究をしていたので、アメリカと比べるとここが違う、といったような指摘がなされているので、非常に興味深い。研究書なのでもちろん論文を参照することが多いのだが、「名探偵コナン」とか「動物のお医者さん」から引用されていたり、このトピックに関心ある人にはお勧めである。
ここで取り上げられているのは生化学がメインなので、その他の分野には当てはまらないことも多いのだが、NAIST みたいな研究所を日本各地に作って研究・業績本位で世界レベルの研究をしよう、という試みが(部分的には成功し、部分的には失敗しているとはいえ)なされている、というケーススタディが載っていて、勇気づけられる。
博士号持った人がアカデミアに職を求めても、ピラミッド構造の上に行くにつれてポジションの空きが少ないのであぶれるという問題は先日も指摘したが、著者が言うようにたとえば科研費などの研究補助金の専属審査員として博士号を取得した(けれども世界レベルの研究をするのに疲れたり、研究を一生するのは無理だと思った)人を活用する、というのは有効な活用方法だと思う。ポスドク後なにをすればいいかという問題も、研究者としてその後身を立てる人以外にも、国家公務員(かそれに準じる待遇)として科学・技術の評価をするキャリアパスというのは用意していいんじゃないかなぁ(同じ分野の人の評価がいちばん信頼できる評価であるし、法学部の学部を出た人に意味も分からず審査されるよりは、分野が違っても博士号を取って研究するつらさを分かっている人に審査されるほうが納得性が高いだろう)。現在は国I受けてそういう道に進む以外は、研究・開発のサポートができるキャリアと行ったら弁理士くらいしかないわけで……。
科研費みたいなお金をばらまく余裕があるうちに、そのうちの数割かでもいいので投資して、こういう評価できる人材の層というものもしっかり育成しておいたほうが長い目で見るとよいのではないかな?
(追記) はてなブックマークのコメントで
技術者の待遇がアレなのは、科学者の相互扶助組織っていうか労働組合っぽいものがないせいだという説を読んだことがあります
と指摘していただいたのだが、そのことも本書に書かれていて、たとえば理化学研究所(理研)は労働組合の参加率が60%と、アメリカやヨーロッパを大きく引き離しているが、だからといって理研の科学者の待遇がよいかと言われると、安定性や仕事のきつさという面ではそうでもないような……(研究費や収入などの面では待遇はよいかもしれないが)。
もっとも理研は最近まで民間の研究所だったし、大学の研究者間では労働組合がなく、なにか不都合があっても泣き寝入りするしかない、というのはそうかもしれない。大企業で新入社員の組合費が月5万とか取られてびっくりしても、それは労働環境を維持・改善するために必要なコストなのかなと。最近の IT 企業では組合がないところもあるようだが、そういうところは(労働環境的に)大丈夫なんだろうか? いまは大丈夫でも今後やばくなりそうだ、とか……