アラフォーで ICL を受けてみた

以下にはウェブ検索エンジンから到達した人のために筆者について書いておくが、現在首都大学東京(2020年に東京都立大学に改称予定)システムデザイン学部情報科学科にて准教授として自然言語処理の研究をしている40歳(手術当時)の大学教員が ICL の手術を受けた日の日記である。

年度末なので、今日は有給休暇を取得。

午前中はスクールゾーンの通行許可証を受け取る。保育園の送り向かえの送りのとき、保育園の近くにあるスクールゾーンに立ち入る必要があるため、3年に1回は申請しておかないといけないのである。

お昼周辺はメール処理。

午後は ICL (Implantable Collamar Lens) の手術。これについては時間のあるときに(いつあるか不明だが)まとめて書きたいのだが、眼内にコンタクトレンズのようなレンズを入れることで視力を矯正するという手術である。ICL の手術についてはICL 公式ページの動画を見るのがもっとも分かりやすいと思うが、手術を受けることを検討する際にもっとも信頼できたのはICL研究会というところの記事で、眼科医で自分自身が ICL を受けた体験談も複数掲載されているので参考になった。

こういう手術はレーシックが有名だが、レーシックは角膜を削ってしまうので不可逆であり、かつレーシックを受けるとドライアイになるので、もともとドライアイの自分は全く受ける気がなかったのだが、ICL は切開するのが 3mm と小さいためドライアイにはならず、切ってレンズを入れたあとは傷は自然に塞がるので可逆(レンズを交換することも可能)ということで、受けようかなと数年考えていたのである(レーシックは軽い近視の人にしか適用できないので、そもそも自分はレーシックだと眼鏡と併用しないといけないという問題もある)。眼内にレンズを入れるという意味では白内障の手術とほぼ同じだが、白内障の手術は濁った水晶体を取り除いてしまうので焦点を調整する能力が失われてしまうのに対し、ICL は水晶体はそのままレンズを埋め込むので、遠くも近くも普通に見える(ただし、裸眼と同じなので、老眼を防ぐことはできず、年齢とともに焦点を合わせる能力は衰えていく)。

そもそも眼鏡で大きな不満は感じていない(お風呂やプールに入るときと散髪くらい?)のになんで受けることにしたのか、ということだが、@rtokuhisa さんが東日本大震災をきっかけに、非常時に眼鏡やコンタクトレンズが必要だと子どもと一緒だと不安、という話をされていたのを覚えていて、確かに自分も視力は両目とも 0.01 以下(-10D)であり、手元 10cm のものしか見えず、自宅で部屋と部屋の移動にも眼鏡が必要で、眼鏡がないと家の中ですら行動できない(子どもはおろか、一人でトイレにも行けない)ので、確かにそうだなと思ったからである。あと、上記の ICL をするなら適応年齢が21歳から45歳で、自分も40歳になって老眼がスタートしてしまい、手術の恩恵を受けるならいましかなかったのである。(下にも書くが、仕事等の都合上、受けるならこのタイミングでないと手術を受けられないだろうというのもあった)

手術1ヶ月前に受けた適合検査の結果、1.5くらいまで出せるらしいのだが、そもそもすでに老眼が始まっていて遠くを見えるようにすると近くが(すぐに)見えなくなる可能性があり、過矯正だと頭痛やめまいも出たりするようなので、1.0前後にしてもらうようにお願いした。60歳でも老眼鏡をかけずにスマホくらいは操作したいのである。これまでも、10歳からずっと眼鏡なのだが、近視が進行したら眼鏡の度数がよく見えるようにと1.5くらいで作り直していたのだが、結局数年でまた作り直しになっていたし、そもそも本を読んだりコンピュータを使ったりと基本的に遠くを見ない生活をしているので、1.0-1.2くらいで眼鏡を作るように変えたら度数の進行が止まった(自分の近視の進行が止まったのは26歳)し、生活スタイルを考慮して矯正度数を決めた方がいいと思う。近視の人はそもそも遠くを見るのに眼鏡をかけていたのが、今度は近くを見るのに眼鏡が必要になるので、若いなら適応できるだろうが、年を取ってくると慣れないだろう。(近視も上記のように20代半ばまでは進行するようなので、この手術を受けて一番いいのは20代半ばから30代半ばの人だと思う。自分のように、40になって老眼が始まってから受けても問題ないけど。)

手術3日前から抗生剤の点眼をしていて、手術当日は午後2時半に病院で、5分に1回くらい点眼をされながら、30分くらいしたら手術。手術自体は全く痛みもなく、眩しかったが特に押されたりしている感覚もなく、「ちょっと目を洗いますねー」「こっち見ててくださいねー」「薬入れますねー」と言われながら、1つの目に1分くらいであっという間に終わり、終わった直後から視力1.0くらい見えていた。手術が終わった時間は午後3時半で、30分くらいして眼圧を測って問題なかったので帰宅。手術前は「一人で帰れますか? 付き添いは不要ですか?」と質問したら笑われて「一人で帰れますよ。みなさんお一人で来られてますよ。」と言われたのだが、確かにこれは一人でも大丈夫な手術(妻に聞いたら「簡単に思うのは、とてもうまい先生だからだよ」と言われたが)。

帰宅は簡単だったのだが、帰宅してからが瞳孔を開く点眼薬のせいで眩しくて、結局この日の夕方は(それなりに仕事があったのだが)何もできず、ひたすら目を閉じて寝ていた。そういえば、手術に適合かどうかの検査も2月末にしているのだが、そのときも瞳孔を開く点眼薬のせいで午後は無茶苦茶眩しかったのを思い出した(その日も、手術の日も、眩しくなるから車は運転しないでくださいと言われていたので、電車とバスを使って帰宅した)。

これから翌日、1週間後、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に診察があるが、1ヶ月が一区切りで、レーシックと違って目を切開するので侵襲度が高く、術中と術後の感染症が最大のリスクなので、1週間は保護メガネの装着(傷は縫わなくても自然に塞がるが、塞がるまでに1週間かかる)と、1ヶ月間は毎日3-4回の点眼が必要。お風呂に入ったり顔を洗ったりすることにも制約があるので、夏に手術を受けたら地獄だろうなと思っていて、仕事の都合上春休みの時期にしか手術が受けられないので、このタイミングで受けられてよかった。

この日記を書いている現時点では手術から1ヶ月を経過して、度数の戻りもなく狙った通りの度数が出ていて、抗生剤の点眼も終わり保護メガネも外しているのだが、仕事によっては1ヶ月の間1日に3回の点眼をするのが難しい人もいると思うので、万人向けの手術じゃないなと思う。あと、傷が塞がるまでの1週間はデスクワークはできるものの、満員電車に乗ったりするのはかなりリスクが高いし、できれば術後1週間は仕事を休むかリモートワークできる体制にしておいたほうがよいと思った(自分は都心と逆向き通勤なので、通勤はそんなに問題ではなかったが)。

ICL の利点

  • 眼鏡が不要になる(現在コンタクトの人、スポーツや体を使う仕事をしている人は楽になる)
  • 問題があった場合は抜去・交換できる
  • (レーシックより)ドライアイにならない
  • (レーシックより)見え方がくっきり

ICL の欠点・リスク

  • (短期的)現在コンタクトの人は適合検査のためにしばらく眼鏡にする必要
  • (短期的)術後の感染症(1週間は保護メガネ、1ヶ月は毎日3回の点眼)
  • (短期的)手術費用(自由診療なので60-70万円程度、医療費控除があるので確定申告すれば1割くらいは返ってくる)
  • (長期的)度数の不適合(近視の戻りというよりは、過矯正)
  • (長期的)夜間のハロ・グレア

自分に関して ICL の満足度は93点かな。マイナス5点は(結局なんともなかったけど)手術後1ヶ月間の行動で感染の危険を防がないといけなかったリスクと、マイナス2点は夜間のハロ・グレアで、そもそも夜中や暗いところで行動しない人はそんなに気にならないだろうが、いま事情があって夜は家の中を暗くしていて、そうするとランプの明かりがまぶしいのである。妻は将来は間接照明にしたいと思っていると言っていたが、それは ICL 手術を受けた人には厳しい。暗い部屋でディスプレイだけつけてコードを書く、みたいな生活をしている人や、夕方~夜に運転することが多い(あるいは日が落ちてから結構出歩く)という人は、デメリットも理解して受けた方がいいだろう。