仕事始め。修論 etc でお疲れの学生さんたちにとおみやげを買ってきたつもりが学生室に2人しかいなかった(学生数だけは40人いるはずなんだが……)。とはいえ全部開封してしまったので、他の研究室の助教さんに配りに行ったりする。
午後は人工知能学会誌2011年1月号を見たり。毎年1月号の「編集委員の今年の抱負」はおもしろい(放談すぎる(笑))ので楽しみにしているのだが、今回は自然言語処理系の人のお話も真面目なのが多く、それはそれでおもしろかった。@ymatsuo さんの「極端を追求する」という記事が放談的な極みでとてもよい。前のほうには少し真面目なことが書いてあるのでそちらもお読みいただけるとよい。
たとえば研究費を獲得するのは研究のプロとしての仕事だから、思い入れも興味もなにも必要ないし、実際自分自身興味ない、というのは衝撃的だが、そういう考え方もあるかとびっくり。あるいは、PageRank をつくるより Google をつくることのほうが偉いと思っているし、研究を産業に応用することに最近は注力しているとか (「偉い」という語の意味はおいとして、好きなこと書く場所だから)。
後者について少し引用すると
「人口知能だが,もうこれは属性生成ということでしかないと思う.もうこれは誰が何と言おうが,属性生成で,転移学習で,ダーウィニズムで,予測性なのだ.そこから言語や身体性やプランニングの話が出てきて,それが直接的に活用できるのが Web でそれから金融なのである.その根拠についてはもう自明すぎて説明する気にもならない.当たり前すぎて,周りがそう思わないのが信じられない.述語論理や意味ネットワークなど,ほんと惜しい! 今のオントロジーもめちゃセンス良い! すごい! で,人工知能学会誌には,もう毎回,神嶌さんに転移学習の特集を組んでほしいくらいだ.で,これは私の信じていることだから,誰も理解しなくてもよいのだ.
という感じで、まぁみなさんこんな感じで好き好きに書いているのでニヤニヤしながら読んでいるわけである。
かたやその転移学習の@shima__shimaさんの抱負「おもてなしシステム」は真面目な記事なのだが、推薦システムは「選び出した商品や情報を利用者に提示し,利用者に意思決定をしてもらうことになる.すると,何を薦めるかより,どう薦めるかが必然的に重要になる.テレビショッピングのようにプレゼンテーションの影響は大きく,また,その推薦システムにおける効果を示す研究や調査結果も多い」という話もなるほどと納得。
日本語入力のうち、特に予測変換なんかは本質的に仮名漢字変換というよりは推薦システムであると個人的には思っているのだが、そういう目で見ると、確かに推薦システムと同じで、何を予測するかではなくどう予測するか(どう見せるか、どう選ばせるか)が重要であり、大規模データを使ってパーソナライズするという方向性も重要である一方、インタフェースも相当重要だなぁ、と思うのである。
あと特集は「チューリングテストを再び考える」というもので、これも興味深い。すでにプログラムレペルではチューリングテストをパスするものは続々と登場しているが、チューリングテストとは何だったのか? チューリングテストと知能の関係とは? ということを再考。
自然言語処理の立場からすると、対話というのはまだまだ厳しい領域ではあるのだが、対話ができたら知能ができたと言えるのか、という問いに関しては、対話は人間の知能の限られた一部に過ぎないから対話ができたくらいで人間並の知能を持っていることの証明には全くならない、というのはそれもそうかと思う。割と応用寄りで対話を考えるか、サイエンス的に考えるかで違うのかなと思ったり。
先日社会的知能発生学研究会に出てから最近心の哲学に興味を持ち、以前@ryouuuehara から献本してもらっていた (ありがとう!) 「心の哲学」
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工学の研究だと「これまでの研究にあったこの問題点に対しこういう手法で解決することを提案する。それによると実際問題が解決され、これくらい精度が上がり、エラー分析したらこういう現象が未解決で残っていることが分かり、次にはこういう展開が考えられる」というようなストーリーが典型例だが、結局のところそれは「人間の知能についてなにが分かったことになるのか」という問題について答えを与えるものではないし、それを目指しているものでもないのだろう (新規性があり、役に立てば)。
工学的なボトムアップに目の前のこれを解決したい、というのも意義あることだが、こういうトップダウンに「知りたいこと、明らかにしたいこと」がある研究ってのもいいなぁ。やっぱり自分に取ってそれはもともと機械翻訳をやりたい、ことばの意味にアプローチしたい、というところから言語に関する研究を考えているので、2言語与えられたときに立ち現れてくるなにか、それはいったいなんなのか、というところなのだと思うが……
あと@tetsuyasakaiさんのインタビューも参考になった。学生のみなさん、ぜひ世界に行きましょう!