20歳のころにポスドク問題を知っていたらどうしていただろうか

読書会、自分の担当分が終わったので、週明けの講習会の資料作成。どうやら3時間近く話すようなので、ちょっと大変(半分くらいは流用できるのだが、半分くらいは一から書かないといけない)。

ポスドクからポストポスドクへという文書を見る。確かにポスドク問題は他人事ではない。

ポスドクは年に二,三百万も出せば喜んで来る」
 この発言は実際に聞いたことがある.二千三百万ではない.高々三百万である.
(中略)
 年間を五百万あたりの給与で生活する.周囲のことはさておくとして,一家三人,まあ四人暮らせぬ数字とは言い難い.好き放題なことに専心していられるならば,それが三百万でも構わぬだろう.(中略)後期は前期に比べて少し減りますとの事前通告があり後期を迎え,二十五万のものが十五万になったという事例もある.四十%を少しと呼ぶのは大胆な日本語の用法である.

こういう状況でも大学に残りたいと思うかどうかだとは思うが、あまり騒ぎすぎてみんな(というか学生)が神経質になるのもどうかとも思う。基本的にこういう状況でもちゃんと成果を出していけるような人が先に外に行く、というのは潰れかけの会社は優秀な人からどんどんいなくなる、というのと同じだろうし。
「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

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というのを読んでいるのだが、講義の最初には成績の基準を言わず、ただできるかぎりのことをしてください、とだけ伝える、という話が印象的である。曰く、これこれを満たしたらAを上げますよ、と言ってしまうと、みんな最小限の努力でそれをクリアしようとしてしまい、それを満たしたらそこから向上しようとする人はほとんどいない、と。

全くその通りで、博士号取得のためには論文何本あればいいとか、助教/准教授/etc になるためには論文何本とか聞いて(というか、Aを取るためにはなにをすればいいか、と質問する学生のように、条件を聞きたがって)、それに最適化しようとするのは自ら自分に限界を課しているようなもので、そんなことは枝葉末節であり、自分がやりたいことをやればいいだけじゃないか、と思う。

別に成績がAだろうがBだろうが単位が出ようが出まいが自分が満足できればいいんじゃないかと思うのだが、成績を全部Aにしないと気が済まなかったり、取れる資格は取らないとだめだと思ったり、なんだかなにをするにしても最短経路でないと嫌、というのは疲れる生き方じゃないかと自分は思うのである(病気になったときとか結婚したときとか子ども産むときとか、世の中最短経路で行けないことはたくさんあるわけで……)。

「世の中問題や解き方が明らかなことは少ないので、分かりやすい講義を取ったりいろいろ教えてくれる先生についていてはだめで、学校を出た後のことを考えると、分かりにくい講義を取り、全然教えてくれない先生に習うべきである」というようなことが書かれていたが、そういう意味では自分の中学高校の教育は正しかったと思う (笑)

なにかハードルを決められてそれに向けて努力するというのは自分が一番苦手とするタイプのこと(だから「これこれしたら何点あげます」みたいに言われると耳を塞ぎたくなる)なので、今後もむしろハードルは無視して自分の基準で動いていることだろうが、ハードルが知りたい人にとっては現在の日本の大学界隈はそうとう気の毒なことになっていると言わざるを得ない。

ちょっと話は逸れるが大学院進学時における高等教育機関間の学生移動-大規模研究型大学で学ぶ理工系修士学生の移動機会と課題-という文書も見てみた。学部と大学院で大学を変わった人に関する、学生と教員に関しての調査なのだが、インタビューの回答がいろいろと考えさせられる。

「〚私が所属する研究室では〛他大生が多いので,研究に対する姿勢に差があり温度 差が生じています(研究室にいる時間や過ごし方など).例えば私大出身者は毎日研究 室に来ること自体初めてだったり,一人で一つのテーマに取り組むことが初めてだっ たりします.」(学生)
「院からの編入生とプロパーとの差別がある。ルールは平等ではあるが、教授の扱い 方には大きく違いがある。私の研究室では、ビジョンがなく、とりあえずDやM2の 下につかせ、M2年夏まで放置された編入生が数多くいる。教授が私を受け入れたの は便利屋の人間を増やしたいためだけなのだと気づいた。こんな状況であれば編入生 を受け入れるべきでない。」(学生)
「現在は、大学や教員個人に対して研究業績を上げるように厳しく求められており、研究 圧力が高まっているため、博士課程学生も研究の『尖兵』として活用していかざるを得な い。」(教員)
「気になるのは、私立の本学で優秀ではない学部卒業生が国立大学の大学院に合格し 進学していること。学部の卒業が危うい学生が日本で最も威信が高いと思われる国立 大学の大学院に合格している例がある。それを見た学生が『大学院』をどう考えるか、 受け入れる側も問題が発生していないか危惧している。」(教員)
「大学院重点化の際に作った専攻には外部から多くの学生が来ており、全然できない 学生が含まれる確率が高い。しかし、外部から来る人の方が意欲の面で優秀であり、 内部進学者に良い刺激を与える。今まで私が指導した数十人の大学院生の中で最も優 秀な学生は高等専門学校から進学した学生だった。」(教員)

そもそも学部がない奈良先端大の場合はここで(学部と大学院で大学を変わった)学生が挙げている不満点のうち8割くらいは存在しないのだが、こういうやり方ってどうやったら他の大学に「輸出」できるんだろうか。もっといろんな大学が真似してほしいと思うのだけど……