貧困大陸アメリカ

旅行の前後に読んでまとめられなかった本の紹介。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

いまアメリカがどういう状況になっているかの解説。アメリカ人というと(日本人や中国人でもそうだと思うが)金持ちが太っているというイメージがあったが、現実はどうやらそのさらに先を行ってしまっているらしく、貧困層であればあるほどファストフード漬け・清涼飲料水漬けにされ、肥満になるということ(ちゃんとした食べ物は高いので富裕層しか買えない。有機野菜を食べたりジムに通って体形を維持したりできるのはリッチな人だけ)。小学校でコーラの無料提供をして、小さいころからコーラを飲むらしい。ハワイの動物園に行ったとき、乳母車に乗せられているくらいの子どもがスプライト飲んでいて目を丸くしたが、そういう事情があるのだなと。「傭兵」も貧しい黒人が来るという時代はもう終わり、白人だろうが黒人だろうが金がない層が生きるための手段としてイラククウェートに派兵されて(劣化ウラン弾の影響で白血病になって帰って)いる、とのこと。保険については SiCKO を以前見たのでそこまで驚かなかったが、アメリカで病気になったら保険に入ってようが入ってまいが死ねってことだよなぁー……。「アメリカでは貧困層が肥満になっている」という事実を知らなかった人は必見。

できそこないの男たち (光文社新書)

できそこないの男たち (光文社新書)

こちらは福岡伸一の新刊。前の「生物と無生物のあいだ」はけっこうおもしろかったので期待していたが、これはないな、と思う。前半部分、自分の大学院-ポスドク時代の話は(個人的な興味もあって)おもしろいのだが、オスはメスから生まれた、みたいな後半の話になるともうグダグダ。早く出版したかったのかもしれないが、もう少し推敲した方がよかったのでは?

Amazon の書評も批判系のは同意できる内容だが、ブログを見ていてなるほどと思った批判は福岡伸一氏:「できそこないの男はいばるな」

基礎的な科学的事実の誤認は、プロでも往々にして起こることです。

「あなたの隣の研究室の分野について、基礎から理解している自信がありますか?」

と問われて、自信を持ってYESと言える研究者はほとんどいません。
(中略)
ですが。


「本書で書きたかったことの核心は『いばるな男!』ということです」

と言われてしまうと、突っ込みたい衝動を抑えられなくなってしまったので書いちゃいます。


「生物的にできそこないなら、いばってはいけない」

という考え方は非常に、非常に危険な考え方ではないでしょうか?

いばっていいかどうかの基準って、生物学的な優位性に依拠してるんでしたっけ?

「男」でなくとも、生物学的に優位ではない人ってたくさんいるじゃないですか。

遺伝病を持って生まれてくる人なんてたくさんいます。

彼らは、「生物的にできそこない」という理由で「いばってはいけない」のですか?

性同一性障害の人なんて、福岡氏の言う「カスタマイズ」にさえ遺伝的には“失敗”している状態である場合もあります。

彼らは男よりも劣位なんでしょうか?

そして

フェミニスト(の一部)は、「男女に生物学的な性差はない!」ことを主張するのに躍起になっています。

「空間認知の差を論じたこのfMRIの実験はおかしい!」とか
「言語能力の差を論じたこの遺伝実験はおかしい!」とか。

しかしですね、そもそも男女差別を撤廃するために「生物学的な性差を否定」しようとするロジック自体がだいぶおかしい。

彼/彼女らは、「もし男女に生物学的な差があるのであれば、差別は許される」ことを暗に認めてしまっているからです。

もしそうでないのなら、早々に生物学論争からは手を引いた方が良いでしょう。

なぜなら、「もし男女に生物学的な差があっても差別は許されない」と信じているなら、生物論争は全く無駄だからです。

「生物学的な差はあるが、しかしその差を論拠にしたこの社会的な隔壁は許されない」と論じるべきなんです。

ということ。福岡伸一氏も「筆が滑った」のかもしれないが、中山前国交大臣の失言なんか笑えないレベルだと思うけど……。