直訳ができてはじめて意訳する

午前中は B2 の情報工学演習(データ構造とアルゴリズム演習)。年明けは全部自分の担当なので、これから5週間は毎日演習である。今年からプログラミング言語Python に変えてみた(去年一昨年は C だった)のだが、大きな問題はないようだ。ちなみにこの授業の分担のもう片方は JavaScriptデザインパターンを教えているらしいので、好き好きにやっているのである。(B1 後期と B2 前期のプログラミング基礎の授業は C 言語)

論文紹介は以下を紹介してもらう。

Amazon Mechanical Turk はいわゆるクラウドソーシングといわれるサービスで、インターネットを通じて仕事を発注・受注できる仕組みであるが、どの言語の人がどれくらいのクオリティの仕事をしているか、というのを翻訳タスクで調べてみた、というお話。この言語であれば MTurk がお勧め、というようなのが具体的に書かれていたりしておもしろい。日本からは発注するのが容易ではない(アメリカ発行のクレジットカードがあればいいようだが、それを立て替え払いにするのがまた大変)ので、我々の研究的には使えないだろうけど……。

研究に関する問題点の一つとして、英語を読む(訳す)ときに構文解析をせずに読む人が英語を読めるようになるためにはどうすればいいのだろうか、悩ましい。単語の意味を辞書で調べて(文法を無視すると、ほとんど bag-of-words)、日本語にしたとき流暢な日本語になるようにつじつまを合わせる、というのは、読んでいることにならないのである。知らない単語があっても構文解析はできて、「この単語は意味は分からないけど、文はこういう意味」と把握するのが、読んでいるということである。

単語をつなぎ合わせている人は、「この文はなんとなくこういう意味」みたいな表現を使いがちだが、構文解析をして読んでいたら、「なんとなく」となることは稀で、構文解析に成功したので、この単語の意味は分からないがそれ以外はこういう意味、あるいは、構文解析に失敗したのでさっぱり意味が分からない、のどちらかになるのではないかと思っている。あるいは、予備校でよく言われていたのは、直訳できない人が「意訳ですが」と言うのはほぼ間違いで、意訳というのは直訳のできる(つまり構文解析のできる)人が、文の構造が分かるので重要ではない情報を落としたり補ったり言い換えたりできるから意訳できるわけで、直訳のできない人ができるものではない(直訳より意訳の方が高度)、ということである。

受験英語はこのあたりのトレーニングをするので、悪くないと思っているのだが、受験英語を勉強していない、あるいはそこまでやらなくても大学に受かって進学してしまった、という人は、大学に入学してから大学院に入るまでに、一度ちゃんと英語の文法を勉強した方がいいと思う。受験英語は無駄に難しい文法をやる、という批判はあるだろうし、日常的にはそんな難しい文法は使わない、というのも事実ではあるが、逆に言うと受験英語をしっかりやっていれば、世の中で見かける英文で、文法が分からずに理解できないということはなくなるのである(単語が分からず理解できない、とか、背景知識がないので理解できない、ということはよくあるが)。

論文紹介を英文読解教室にしたくはないので、英語の基礎勉強会も開催した方がいいのかなぁ、と逡巡する。本来、そういうレベルのことは大学院ではやりたくないのだが、TOEIC 500点以下の人はサーベイに支障をきたすほどの深刻な英語力不足が懸念される(経験上、TOEIC 600点以上の人は英文読解に関する文法上の問題はない。語彙は不足しているが、論文の語彙は決まっているので、すぐに飽和する)ので、致し方ない気もしている。うちの大学院入試、TOEIC 500点以下だと一般入試はほとんど受からないのであまり問題はないのだが、筆記試験免除(推薦入試)だと TOEIC 500点以下の人も入りうるので、そういう人は大学院進学までに TOEIC スコアを100点以上伸ばしてもらう、とか……。

研究会では [twitter:@moguranosenshi] くんが、Liverpool での研究と生活について紹介してくれる。合計100日間行ってきたわけだが、公私ともにたくさん学んできたようで、送り出してよかった。受け入れてくれた [twitter:@danushka] さんにも大感謝! あとはどこかで研究成果が発表できると「終わりよければすべてよし」になるかな :)

海外へのインターンシップや共同研究等、行ってみたいという声を時々聞いて、とても嬉しく思うのであるが、結局ベースとなるのは英語力ではなく研究力(プログラミングや機械学習自然言語処理)であって(上に書いた話と矛盾するようだが、極端な話、研究ができるなら、TOEIC 500点なくてもよい)、力が十分身に付いていない人は送り出すに送り出せないので、自然言語処理の研究を始めて1年目の人は(査読付き国際会議にすでに投稿しているなど、実力があることが明らかな場合を除いて)さすがに無理で、2年目以降の人になりがちで、修士で行きたいなら B4 からうちの研究室にいる人か、あるいは博士後期課程の学生、みたいな感じかなぁ。