哲学と言語処理との橋渡し

今日は科学基礎論学会「自然言語の哲学: 深層学習による機械翻訳と形式意味論」というワークショップを企画していただいたので、提題者として峯島さんと2人で話す。科学基礎論学会自体は会員でもなんでもないのだが、自分が学部までいた駒場科学史・科学哲学出身の方々もたくさん参加されていると聞き、せっかくお誘いいただいたので、足を運んでみようと思ったのであった。ちなみに、同じように科学史・科学哲学関係の学会でも、日本科学哲学会と違って科学基礎論学会の方は元々物理学の人と哲学の人が一緒に始めた集まりだそうで、理系の話が通じる人が多い、という特徴があるらしい。

会場は琉球大学で 、今年の3月くらいにはこの日は泊まりで行こうとしていたのだが、4月になって妻がここが実習期間であることが判明し、日帰りにすることにしたのである。日帰りだと飛行機もあまり選択肢がなく、始発で行って帰宅は23時半、みたいな感じ。たまたま AKB48 のイベント(総選挙?)と重なっていてホテルが無茶苦茶高いと聞いていたし(オープンソースカンファレンスとも被っているらしい)、宿泊しないのは特に気にならないが、先日旅費の書類を準備してくださっていた秘書さんが「これ、もしかして沖縄日帰りですか?!」と驚かれた。(以前は北海道日帰りと広島日帰りをして、どっちも「日帰りはやめた方がいい」と思ったが。)

羽田空港には時間通り着いたものの、どうも機材トラブルがあって出発が1時間遅れ。午前中には会場に着く予定が、午後になってしまった(まあ、到着時刻がちょうどお昼になってしまったので、空港でお昼ご飯を食べたせいでもあるが)。沖縄は新婚旅行(西表島)で来て以来で、新婚旅行のときも帰りに(台風の影響で便が変更になって)那覇でトランジットになったときに来ただけだったので、空港の外に出るのは初めてである。

空港から琉球大学へは直通の高速バスに乗ればすぐ。琉球大学の中は巨大で、キャンパス内に信号があってカルチャーショック。日野キャンパスが全部入りそうな大きさの池があったり、南大沢キャンパスかと思うくらいの広さの森が(キャンパス内に)あったり、すごいところにあるものである。(北大を超える広さの大学は日本で見たことがないが、北大は冬の雪の時期だったら歩いて力尽きて死にそうなレベルに広い)

ワークショップは自分は「自然言語処理における知識とは何か」というお題で深層学習と機械翻訳についてお話ししたが、40分のところを60分話してしまい、若干反省。スライドは40枚くらいにしたのだが、聴衆の反応を見て少し丁寧に話したりしたのがよくなかった気がする。峯島さんの形式意味論の話の方が明らかに聴衆の食いつきがよく、すっかり自分は「工学の人」で、哲学の議論をするには向いていないのだな、ということを再確認する。質疑では、それなりに両方のトークに関するディスカッションができたので、有意義ではあったが……。

最近、自然言語処理で自分にしかできないことって何だろうか、ということを時おり考えていて、(言語)哲学と自然言語処理の接点ではないか、と思ったりしたのだが、問題意識が違いすぎるので、なかなか難しい。峯島さんが「形式意味論の学者だったら、5文も分析したら大学者で、生涯で両手で数えられない数の文を分析する人はいない」というようなことをおっしゃっていて、なるほどな〜、と思ったのであるが、自分は人間には数えられないくらいの数の文を(計算機を使って)処理することに関心があるので、方向性が真逆なのである。

もちろん自分は理論もデータも大事だと思っているが、たくさんある理論のうち、現実のデータを網羅的に、整合性高く説明できる(未知の文を予測できる)理論とそうでない理論がありえて、データによる挑戦を生き延びた理論が健全な理論であると考えている。(ある理論を延命させようとアドホックな修正を加えることで、整合性が取れなくなったり、全体的な解析に悪影響があったりすることがあるので、回帰テストのように修正がいい修正か悪い修正かくらいはちゃんとチェックできる機構がないと、意味のある議論にならない)

ワークショップ終了後、移動しながら色々な人とお話ができ、有益であった(どの方も、直接の面識はなくても、共通の知人が複数いる、という不思議な状態)。この学会は(ちょっと今回は発表の方向性が違った気がするが)また東京開催のときには来てもいいかなと思った。土日に開催されると参加が厳しいという問題があるが……(とはいえ、土日開催の文化のコミュニティと、平日開催の文化のコミュニティがあると、両方のメンバーが参加する場合は土日開催になりがち)。

帰りも飛行機が(羽田上空が混んでいるという理由で)遅れたため、ほぼ日付が変わるくらいの時間に帰宅。北海道日帰りと広島日帰りもきつかったが、沖縄日帰りもきつい(琉球大学は空港から近かったのでいいけど、それでも滞在できたのは3時間弱)。あと、妻の実習中は、平日はもちろん土日でも、朝から晩まで出かけるのはやめようと思った(平日は保育園のお迎えができる時間まで、土日は21時までに家に着くのが限界)。