学会で何するものぞ area chair

朝5時に起きて国際会議の area chair(分野長)業務。時差があるかないかでかなりスムーズさが違う。

国際会議の area chair とは何ぞや? どのようになるのか? という質問を受けたので、少し説明すると、国際会議の開催には色々な業務があり、会場やスポンサーを確保したりする仕事もあるのだが、どの論文を発表させるか、というのを決める仕事がプログラム委員会(program committee)の仕事で、このプログラム委員会を取りまとめるのがプログラム委員長(program chair、または複数人だと program co-chairs)の仕事で、プログラム委員長からそれぞれの分野の取りまとめを依頼されるのが分野長(area chair、area co-chairs)の仕事である。

分野長はその分野(例えば自分なら NLP Applications とか)の専門家が依頼され、過去の開催実績に基づき必要な査読者数を見積もった上で、まずその分野の査読をするプログラム委員(program committee member)を選出・依頼する。論文が投稿されたらプログラム委員に査読を割り当て(プログラム委員にどの論文を読みたいか bidding というのをしてもらうことが最近は主流)、査読状況をモニターし、〆切までに査読をしてもらって、その結果に基づいて最終的にその分野における論文のランキングを作成し、プログラム委員長に返す。clear accept と clear reject はいいのだが、問題はボーダーラインの論文で、これらは色々分野長の間で議論をして決める(最終的な判断をするのはプログラム委員長なので、備考に色々書いておいたりもする)。

論文を書くだけのときは、世の中で見える論文は査読を通って一定の質を保ったものだけで、査読をするようになって自分が読んでいたのは氷山の一角だったことを知り、通る論文と落ちる論文の分離平面が分かって勉強になったように思うが、分野長をするとその分野の全ての論文を目にすることになるので、プログラム委員と比べてもまた違う種類の勉強になる。あと、プログラム委員を依頼する過程で色々な人と知り合えたりするのも、プログラム委員だけのときと違う経験になる。プログラム委員だと、たまたま同じ論文の査読に当たった人のコメントを読めたりやり取りしたりできる(これはこれでとても参考になる)のだが、全体ではないので……

あとどうやったらプログラム委員や分野長を頼まれたりするのですか、と質問されたことがあり、自分は分野長を依頼したことがないのでどのように決まっているのか不明だが(プログラム委員長の知り合いで、その分野に詳しい、と頭に浮かぶ人が依頼されるのだろう)、プログラム委員に関しては割合分かっていて、その国際会議(と同レベル以上の国際会議)にフルペーパーを通したことのある人、が少なくとも要件に入っていると思われるので、査読をしたければ、まずは主要国際会議にフルペーパーを通すことかな、と思ったりする(ショートペーパーだけしか通していない人には依頼しにくいし、フルペーパーの採択経験があってもその国際会議のレベルや査読に何をどれくらい書くのか見当もつかない人には依頼しにくい)。

一度依頼を引き受けると査読者リストに載るのでどんどん依頼が来るし、そのうち「投稿した本数の3倍くらいは査読しなくちゃ」という気分になる(1本あたり3人の査読がつくため)ので、特に査読をすることを目標とするのではなく、地道にクオリティの高い研究をするのがよいのでは、と思っている。

午前中は B3 学生から相談を受ける。2019年4月に日野キャンパスに進学することを検討しているとのことである。視覚障害を持っている学生で、自分としてはぜひうちに来てほしいと思っているのだが、外国人特別入試と社会人特別入試以外特別枠のようなものがあるわけではないし、来る学生を教員側で選べるわけではないので、普通に試験を受けてくれないといけない、というのがネックである。(最近の傾向だと、GPA が3未満の人は一般選抜を受ける必要があり、そうなると TOEIC 650点未満は足切りラインで、数学が普通にできてもたぶん TOEIC 750点くらい必要になりそう)

視覚障害といえば自分が最後に委員長を務めた NLP 若手の会シンポジウムで視覚障害の方にも参加してもらったのが思い出深く、こういう人たちにこそ自然言語処理の技術が行き届くべきだと思っている。そう思った経緯は一言では言い表せないが、一つ挙げると Appleインターンをしていたとき、障害のある人でも普通に働いていたことがあり、技術で克服できる障害は技術で解決できれば、と思うのである。

午後は研究会で IJCNLP(アジア太平洋地区最大の自然言語処理の国際会議)への投稿に向けた進捗報告。結局 M2 全員プラスアルファが投稿しそうである。これまでの経験から、同時に添削できるのは2.5本くらいであることが分かっているので、早めに終えられるものは早めに終えたいのだが、どうだろうか……? そういえば、研究室内の進捗報告は2グループか3グループに分かれてやっているのだが、他のグループの研究の様子が分からないという意見があったので、こうやって全体で進捗を共有するのもいいものかなと思ったりする(とはいえ、別のグループの進捗報告に出てはいけないと言っている訳ではなく、研究室に来て1-2年目の人は、勉強のためにむしろ積極的に聞いてほしいと思っているのではあるが)。

夕方は COLING 2016 読み会。今年度はできる限り全員に論文の読み方を身につけてほしいと思っているので、ディスカッションにも少し力を入れている。去年は(時間もなかったけど)論文紹介への参加を手抜きしたのが悔やまれる。何事も1年遅れくらいで影響が分かるので、少しずつ改善していければと思っている。