他人の論文を捨てよ、自分の論文を書こう

午前中、母語推定タスクのミーティング。かなり試行錯誤をしているのに先行研究を越える知見がなかなか得られないのだが、これは先行研究の人たちが相当いろいろ試してこういうベースラインになっている、ということなのであろう……。なかなかうまく行かないものである。そもそもタスクをうまく分割できなかったため、2週間ぶんくらい作業に出戻りが発生しているのがちょっと痛い。

昼からスプリングセミナーの受付。3日間あるいは2日間、NAISTの受験を考えている人が実習に来るのである。今日は3日間で募集していたテーマの開始日で、10人くらいの受講生が集まる (明日は40人)。

集合時刻前にそこそこ人が集まっていたので、ざっくばらんにいろいろ聞いてみる。10人中いわゆる文系は1人。スプリングセミナーのことを知ったのは先輩からだったり、NAISTを検索したりだとか。

いつも使っている (日常的にログインする) ソーシャルメディアはLINE、TwitterFacebookで、Mixiはアカウントがある程度らしい。自分の感覚ともよく整合するし、学部生が一番使っているソーシャルメディアMixiだというのはどこの情報なんだろうか (NAIST の受験を考えたりしないような学部生に、使っている人が多いのかもしれないが)。

FacebookNAIST情報科学研究科のページ、知っていたのは1人だけで、Twitterの[twitter:@NAIST_IS] アカウントもフォローしているのは2人だけだった。みんなTwitterFacebookもほぼ全員がやっているのに、知名度が低いな〜。まあ、実際自分が受験生だったら、そういうのをフォローして「あ、お前ここ受けるの?」と知られたくないかもしれないし、「いいね!」やフォローされていないからといって、発信した情報が読まれていないわけではないだろう。

やはり誰か知っている人から勧められるのが強いようなので、ここは学生の方々にぜひ後輩に声をかけていただいたり、あるいは声をかけなくていいので、Twitterやブログで楽しい (?) 研究生活について発信してもらうのが一番だと思う。

四月から大学院に進む人へというエントリを読む。一読したときはそうは思わなかったが、何回か (最初は iPhone で、次は iPad で、そしていまは Mac で) 読むと含蓄深い記事である。特に以下の部分。

この修論ですが、出来上がったものはあなたにとって到底満足できない、無残な代物になります。書き上げた直後は何となくハイになってるかもしれませんが、一ヶ月も経って落ち着くと、もう自分の修論のあまりの悲惨な出来栄えに、決して人の目に触れないところに封印してしまいたくなります。

これは当然の帰結です。修士の二年間というのは、真面目に勉強すれば、良い研究とそうでないもの、良い論文とそうでないものを見分ける力を身につけるには十分な時間です。それに対して、自分で良い研究を行い良い論文を書くために必要な知識やスキルを身に付けるためには、もう圧倒的に時間が足りません。全然無理です。というわけで「よく勉強してきた修士二年」というのは、映画『アマデウス』のサリエリみたいな状態になってます。モーツァルトの音楽の良さを認める能力があるのに、自分でそれを創ることはできない、という。だから自分の修論を見ると、それが自分の知っている良い研究論文と比べてあまりにどうしようもない代物であることは痛いほどよくわかるのに、それ以上良くすることもできない、という結果になるのです。

自分も修士論文はこのまま封印したいようなものなのだが (その後、反省から書き直した)、なんでこういうことになるのか自分で分かっていなかったが、この説明で腑に落ちた。たくさん論文を読むと、他人の研究や論文には上から目線で意見を言えるようになるのだが、結局自分で論文を書いてみないとよい論文を書く能力は身に付かないわけで、修士の2年間では全然時間が足りなかった、というわけである。いまでも自分の理想とする研究 (論文) と、実際に外に出せている研究 (論文) には隔たりがあるのだが、修士のころと比べるとだいぶ差は縮んでいる。

自分でちゃんと論文を書かないと、内弁慶になるばかり (他人の研究には詳しいので研究室の中では一目おかれるかもしれないが) なので、適当なところで論文を読むのを止めて書く側に回った方がいいのであろう。書くしんどさを何回か体験すると「口だけ偉そう」という状態から脱却できるのではなかろうか。(過激なことを言いつつ実際に研究もすごい人はいるのだが……)

ここまで書いて思ったが、この逆ももちろんあって、先行研究をちゃんと調べないでオレオレ手法を実装しようとするのもありがち (論文をそもそも読もうとしない人もいるが、論文を読むにしても自分の好きな論文しか読まず、網羅的に読む訓練ができていない人もいて、人それぞれ) で、それも問題。ただ、さすがに博士後期課程に進学する人は、後者よりは前者のほうが多いような気がする。

昼一で言語処理学会年次大会の発表練習セッションその2。松本先生やKevinさんのコメントを聞くとどれも非常に勉強になる。自分でも勉強になるくらいなので、学生の人たちももっと聞いた方がよいと思うのだが、なんだか人が少ない。もったいないなぁ。

合間合間でシステム入れ替えに関する調整。思えば5年リースのこのシステムを自分が使うことはないと思って導入から設定までノータッチだったのだが、結局そのシステムと同時に松本研を去るというのも因果なものである。もう少し関わっていればシステム管理 (たとえばどのサーバのどれがどうバックアップされているとか) も楽だったと思うのだが、これはこれでよく大きな問題もなく有終の美を飾れそうである。