分野外の人と話すと雑談でも大きなヒントになる

朝、病院へ。1週間抗生物質を飲み続けて、ピロリ菌の再検査をするのかと思ったが、お腹はまだ張っているようなので、様子見であと2ヶ月薬を飲み続けましょう、とのことであった。今日は朝早くに家を出必要があり、寒すぎるのでモモヒキを穿いていたのだが (この冬初めて)、「ちょっと失礼しますねー」と看護師さんにズボンを降ろされて見られて恥ずかしかった……。先週胃カメラの説明を受けたとき、目が悪くてほとんど見えなかったので、写真を見せてもらえますか、とお願いすると、胃カメラの機械でないと見られないようで、フロッピーからデータを読み出して見せてもらった。データがフロッピーなのにはびっくりしたが、懇切丁寧にもう一度解説してくれて、大変ありがたかった。

ちなみに自分が通っているのは斎藤医院というところで、NAIST からは車で15分くらいかな? 病院は今風のこぎれいな感じではなく、町のお医者さん、という感じだが、話はいろいろ聞いてくれるし、説明もしてくれるので、納得度は高い。

お昼、T橋と学研奈良登美ヶ丘駅で合流し、駅前のアルションでランチビュッフェ。駅から近くて便利。カフェもあるし、大阪方面から来る人と会うならここで待ち合わせると楽だな……。(京都方面からは行きにくいが)

研究室に移動し、トークの時間までコーヒーでも、と思ったが、あいにく空いている部屋がなく、秘書さんが「松本先生は出張でいらっしゃらないし、松本先生のスペース使いませんか」と教えてくれたので、松本先生の来客用スペースを使わせてもらう。いつもは来客側に坐るので、こちら側に坐るのは初めてだが……。

たまたま今年の研究室の年報があったので、取り出して説明していたら、人数がやっぱり多いね、とか、文系の人も多いね、とか、留学生もけっこういるね、とかの他に、これまでの研究会での発表テーマもじっくり見ていたので、やっぱりこういう紙の年報をしっかり整備して、印刷しておくのも大事なのかなと思った。(ここ数年「電子版も作りませんか」と進言しているのだが、実現していないし、裁断して電子化しようとすると「切るくらいなら返して」とおっしゃるので、紙媒体でしか存在しない)

13:30から "How do cognitive agents handle the tradeoff between speed and accuracy?" というタイトルで、トーク。年末年始は関西にいて、いつかNAISTに遊びに行きたいと思っている、と先日聞いたので、せっかく来るなら見学だけではなく、トークもしていきませんか、とお願いしたのである。これまで雑談で話を聞いたことはあったが、実際どのようなことをしているのかちゃんと聞いていなかったので、楽しみにしていた。スライド資料も公開してくれたようで、ありがたい。

トークは2本立てで、前半は「PならばQ」という命題を人間はどのように認識しているのか?というお話。人間が古典論理に従うなら、上記の命題はPとQの真偽の値に応じて2x2の真理値表を書くことができ、「not P または Q」が導かれるが、人間は必ずしもこの論理に従っていないことが心理実験によって示されているそうだ。じゃあ非論理的なのか?という疑問が湧くのだが、全然そういうことはなくて、「PかつQが真、P かつ not Qは偽、そして not P のときは Q にかかわらず真偽値は null」という論理体系で推論をしているようで、実験的にもそれが示されている、ということである。

なんでこんな議論が大事かというと、たとえば頭がときどき痛くなるとき、原因を疑って「コーヒーを飲んだら頭が痛くなる」という信念の強さは P(頭痛|コーヒーを飲む) という確率でモデル化することができるのだが、この確率の計算に「コーヒーを飲まなかった」という事象の頻度を用いてしまうと、この頻度はものすごく大きな数になってしまうので、変なことになる (より具体的に言うと、人間の主観的な推論による評価実験をすると、相関が低い)。これは、特にPが稀な事象のときに問題になる。

そこで、彼は「コーヒーを飲む」「頭痛がする」「コーヒーを飲んで頭痛がする」という3つの事象の頻度だけで人間の推論モデルを作り、実験的にそれがもっともこれまでに提案されてきた推論モデルより人間の認識との相関が高いことを示したそうである。式としては Jaccard 係数と同じようだが、これが一番人間の主観に近い式だというのは興味深い。そうなると、Jaccard 以外にも Dice 係数はどうなんだろう、とか考えてしまうが……。

トークの後半は上記のような推論を機械学習 (強化学習) にどう使えばいいか、というような話題。タスクとしては multi-armed bandit arm 問題と言って、用語はoverlast さんの記事があったので、ご存知ない方はそちらを参照されたい。

強化学習の設定では、立ち上がりの学習をできるだけ速く、かつ最終的な精度も高くしたい、という2つのときに相反する要求があるのだが、これを解決する一つの方向として、いま選択したスロットで報酬が得られなかったとき、そのスロットの重みを下げるだけではなく、他のスロットの重みを上げるような調整をするといいらしい。スロットの数が少ない場合は必ずしも既存手法よりよくはないが、スロットの数が増えると提案手法のほうがだいぶよくなるそうだ。重みを上げるスロットとしては、まだ試した回数が少ないスロットを選ぶとのことだが、このあたりはまだ改善の余地がありそう。

どのスロットを選択するか問題で、ペアで候補を見るというのはなるほどという感じだし、人間に同じタスクを解かせると、難しい問題では機械より人間のほうがうまくできる、という知見もおもしろい結果である。こういう認知と機械学習の間というのは、工学的にも理学的にもおもしろいものである。

トークのあと、研究室や学生室などをご案内。けっこう研究室によって違うと思うが、いろんな研究室を見て自分の研究室運営を改善していこう、という姿勢に感銘を受ける。自分も他の研究室がどのように運営されているのか、折に触れて見学させてもらおう。

18時から男女共同参画室の忘年会。今年は日程調整が難航したため、こぢんまりとした感じであったが、累計12人ほど集まり (うち3人は子どもで、大人のうち自分を含めた3人が男性)、情報棟の研究室のエレベーターホールで鍋。全部の棟の構造は同じだと思っていたが、物質と情報は細かいところが違うそうで、たとえばエレベーターホールのエアコンの設定パネルは物質だと天井にあって触れないようになっているらしい。(しかし、情報のエアコンの設定パネルは触れるものの、冷暖房温度は集中管理されているので、温度を操作しても変わらないのだとか……)

男女共同参画室の集まりには、助教になってからちょこちょこと参加させてもらっているのだが、ここ数年で一番大きい成果は学内の託児スペースの開設かな。面倒を見てくれる人を斡旋してくれるわけではない (子どもになにかあったときのリスクと維持費を大学が持ちたくない、と拒否された) そうだが、そういうスペースがあるだけでも一歩前進である。松本研もいつもスペースが足りなくて汲々としているし……。

外から見ると、男女共同参画室と言ってあまりなにもしていないじゃないか、と映るかもしれないが、実はいろいろと調査や提言をしていて、実行しようとすると謎の上層部から待ったがかかってほとんど実行できないので、目に見える成果が少ないように見えてしまうそうである。本当は保育園が作れるのが一番大きいと思うし、参画室としてもそれが悲願なのだが、さまざまな反対で実現に至っていないと。維持費とスペースの問題の他にも、実際子どもの件で訴訟沙汰になった大学もあるそうで、確かに二の足を踏む大学が出てもおかしくないだろうが……。とはいえ、日本でも東大を筆頭に学内に保育園のある大学は少なくないし、男女共同参画室の人でも、2人目の子どもの保育園が見つからなかったので引っ越さざるをえなかった、という話を聞くと、やっぱり学内に作ったほうがいいと思う。

9時くらいに寒くなってきたので鍋は終了し、井上先生の居室に移動。井上先生が遅い夏休みを取って先週までホンジュラスに行ってらしたときのマヤの遺跡やカリブ海の写真を見せてもらったりした。「プライベートで旅行に行くのは何十年ぶりで楽しかった〜……あ、プライベートっていうのは仕事でもなく旦那も子どもたちもいないっていう意味で」とおっしゃっていたのが印象的である。自分も子どもができたら20年くらいはそうなるんだろうな〜。

夜も更けてきたので、娘・息子話とか、旦那・嫁話とか、恋バナとか、いろいろ話して楽しかった。人それぞれ、エピソードはあるものである。妻と電話するためにしばらく抜けて戻ってきて、毎日1時間くらい電話している、と言ったら、若いお2人からは「仲がよくてうらやましい。うちなんか1週間に1回メールするかしないかとかなのに。。。」と羨ましがられる一方、結婚生活ベテランのお2人からは「一緒にあまり住んでいないからで、ずっと一緒に住むようになったら変わるよ。子どもができたりとか」とも聞き、そうかもそうでないかも、と思ったりする。

一昨年くらいまではそうだったかもしれないが、最近は夫婦ともども以前より強いつながりを感じるようになり、我々にとっては東日本大震災が一つのターニングポイントだったんじゃないかな、と思う。(震災の前々日まで福島市にいて、地震が多くて怖いからと予定を早めて東京に戻っていた矢先の震災で、震災がなければ週明けには福島に帰るはずだったが、東京は震災直後の大混乱で、結局急遽1ヶ月くらい奈良で過ごすことになったのである。)

あと、松本先生はいま情報基盤センター長をされているのだが、センターでもいつもと変わらずお仕事をされているようで、「小町さん、松本先生のところにいらっしゃるのはとても幸せなことですよ。あんなに嘘がなく真摯で、頭も切れて、言うべきことはきっちり言える人はなかなかいません」と教えていただいて、全くそうだよなぁ、と松本研に来た当時 (8年前) のことを思い出す。特に自分が教員になってからは、大学の教員として育てていただいている、ということを折に触れて実感する (これは松本先生に限ったことではないが) ので、ありがたいことだと感謝の念に堪えない。

日付が変わり、宴もたけなわになってきた (?) ので6人で卓球。ダブルスをしたのだが、誰も正しいルールを知らず、適当に (笑) 最後に卓球したのは学部時代だと思うので、10年くらい前だなぁ。自分は基本的に運動音痴 (特に球技) なのだが、こういうターンがあるのは好きかもしれない。(将棋もお互いの手番が交互に来るので)

最終的には午前3時に解散したが、こんな時間まで他愛ない話をしたり、何も考えず遊んだりするの、本当に久しぶりだなぁ。楽しかった。学生のころはよくあったが、教員になってからは数えるくらいかも……。結婚前、子育て前、子育て中、子育て後、それぞれいろんな立場の研究者の人たちが集まって、自分の分野ではどういう制度がある、うちの夫婦はこうしている、とかちょっとした雑談からいろいろヒントをもらえることがあって、こういう気軽な集まりがもっと盛んになるといいのにな、と思う。研究者固有の問題があるので研究者同士でないと分かり合えないところもある一方、あまり分野が近いと利害関係が発生してややこしかったり、研究科を超えたつながりがあるのはありがたいことである。