研究は5年後10年後に役に立てばよい

朝に京都を出て東京へ。京都は寒い! 思わず着込んでしまったが、逆に東京が暑くてあとで汗をかくことになる。

新幹線の中で作文。参考のため [twitter:@akf] さんの書かれた文を読んでみるが、名文である。自分も後世に残る文が書ければよいのだが、日々流れていく文章を書くことのほうが圧倒的に多い。(たとえばこの日記とか)

インド行きを挟んでしまったが、NAIST 図書館で借りた「困ります、ファインマンさん」を読了。妻がタイトルを見て「タイトルがあやしい」と言っていたのだが、その発想はなかった。確かにライトノベルとかにありそうな感じのタイトルであるが……。

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

このシリーズ、初めて読んだのだが、物理学者のリチャード・ファインマンのエッセイ集で、大学教授が幼少時代や青年時代、あるいは教員になってからの武勇伝 (?) を語る、という感じで、松本先生が昔話をしてくれるような感じで楽しめる。この本で一番長いのはチャレンジャー号の事故の調査委員になっていろいろ調べた顛末の部分で、ワシントンを相手に縦横無尽に飛び回って原因を調べたり、官僚的な人たちを相手に戦ったり、というエピソード満載で、確かにこれは研究者がもっとも嫌なタイプの仕事だろうなぁ、と同情する。

松本先生も、副学長の仕事でいつもぼやいてらっしゃるが、研究や教育と違って裁量があるわけでもなく、あまり重要に思えないようなことを議論したり決めたりするのがしんどいとか。東京にいたほうが研究会やミーティングは活発にできるので、首都圏の大学にいたほうが他の人と連携した研究はしやすいが、逆に学会の委員やら国のなんとか委員会だとかの仕事を頼まれたりすることも多くなるので、地方の国立大学に任期なしの准教授で行って、学内の仕事はほどほどにして自分で研究し、予算を取って東京に頻繁に出張に行くというのもいいんじゃないか、とおっしゃっていた。早いうちに教授になりたいのでなければ、雑用的な仕事は最低限でいいし、自分が手を動かして研究するなら、旧帝大みたいな博士に進学する学生が多いところでなくてもいいだろうし、と。なるほど。しかし問題は任期つきのポストがどんどん増えていることで、任期があるならそんな悠長なことも言っていられないような……。

午後から神保町のロイヤルホストで作業。一息ついていたら [twitter:@stomohide] さんと [twitter:@hillbig] さんが来たので、ちょっと雑談してから NII へ。1時間ほど、いろいろご相談。恐らく我々の役割というのは、@hillbig さんが言っていてハッとしたが、自然言語処理という分野 (コミュニティ) および隣接領域に「新陳代謝」を起こすことであり、それは単に人が入れ替わるということ以上を意味しており、必ずしも前例を踏襲することではないだろう。(これまでの積み重ねを無にすることでもないが)

帰りは @hillbig さんと一緒に本郷三丁目へ。研究は5年後10年後のスパンで考えないといけないが、すぐ使い道が思いつかないような研究が将来企業の危機を救ったりする事例がいくつもあるので、すぐに役立たないからといって研究を切り捨てるべきではない、というようなお話をする。

先日読んだスティーブ・ジョブズの本で、「ゴリラガラス」というものすごく固いガラスを開発していた企業が、せっかく固いガラスを開発したのに開発したときは用途が思いつかず実用化を断念したが、iPhone を作るときに固いガラスが必要になって、アップル社内でいろいろ試したがどうしても固いガラスが作れず、社外に目を向けてその会社に白羽の矢が立った、というのを思い出した (いまは「ゴジラガラス」というさらに固いガラスを作っているそうだ)。

また、iPod の開発段階でも、Rio という MP3 プレイヤーがあったがフラッシュメモリの容量の問題で少ししか曲が入れられなくて、アップルは大容量のストレージを探していたが、なにかの用事で日本に来て東芝だったかどこかの企業を訪問したとき「マイクロドライブ」という小型で大容量のハードディスクを見せてもらい、「せっかく開発したのですが、用途が思いつかないので量産していません」と言われ、「これだ!」と思って iPod に搭載することにしたとか、枚挙にいとまがない。

やっぱり大学にいるからこそできるような、今すぐは使えなくても将来大きな可能性があるような、そんな研究をしたいなと思うのであった。

夕方は本郷三丁目から久しぶりに根津の「ひより」へ。大将も憶えてくれていて、いろいろ話す。帰るとき手荷物を忘れていたのだが、電車に乗る前に電話をくれていたらしい (自分で気がついて戻ったけど)。また用事あるとき、来たいな〜。

夜はメルキュールホテル銀座東京というホテルに宿泊。最近出張で国内宿泊が多く、楽天トラベルをよく使うのだが、ダイレクトメールの登録を外さないとスパムが来ることと、クレジットカードの認証に不安が残ることを除けば、悪くない。このホテル、場所は分かりにくいのだが、地下で有楽町線銀座一丁目駅と連結しており、銀座の目抜き通りとも2ブロックほど離れているだけで、便利。フランス系のホテルだからか、外国人のお客さんが多いようだが、サービスも行き届いており、アメニティや設備も充実しており、大変満足。アップルストアを見たり、銀座のクリスマス前のイルミネーションを見たり。こういうきらびやかな世界もあるんだなぁ。