EMNLP 2012 最終日: 解くべき問題を着実に解いていく

とうとうEMNLP最終日。ホテルの支配人のご夫妻がいろいろとよくしてくれていたので、名残惜しいものがある。

行きしなのタクシーの中でSumaとイリノイ大での様子を聞く。上司が自然言語処理畑の人ではないし、幸いにも自分で獲得した研究費はあるので、個人で好きなことをやらせてもらっている、ということである。ただラボの上司と研究テーマが違うので、PhD学生の面倒を見たりすることはなく、アイデアだけたくさんあって、手伝ってくれる人がいない状態であるということだ。まあ、学生が増えると色々な負荷も上がるし、好きなだけ自分の研究ができる彼女の立場は全然悪くないんじゃないかと思う。


(写真は昼に行ったタイマッサージの店内)

朝最初のセッションはEMNLPのベストペーパー。受賞論文は EMNLP のページ を見ていただきたいが、個人的には2番目の

  • David Hall and Dan Klein. 2012. Training Factored PCFGs with Expectation Propagation. EMNLP.

がおもしろかったかな。解くべき問題は何で、どのような手法でそれを解いたのかが分かりやすくてよかった。基本的には推定するべきパラメータが多すぎて過学習してしまう問題とか、解析がものすごく遅いといった問題があるのだが、複数のコンポーネントに分解して学習することでその問題を克服する、というお話。やらなければならない問題にしっかり取り組んでいる印象である。

午前中は Distributional and Compositional Semantic のセッションに出てみたが、

  • Richard Socher, Brody Huval, Christopher D. Manning and Andrew Y. Ng. 2012. Semantic Compositionality through Recursive Matrix-Vector Spaces. EMNLP.

が文句なしでおもしろい。自分的にはこれがベストペーパーだなぁ。単語の意味を行列で表現する話は数年前から少しずつ出てきているが、その話の正統な発展系。過去のモデルを今回提案するモデルの特殊な場合として含む一般的なモデルの提案となっているのもすばらしい。この分野、2008年から一気に発展しているのだが、その流れについていけていない (実装・追試できていない) のが歯がゆいところである。うむむ……

昼休み、ちょっと抜けて近くのタイマッサージへ。会場から徒歩10分くらいのところ、泊まっているホテルでお勧めされたので、ローカルの人がいいというならよいだろうと思って来たのである。もう第三者の手を借りないと身体の疲れは取れないところまで来ているし……。

受付もマッサージを実際にしてくれる人も両方英語がほとんど通じなかったが、こっちは日本語、向こうは韓国語で喋ってけっこう通じた。まあ、お互い全然意味は分からないのだが、この状況でこれくらいの長さの発話があれば、どういうことを言ってそうか推測して、みたいな。むしろこちらが全く韓国語分からない状況でも普通に韓国語で長文を話しかけてくるところがすごいと思った。でも、人間そういうものなのかもしれない。

休み時間ぎりぎりだったので昼ご飯を食べそびれてしまったが、けっこう身体は楽になったので、よかったかな?

午後は Word Sense Disambiguation → Opinion Mining: Discovering Opinion Expressions と移動。

  • Victor Chahuneau, Kevin Gimpel, Bryan R. Routledge, Lily Scherlis and Noah A. Smith. 2012. Word Salad: Relating Food Prices and Descriptions. EMNLP.

が、タイトルは釣り (笑) だがとてもおもしろかった。(※ちなみに一般的な Word salad とは意味が違う) 内容は、レビューの文章だけからメニューの価格を推定するという新しいタスクで、手法が目新しいわけでもなんでもないのだが、こういうタスクを提案して、いろいろと実験しているところがおもしろいのである。特設ページ も用意されていて、こちらには論文にない (インタラクティブに操作できる) 図が含まれているので、7.1節の図を一度ご覧になることをお勧めする。どういう表現があると価格が高くなるか、そしてどういう表現があるとポジティブ・ネガティブと推定されやすいか、という2次元にレビューの単語を配置したものである。

夕方は松本先生と2人で空港まで。リムジンバスで行こうと思っていたのだが、バス停にいると客引きの運転手が空港まで安く運んでくれるとのことだったので、お願いする。しかし道すがら空港に行く他の人を載せようとしていて (結局誰にも相手にされていなかったが)、あいのりさせないとそりゃこの金額だと足が出るのではないかと思いつつ、あとから人が増えても自分たちが払う金額は同じなのかと思ったりしつつ、不安に思いながらも、無事運んでくれた。松本先生が少し多めに払ってくれたりして、ありがたい。

空港で切手を購入して絵葉書を投函。もう少し切手を購入するお金があったので、追加で書いてさらに投函。10ウォン単位の硬貨は見たことがなかったが、切手は10ウォン単位だったので、少額の硬貨をもらう。消費税が導入されるともっと小銭を使うようになるのかも。

帰りの免税店で妻から頼まれたハンドクリームも入手し (日本円が使えた)、仕事はすべて終えた感がある。飛行機の中で[twitter:@neubig] さんと隣の席だったので喋っていると、[twitter:@miorisagara] さんが前にいらしたようで、すこしお話する。初めてお会いするような気がしていたが、よくよく考えてみると昨年のNLP若手の会シンポジウムのときにちょっとだけ言葉を交わした記憶を思い出した。あのときは忙しかったので、あの数日の記憶がほとんどないのだけど……。

帰ってくるとどっと疲れてすぐに就寝。6日間の学会参加は疲れたが、今回はいろんな人と話すことができて収穫だった。次回は自分でもなにか話してみたいなぁ。