国際会議に参加するインセンティブ

金曜日で本会議が終了し、次に出るべきワークショップは日曜日なので、1日待機日。

朝ご飯をゆっくり食べてスライドでも作るか、とロビーに来ると、松本先生がいたのでしばし歓談。帰国後の研究の進め方について話したりなど。最近は学生の数に対してスタッフの数が少ないので、どのようにするかちょくちょく話しているのだが、話している通りに進んだ試しがないような……

松本先生が帰ってから teruaki-o くんと話していると、[twitter:@tishida] さんが通りがかったので、しばし歓談。人工知能系の学会と自然言語処理系の学会の違い、それぞれどういうところがうまく回っていて、どういうところがよろしくないか、というようなお話をお伺いしたり。人工知能系の会議はどれも AAAI だとか IJCAI みたいなトップ会議を模倣し、プチ AAAI みたいなのが溢れるので、逆にみんな AAAI だとか IJCAI みたいなトップ以外は相手にしないので、2番手となるような国際会議の層がなく、アジア圏の会議などは一気にレベルが下がってしまう、とのこと。

確かに自然言語処理系だと、今回の IJCNLP もクロージングセッションで「我々は ACL とも COLING とも違うし、プチ ACL にならないよう、どのように独自性を確保していくか」というようなスライドがあったし、それぞれ少しずつ国際会議の特徴が違ってよいと思う。ことばは文化に根付いたものなので、言語による違いを尊重したりだとか、言語処理も機械学習や統計的手法が決定的な役割を果たすのは1-2割くらいで、ほとんどは辞書とかコーパスだとかのリソースを整備するというのがクリティカルだし、なにがなんでも有名な国際会議に出さなければ、というような流れではないと思う (し、そうあるべきだとも思う。確かに乱立しすぎ、論文多すぎで、ある程度スクリーニングしないとフォローしきれないのだけれども)。

午後、スライドを作りたかったのだが、会場のインターネット回線があまりに遅過ぎ (メールの受信もままならず、Twitter しか使えない)、断念。とりあえず町に出て絵はがきや切手を買ったり、地元の店に入ってぶらぶら眺めたり。今回は会議のノベルティグッズというかカンファレンスバッグが地元の特産の手作りの刺繍入りで、けっこう好評だったようで、似たようなローカル的なバッグを探したのだが、けっこういい値段 (日本円にすると1,500円以上) する。「洪水に250バーツ (日本円700円くらい) 寄附したらもう1つカンファレンスバッグ差し上げます」というキャンペーンをしていたが、これはいいアイデアだと思った。

毎日夜しかバザールに行っていなかったので気がつかなかったが、けっこう町の顔も違うのね……。ローカルな人しか行かないデパートに行ったりすると、電化製品が並んでいて、やっぱりタイは「アジアの貧困国」というような場所ではなく、普通のアジアの新興国なのだなと思う (日本で買うのとそこまで変わらない値段のパソコンとかが並んでいて、みんなカジュアルに見ているので、購買力もあるのだろう)。


本屋に行くと漫画コーナー的なものがあったりして、なにかと思って開いてみると、恐らく全部ラノベ (注: ライトノベルというジャンルの読み物)……。これは1冊 Y! 社の方々に買うべきかと思ったが、タイ語で書かれていて全く読めなかったので断念。

せっかくの休みなので、タイ古式マッサージに行きたい、と思っていろいろ歩いて回り、地元的なところに行く。1時間お願いしようと思ったが、1時間250バーツ、2時間300バーツ (約800円) と言われたので2時間お願いする。1F部分はフットマッサージで、全身お願いした場合は2Fに案内されるようだ。2Fは12畳くらいで暗くした部屋にマットが合計で6-8枚くらい敷いてあり、着替えてマットの上に寝てマッサージしてもらう。足の裏から下半身、腕、上半身、頭、顔と全部一通りやってもらって2時間。

外でマッサージをしてもらったらぐりぐりされて痛かった、と [twitter:@Wildkatze] くんが言っていたのを思い出したが、全然そんなことはなく、そういえば痛いって言っていたっけな、とあとで思い出したくらい。会議参加していた何人かの人はタイに滞在中何回も通ったと聞いたが、確かにこの値段でこんなやってくれるなら、何回も行きたくなる気持ちはよく分かる。日本でマッサージに行くと、1時間で6,000円くらいはすぐ取られるからな〜。2時間頼んだら1万円以上かかるところ、1/10の値段でやってもらえるとは。もし2時間で800円なら、毎週来てしまいそうである (いまも毎週スーパー銭湯に通って腰痛とか疲労回復しているし)。さすがに毎週タイに来ることはできないが……。

最初自分1人だけしかいなくてちょっと大丈夫かと思ったが、1時間くらいしたら他にも海外の人たちが何人かやってきて、「今年もまた来たのだけど、いまあなたにお願いできる? 無理ならいつでも時間あるので、また明日来るけど」というやりとりがあったり、繁盛しているようである (マッサージが終わってお茶を入れてもらって一息ついているときも新しく人が来ていた)。

夜、[twitter:@masui] さんを囲んでテキスト入力メソッドに関するワークショップのプログラム委員でディナー。いろいろとおもしろいお話をお伺いする。今回招待講演でタイまで来ていただけて本当によかった。入力メソッドに関するインタフェース系の研究は最近あまり進んでいない、というようなお話を聞いたりなどしたが、入力メソッド開発者・研究者的にも、まず評価尺度から決めないといけなくて (たとえば日本語入力だとかな漢字変換の「精度」をどう定義するか、そして予測入力の「精度」や「効率」をどう定量化するか)、BLEU という自動評価尺度の論文が2002年に発表されて、みんなが BLEU を使うようになってから (BLEU に対する批判は根強いが、BLEU で比較することの意味もある) 統計的機械翻訳の研究が一気に進んだように、まず定量的に評価できるスタンダードな尺度 (と共通して比較できるデータセット) が必要なのかなと思う。

深夜、プログラム委員で簡単にミーティング。ワークショップを明日どうするか、来年以降どうするか、そもそも今後入力メソッドの研究・開発をどう盛り上げていくか、などなど。今回は本会議自体もそうだったが、日本人だけで盛り上がっているように見えるのはよくないなぁと思う。かといって、こういう研究に関心が高い人はアジア圏 (含むインド) の人たちだろうから、ヨーロッパでワークショップを開いてもしょうがないし、悩ましいところである。継続的に研究分野・テーマとして続けていくためにも、ワークショップも続けつつ (←継続的にやるのは大変)、ACL や EMNLP といったいわゆるトップカンファレンスにも論文を通しつつ (←これも大変)、ワークショップで発表された論文に言及したりだとか、論文のサーキュレーション (世の中への流通) を地道に上げていく必要があるかなと思った。