午前中はタグづけミーティング。11時から1時間のつもりだったが、議論がいろいろあって(というか事例を見たりして)結局2時間丸々白熱教室していた (笑) 実は自分も修士のときタグ付けしていたのは名詞についてだけなので、述語についていろいろ調べていて最近とても勉強になっている。
自然言語処理で使われている日本語の文法というのは大きく分けて2つあって、一つは JUMAN 辞書が用いている益岡・田窪文法と呼ばれているもので、もう一つは ChaSen/MeCab が広く使っていた IPADic という辞書が準拠する学校文法(橋本文法)がある。「基礎日本語文法」
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そういうわけで、今日はアスペクトについて考察してみたり。うーむ、いろいろと奥が深い。
- 太郎は夜から年賀状を書き出した
- 次郎は結婚式の招待客を全員書き出した
という2つの文があったとして、前者の「書き出した」は「書き始めた」という動作の開始を表しているのに対し、後者の「書き出した」は「順番に書いて列挙した」という(脳内から物理世界への?)「出す」という本来の意味が残っている (つまり、「書く」という動詞に「出す」がついて複合動詞を作るときには曖昧性がある)。
一方、「食べ出した」のような複合動詞だと前者のアスペクト的な意味しか持たないので、曖昧性がない。一般的でない使い方をして後者の意味の解釈が強制されたりする場合もあるだろうが、それはここでは含めないとすると、動詞によって後者の読みもできるクラスが決まっていると思われるが、それはどういう動詞のクラスなのだろうか? (「吐き出す」「取り出す」のように、移動が伴う動作であることは推測されるのだが、「書き出す」というのはなにが移動しているのか微妙なところ)
最近こういう事例について考えているのでなかなか悩ましいところであるが、動詞について調べたり考えたりするのは好きなので、ついつい熱中してしまう。
そういえば、自分が哲学から言語学、そして自然言語処理に足を踏み入れた原因として、antipassive voice (逆受動態) という現象がある。日本語でも英語でも受け身(受動態)はあるので「anti-passive」と聞いた瞬間「なにそれ?」と思ったのだが、みなさんがよく知っている受動態は他動詞で主語を消して目的語を主語にする態(voice)だと思うが、antipassive voice というのは他動詞で目的語を消す (そして主語の格を変える) 態なのである。
なんでこんな操作が存在するのか説明すると能格 (ergative case)言語の話なんかをしないといけないので割愛するが、世の中の言語にはこんな(日本語や英語に慣れた身からすると)不思議なことをする言語があるのか、とびっくりして、言語っておもしろいなぁ、と思ったものである。ちなみに、antipassive がある言語はほとんどオーストラリアのアボリジニーの言語かアメリカ先住民の言語であり、自分がたまたまシドニー大学にいたのでこういうオーストラリアの土着の言語の話を知ったわけで、言語を研究対象として足を踏み入れることになったのは本当に偶然である。
というわけで、述語項構造とか格の交替とかで小町がハァハァ興奮しているのを見たら、そういう経緯があったからだと察してください (笑) 世の中にはいろいろな格があるのだが、自然言語処理で扱おうとすると一気に難しくなりますな……。
単に自分がそうだったからかもしれないが、言語学に興味を持つのは上記のような個別の言語現象に「なになに、そんなことがあるの?」と思ったり、普段から理屈を知らないで使っている言語に理論的背景があったりして「へえ、そうなんだ」と思ったりするからかなと思うのだが、「基礎日本語文法」は参考文献も含め、いろんな文法事項が網羅されているが、淡々と文法事項が書いてあるだけで、これを読んで言語(学)が好きになる人はいないと思うので、言語学に興味のある人はTogetter 「言語学オススメ基本書」などを参照されたし。
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はて、午後は勉強会と来週の学生発表練習で4時間半。ひゃー、久しぶりに疲れましたわ。明日が休日でなかったら息切れしているところだった。ある程度予期していたので明日は出かけない予定にしていたが、明日のTwiFULL第2回大阪言語学ミーティングには行ってみたかったなぁ。中継されるならオンラインで見ますので、どうぞよろしく (笑)