研究はみんなに夢を与えることが大事

実は松井がニューヨークヤンキースを去っていたことを最近まで知らなかったので、

信念を貫く (新潮新書)

信念を貫く (新潮新書)

を読んでみた。ちょうとヤンキースを辞めるかどうか前後のことが赤裸々に書かれている。いろいろな苦悩と葛藤。身体が思うように動かない。そういう時期をどう乗り越えてきたか、というか、どういう気持ちでいたか、のドキュメント。

イチロー・インタビューズを紹介したのだが、それと比べるとスランプに入ったときの対処がかなり違う。一言で言うとイチローは合理主義、松井は情緒主義、みたいな。自分としてはイチローの方に同感。常に向上心を持ち、疑問に思ったことは仮説を立てて自分を被験者として実験する。人柱体質とも言える。松井は上も立てれば仲間も讃え、ファンも大事にし、もちろん不断の努力もあるがすくすくと上に来て、いろんな人に引き立ててもらっている。どちらがいいかは人それぞれであろう。

その松井によると、プロ野球選手は小説家や作家と同じ、夢を売る職業なのだという。それ自身、なにか生活に必須なものを生み出しているわけではないが、ひたむきにプレーをする、高度なゲームをすることで、人々の心を動かし、元気付けることができる。そういう仕事なのだと。そうかもしれない。

思えば工学(自然言語処理)も、世の中の役に立つことをしないと、という側面はあるにはあるが、夢を与える、というのも重要な仕事だと思う。博士号を取る、というのも、もっと学生に夢を与えるほうがいい。

@sesejun さんの tweet で、なるほどな、と思ったものを引用。

「一般向け」「異分野向け」「学生向け」は似ているようで違うと思う。一般向けは世の中を明るくする未来を見せ、異分野向けには近未来を共同で想像できるようにし、学生向けには困難でもやるべき道を示す。それぞれレベルを下げるのとは違うと思う。

御意。夢を語るにしても、相手に合わせた夢があるべきだし、同じ夢を見られる人と夢に向かって努力する、そういう姿勢が大事なのだろう。

今日 erlyn-m さんともう1人の留学生と話したが、NAIST は若い大学だが日本で有数の大学に育っている、今日は自分から博士後期課程でインターンに行ったりとか外部の人と研究をしたりとか、いろんな可能性を聞いて参考になったが、博士号を取るということで世界が開けるということをもっと他の学生にも伝えてほしい、と頼まれた。確かに彼女らの言うことも一理ある。自分も暗いことばかり日記で書きがちだが、特に若い人に向けては困難でもやるべき道、未来を切り開いていける夢を語るべきかと思った。

あともう一つ、オシム前監督の

も読んでみた。細かいサッカーの戦術の話はあまり関心がないし、ワールドカップが終わってから読むと賞味期限が過ぎている感はあったが、プロとしては美しいサッカーをしなければならない、という話が印象に残った。特に何度も書いているのは、アフリカの選手が高額のオファーでいろんなチームから引き抜かれたりして、金に目がくらんでチームとして統制の取れたきれいなゲームをすることができないのは恥ずかしいことだ、という話。

確かにお金を意識するあまり、金がもらえて世界的な強豪チームでプレーできたら他のことなんてどうでもいい、という選手はいろだろう。サッカーじゃなくて仕事でも同じで、世界的に有名な会社で高給取りになれるなら、元いた会社や国なんてどうでもいい、という人もいるだろう。でも、それでいいのか? ということをオシム前監督の話を読んでふと考える。

こう書くと、答えは No ではないかと暗示しているようだが、自分も100%それが悪いと思っているわけではない。7割くらいはそれはよくないと考えるが、3割くらいは、それでも自分の利益も追求できて、数人でも世界的な舞台で揉まれてそこで学んだ技術が本国に還っていくのであれば、それでもいいんじゃないか、と思う。

結局のところ、自分も合理的に考える成分が強いとは思うのだが、日本語とか日本人とか、日本に関する情緒的な愛着をすごく感じるし、日本(語|人)のためになることをしたい、と常々思っている。

日本にいて日本のチームの中にいるのが日本に対する唯一の貢献で、外に行くのは非国民、というような風潮は、断固として排除するべきだと思っている。先日のワールドカップの日本対ウルグアイ戦で最後日本が負けたあと、キャプテンの長谷部選手が(普段はドイツでプレーしているのに)「Jリーグの事を盛り上げてください」と言っていたのを聞いて感動したのだが、たぶんこういうような感じで少しずつ海外に出て行く人を増やし、その一方で国内の足固めをする、そういう両面からの補強が重要なのであって、海外か国内か、という選択は不毛である。自分にできることと言えば、海外の企業(大学)や外資系企業に行こう、というチャレンジャーな人をもっと増やし、彼らに日本の宣伝をしてもらう、ということだと思う。

学生の人、いろいろな選択肢はあると思うが、たとえば 海外大学院留学説明会のような説明会が最近は企画されているし(自分が学部生だったころはなかったので、うらやましい)、ぜひ挑戦してみてはどうだろうか。

海外のトップの大学院では、優秀な学生のほとんどが、学費を免除される上に、生活費を賄うための給料も支給されます。経済的な心配をすることなく、世界中のエリートが集まる最高の環境で勉学に励み、学位を取ることが出来る、そんな素晴らしいチャンスがあることを、少しでも多くの人に知っていただきたいと思っております。

一つの選択肢として、本気で「留学」を考えてみませんか。

(「世界中のエリートが集まる最高の環境」という文句で集まる人ってどうなんだろう、と思ったりはするが……)